2012年5月8日火曜日

出会い 4 - 4 Vol. 1



4月4日 土曜日 快晴
神山は明るい日差しで目が覚めたが 
一瞬ここがどこだか判断できなかった
ベッドの大きさや布団の違い 壁の大きなガラスなど気が付き
昨夜は祥子のマンションに泊まった事を思い出した
祥子は隣にはいなかった
キッチンのほうからお湯が沸いる音がした
しばらくしてコーヒーの香りが漂ってきた
祥子がマグカップを持って神山がいるベッドにやってきた
目を覚ましている神山を見て笑顔で
「ごめんなさい 目を覚ました?」
「いや 明るいので目が覚めてしまったから 今何時ですか」
「まだ7時です 神山さんもコーヒー飲まれますか?」
「うん 頂きます」
祥子は又 キッチンに行った
今朝の祥子は淡いピンクのシルクサテンのガウンを羽織っていた
神山のマグカップを持ってベッドに戻ってきた
「ハイ どうぞお召し上がれ」
そういうと ガウンのポケットから昨日のウイングスを出した
「コーヒーに合うかしら よろしかったら吸ってくださいね」
祥子はカフェ・クレームを取り出し ライターで火をつけた
ぴんと伸ばした人差し指と親指ではさんでふかしていた
「ああ 美味しいわ コーヒーとカフェ・クレームの組み合わせって」
「普段から 朝起きるとふかしているの?」
「ううん お休みの日とか 今朝のように気分がいい時だけですよ」
「羨ましい生活をしていますね」
「そうでもないですよ この様に自由に成れたのも先週からです」
「えっ どう言うことですか?」
「昨夜お話をしたホテルなんですが 結構厳しいのよ 朝食は何時
クリーニングは何曜日など決りごとが多くて 
学生の合宿生活みたいだったの」
「う~ん だけど逆に考えるとその方が便利じゃないですか」
「ええ 私も最初はそう思ったの」
「だけどね 急な出張の時なんかは お洋服をクリーニングに
出していなかったりとかで 慌てた事があったし そうそう
遅い出勤の時には モーニングサービスも頂けないとか、、、」 
「それは 少し大変ですね」
「それだけではなくて もっと嫌な事があったの」
「なんですか 嫌な事って」
「今のように お休みの時にシガーをふかしていたの
それで お昼を食べるのに渋谷まで足を伸ばして 
美味しいラーメンを頂いたの 夕方 部屋に戻ってみると 
メモが置かれていたんです 凄いショックでした」
「誰のメモ」
「部屋を掃除してくれている おばちゃんなんだけど」
【男の人を連れ込んではいけません ふしだらです
ここでのお母さんは私ですから 今後気をつけなさい】
「このようにメモに書かれていたの 
多分このシガーの残り香りで判断したんだと思いますけどね」

祥子は今までの経緯を事細かに神山に報告していた
神山のほうは以前から知っている祥子がそんな悩みを
持っているとは全然気が付かなかった
勿論 その様な話をする機会も無かったし
今まで そんなに逢った記憶も無いから当然といえば当然だった
「だけど 筒井さんに全てを話したんです ホテルは嫌だって
そうしたら 親身になってこのマンションを探してくだっさたの」
「へー 筒井さん やるじゃないですか」
「奥様同伴で 探されてこのマンションに来られた時 奥様が一言
贅沢だわと 言われここの契約は一時保留になったの
だけど後になって 色々考慮するとここが一番私の希望している
イメージに近かったの 勿論 ホテルに居るより少し割高になるけど 
交通費とか色々考えて頂いてここになったそうですよ
あと 筒井さんの思惑の中にはきっと 
上原出店があるので近いので ホテルよりここの方が便利でしょ」
「あっ そうか~ それはそうだよね 
現場で緊急の時は久保さんが直ぐに助けに行けるものね」
「ええ 歩いて5分ですから 本当に大変な時は
直ぐにサポート出来ますよね ここに居ればの話ですけどね
それから本社が終わって帰り際にお手伝いも出来るし」
「なるほど 筒井さん先を読んでここに住まわせたんだね」
「え~ 確かにお家賃は高いかもしれませんけど 
付加価値があるからここになったと思いますよ きっと」
祥子の顔はまた昨日のように暗い影を作っていた
「ごめんなさい 朝からつまらない話をしてしまいました」
「久保さんがそんなに苦労をしているとは知らなかった」
「ええ 近くに色々と相談できる人が居ないので寂しいの」
「筒井さんが居るじゃないですか」
「でも あの人は上司だし 副社長でしょ 
何でもかんでも相談は出来ないわ だって私はチーフでしょ
部下の事を管理できませんなんて 言ったらクビですよ」
「そんなものですかね~ 僕なんて話をしやすいタイプですよ」
「ええ でも嫌なんです」
祥子は上原の店舗になぜ浜野を移動させないのか
不思議でたまらず 筒井を少し怨んでいた
下を向いた祥子の顔から涙が零れ落ちていた
「うん 少し分かったような気がする 浜野さんの件でしょ」
「うん」
祥子は神山の胸の中に泣いて来た
神山はどうしたものかと考えあぐんでいた
「神山さんだけよ こんなに色々と話をしたの」
「うん これからも困った事だけじゃなくて 一杯話してよ」
「だ・か・ら ほらこっちを向いてごらん」
祥子は泣き顔を神山に見せた 目はしっかり神山の目を見ていた
「久保さん がんばって 僕も今日筒井さんと連絡を取ってみるよ」
「ええ どうもありがとうございます」
気を取り直した祥子は少し残っているコーヒーを口に入れた
ごくんと飲むと
「神山さん まだ早いでしょ もう少し横になっていますか?」
「う~ん しばらく横になっていますよ」
「そしたら私も横になろ~ だって神山さんと一緒だと楽しいもん」
「そんな事無いかもしれないよ 仮面を被っているだけかもね、、」
「それでもいいの 私の前では絶対に優しいから」

祥子は横たわっている神山の厚い胸板に頭を乗せてきた
神山はリンスの香りで胸が一杯になった 髪の毛を優しくなで 
「何でも 言ってください 僕でよかったら相談相手になりますよ」
祥子はその言葉を待っていたかのように 神山にかるくキスをした
そして照れるしぐさでまた胸に頭をあずけた
神山は優しくやそしてわらかく髪の毛を梳かすようにして愛撫をした
もう片方の手は背中から腰にかけてなでていた
手が腰の辺りに届くと 祥子はぴっくとおしりを動かした
祥子の手がガウンの上から神山の肉棒を探していた
探し当てたその手は強く握ったり 優しくなでたりして
肉棒を大きくしようとしていた
神山の手も祥子の腰にある性感帯を探り当てていた
ゆっくりと円運動をしていると祥子が可愛らしい声で喘いできた
神山は祥子を仰向けに寝かせながらガウンをはいだ
自身もかぶさる時にガウンを脱ぎ捨てていた
「わっ 嬉しい 朝から神山さんに だいてもらえるなんて」
祥子の目は獲物を離さない妖艶な目つきになっていた
上から覗き込んでいたが 吸い込まれ方から逃げる為に唇を塞いだ
乳房の愛撫とクリトリスの愛撫をしていると
「今朝は それ以上だめ ねっ お願い」
祥子は耐え切れなくなったのか 神山に切に話し出した
言われている事を悟り手を休めたが 
自分のペニスがMAXになっていなかった
少し躊躇したが 彼女のトランクスを下げ自分も脱いだ
ペニスを彼女のクリトリスにこすり付けていると元気になった
「神山さん はやくぅ~ もう大丈夫だから い・れ・て~」
神山は自分の肉棒をゆっくりゆっくりとヴァギナに挿入した
暖かかった いや熱かった
(うわっ~ はいってきた~ やさしい あなた)
ゆっくりとピストンするが 祥子はもうのけぞっている
顔がピンクに染まってきて額には青筋が出てきた
朝日に照らされた祥子の顔は
子供の可愛らしさと大人の艶が混じった複雑な表情だった
ゆっくりからだんだんとスピードアップしていくと
祥子は神山の動きに合わせるようになった
神山は祥子が腰を動かしてくれる分 自分が楽になったが
余裕が出来た分だけ快楽の頂点も足早に近づいてきた
スピードを緩めようとした時
「もうだめ ごめんなさい い・き・ま・すっ」
祥子はその瞬間 腰を上下左右と激しくゆれ動かした
それに併せ神山も快楽の頂点に達した
(神山さんのおちんちん 見た目いじょうに大きかったわ )
神山は祥子と同じように横たわり 乳首を愛撫し始めた
彼女の乳首は硬くなってきた
「ねっ もうだめ これ以上続けると会社に行けなくなってしまうわ
お願いだから もうやめて ねっ」

神山はサイドテーブルの時計を見るともう直ぐ8時だった
「そうだね 久保さんを遅刻させたら大変だものね」
「私 シャワーを浴びてきます いいでしょ」
「うん どうぞお先に」
祥子はガウンで前のほうを押さえて小走りでバスルームに消えた
今日のマジックミラーは何も写さなかった 
バスルームとベッドルームの明るさが一緒だと
マジックミラーの『ガラス』にならなかった
バスルームに向かいドアを回すが開かなかった
「ねえ 一緒に流そうよ だから開けて ドアを」
「だめです 一人で流してください 
私もう直ぐ終わりますから待っていてください お願いします」
「だって 手が届かないところもあるだろう だからさ」
「いえ 届きます 絶対にだめです」
昨夜 今朝とあんなに大胆だったのに 何故と思っていた
「お待たせしました さあどうぞ」 

神山は入れ替わりにバスルームに入った
床を見てみると乱れ箱の中には昨日と今朝のガウンが入っていたが
下穿きのトランクスは下のほうに隠されているみたいだった
神山のガウンもその上に置きバスに行って熱いシャワーを浴びた
少し熱めのお湯がカラダに刺激を与えてくれて気持ちがよかった
出る時躊躇した 着る物が無いのでバスタオルを腰に巻いて出た
「替えの肌着はベッドに置いてありますよ
スタンダードなTシャツと ふ・つ・うのパンツですけど」
「えっ そんな いいですよ 昨日の着た物で」
ベッドの上には良く知っているブランドの下着が
新品のビニール袋に入ったまま置かれていた
「実は父が来た時の為に買って置いたんですよ 
だからスタンダードでしょ ごめんなさい」
Lサイズでちょっと窮屈だったが ガマンして好意に甘えた
すっかり用意してカウンターに行くと 
厚手のトーストとハムエッグが用意されていた
彼女の格好は薄手のコットンで出来たスエット上下を着ていた
「さあ 頂きましょ ねっ か・み・や・まさん」
「はい 頂きます しかし久保さんて作るの早いですよね 凄い」
「そんな事無いわよ 普段作っている簡単なものは手順を
知っているから自然と早く出来ちゃうのね」
神山は厚手のトーストにバターを塗りその上に半熟の卵を乗せた
「いやぁー まいりました 久保さんはマジシャンだ 
早いだけじゃなくて ものすごく美味しいですよ」
神山は右手の人差し指と親指を丸くして彼女にサインを出した
「パンは焼くだけ ハムエッグも焼くだけ でしょ」
「いやいや どこかで習っていたのでしょ 
銀座の行きつけの喫茶店よりぜんぜん美味しい
こんな風に毎日 久保さんの料理を食べられたらいいな~」
「そんな事無いですよ すぐに飽きてしまいますよ きっと」
記念すべき朝食をゆっくり食べることは出来なかった
祥子は少し時間を気にし始めたので 神山は黙って口に運んだ
食べ終わると祥子は食器類を流しに運びすぐに着替えを始めた
神山は朝日の中で着替える祥子を見つめていたが
「なに見ているの だめっ こっちを見たら す・け・べ~」
これ以上何を言われるのか分からなかったので
仕方なくキッチンの流しに入り先ほどの食器を洗った
(綺麗なものは見たいし 普段と違う内面も見てみたいよな)
食器洗いは直ぐに終わった
「ごめんなさい 後で洗うからそのままでよかったのに~
でも ありがとうございます 嬉しいわ 優しいのね」
彼女はもう着替えが済んで化粧を始めたが ルージュを描いただけで
「はい 準備OKよ 神山さんはどうですか」
「ええ 僕も仕度は出来ていますから いいですよ」
シャツの袖を下ろしながらいった
「では いざ出陣!」
今朝の祥子は開き直りなのかそれとも朝の交わりのせいなのか 
兎に角 明るく元気が良かった 
エレベーターを待つ間に
「久保さん お化粧はしなくていいの?」
36歳 久保のお肌を気にしただけではなくこれから
外に出るのにこれでいいのかと思って 思い切り聞いてみた
「ええ 私は普段からお化粧品を使えないんですよ 
アレルギー性なのかしら 肌に合わないと
すぐに荒れてしまうので付けない事にしているの」
「へー 凄い肌の持ち主なんですね 
だって お化粧している人より全然綺麗で輝いているよ」
祥子は少し恥ずかしながら顔を赤らめた
お化粧をしない事の恥ずかしさと 
肌の特異性を褒められた事に対してだった
神山はその赤くなり恥ずかしがっている顔を見逃さなかった
(お化粧をしないで大丈夫なんて よく言った ごめんなさい)
祥子は神山の顔をじーっと見つめ
「本当に綺麗? 輝いている? そう思っていますか?」
何かを訴えるような凛とした目つきで迫ってきた
神山は 言葉に詰まったが 自身思った本心なので言い切った
「本当に輝いていますよ 貴方のような女性を見たことが無い」
祥子は目を赤くなりながらも神山の目を見据えていた
(こんなに美しくて 凛としたところがあり なんという女性だ)
神山はなんとしても自分の女にしたかった
待っていたエレベーターが来た
箱の中でも祥子は神山の目を見つめていた
もしかしたら今朝でお別れかもしれない女に愛をこめてキスをした
グランドフロアに着いたときに
「ねえ 私のこと しょうこ って呼んで下さいね
だって まだ一杯お逢いしたいし 
今夜も色々と作戦会議しなければだめでしょ だから」
祥子は神山の腕に自分の腕を絡ませ出口に向った
二人だけのフロアではハイヒールの音がリズミカルに響いていた 

代々木上原の高級住宅街は朝9時だというのに
静寂で行き交う人もまばらだった
石壁で囲まれた門には黒塗りの車が横付けされ
主人を待つ運転手は無表情でバックミラーを覗いていた
この時間の出勤なので大会社の役員だろうと思われるが
それにしても立派な外車だった
4月の優しい風を受けながら二人は小高い丘を下っていた
腕を組んで離さない祥子は豊かなバストを
神山に押し付けて楽しそうに歩いていた
今日の祥子は濃紺で薄手の上下を着ていた       
季節に合う色を選んでいるせいか 一見平凡に見えるが
シンプルなデザインとアクセサリーで輝いているため 
周りの男も振り返っていた
「では 神山さん 有難うございました」
「私は少し早いので そこでコーヒーを飲みながら作戦を練ります」
「はい 久保さんがんばってくださいね」
「しょうこ ですよ もう ふふふ」
すこし甘えた口調で言いながらクスクス笑ってた
「はい 祥子さん」
「そうしたら会社に着いたら早速 筒井さんにアポをとって見ます
夕方になるかも知れませんが 必ず連絡を入れます」
「はい 吉報をお待ちしていますね」
「今夜の会合場所はその時に決めましょうか」
「そうしてください 私もここの交渉が終わったら
会社に行きますけど 夕方のほうが 落ち着いてお話できますよね」
神山と祥子は今夜また逢える事を約束したためか元気だった
「では」
「はい いってらしゃい」
改札口に行く神山の背に祥子は控えめながら手を振っていた


神山が事務所に入ると
「神山さん おはようございます 
売場から電話が2件と伝言が来ています」
経理を担当している斉藤由香里が近づきながら伝えてくれた
席に座るとなるほど 電話連絡の内容と伝言メモが置いてあった
コーヒーを持ってきてくれた斉藤由香里が
「神山さん 夕べ帰っていないでしょ」
「えっ 分る?」
「分るわよ だって徹夜の時は着替えのシャツに着替えているでしょ
今朝の神山さんは 中途半端だもの」
よく観察してもらうことは別に構わないが 
余計な詮索までは遠慮して欲しかった
「そしたらさ 売場でもサイズ分っているから 
いつものシャツを2枚くらい買ってきて」
「は~い そしたらお昼ご馳走ね ありがとう」
由香里はお昼ご飯の約束事か神山の秘密を知り得た事の
喜びか嬉しそうな顔をしながら神山の社員カードを
片手で振りかざし出て行った
入れ替わりに倉元達也が出勤してきた
「おう おはよう」
「おはようございます」
「なんだ 山ちゃんもこの時間に出勤か」
「ええ 今来たばかりで あっ コーヒー入れますね」
「おう ありがとさん 由香里さんどうしたの 
なんか偉く楽しそうに楽しそうに出て行ったぞ」
「ええ なんか着ているものが中途半端だと言って
買って来てくれると言うものですから」
「うん そうか しかし10時の会議に間に合うのかな」
「はい コーヒー」
「おう ありがと」
倉元達也はここ催事課デザイナーのボスであった 
倉元は今年の春に専門部長に昇格をしたが
人間味に厚く店の中だけではなく下の者からも上の者からも
関係なく支持され デザイン一筋で生きている堅物である
神山が上野店から移動してきた時
色々と親身に相談に乗ってくれたのが倉元だった
神山は銀座店に来た事を不服としていて
自分は上野店で最後まで勤め骨をうずめるつもりで頑張ってきた
いくら銀座が「世界の銀座」であろうと 
自分のデザインを認められようと人事異動は気に食わなかった
就任当時元気のない神山を倉元は銀座のはずれにある居酒屋に誘った
倉元は黙って神山の愚痴を聞いていたが
「その勢いを 銀座にぶつけて見ろよ もっと良くなるぞ銀座店は」
二人は朝まで呑み明かした

神山はデスクに置いてある電話連絡と伝言メモを見た
売場からの電話連絡は2件とも
「ありがとうございます 今朝店長から誉められました」
売場係長と部長からのものだった
伝言メモには「よくやってくれた ご苦労さん」店長からだった
2階の紳士服と3階の婦人服の一角に初夏のステージを展開した
デコレーションだけではなく売り場全体のイメージが
気に入ってもらえたようだった
すぐに倉元に報告した                                    
「山ちゃん良かったな 店長機嫌いいぞ」
倉元は素直に喜んでくれた
店長池上と倉元は同期入社でプライベートでは親交が厚かった
池上店長も神山と同じ時に銀座店に移動してきた
神山はなぜ「お目付け役みたいに俺の後を着いて来るのだ」と感じた
池上自身も名古屋本社からの人事異動には逆らえず戸惑っていた
倉元の話では銀座の購買層が以前と違って年齢層が
幅広くなりそれに対応する為 優れた人材を銀座店に
集中させたと言っていた
神山も池上もこの本社人事の思惑の中で動かされた駒だった

神山はニーナ・ニーナの筒井に電話した
「銀座鈴やの神山です 筒井さんはいらっしゃいますか」
「はいニーナ・ニーナジャパンです 筒井ですね 少々お待ちください」
「やあ 久しぶり 元気ですか 
相変わらず銀座でも良くやっているそうですね
そうそう おめでとう いやーよかったね」
「えっ なにがですか おめでとうって?」
筒井はもう出向部長の件は知っていると思い 挨拶をしたが
今の言葉だとまだ知らされていないと思い ごまかした
「いや 店長によく褒められているだろ それでさ ははは」
「ありがとうございます でもそんな 何も出ないですよ」
二人は挨拶を交わした後 13時に銀座のホテルで合う約束をした
神山は倉元に筒井と昼過ぎから会うことを告げると
「おう わかった 一杯呑んでこい」
斉藤由香里がシャツの袋を持って売り場から帰ってきた
「はい これ」
シャツと社員カードを神山に渡した
「おう 由香里さんおはよう」
「倉元さん おはようございます 今日は早いですね」
「年よりは早く起きて 今日のように天気がいいと動きたくなるのさ
それより 由香里さん 今日の昼飯だけど」
神山と由香里を見ながら
「築地のすし屋に行かないか どうしてもすし食いたくなってさ」
「わあ 嬉しい 私お供します」
「あの 僕はちょっと難しいみたいです」
「おう そうか」 
倉元は神山が外出しやすいように演出してくれた
(倉さん ありがとさんです)
そんな話しをしている時に催事課長の奥村が部屋に戻ってきた

「倉さん 店長すごく喜んでいましたよ
例の2階と3階の飾り付けについて べたほめですよ
やあ 山ちゃんも来ていたのか 店長喜んでいたぜ 
さすが神山君だ イメージどおりだって」
「おはようございます そんなに喜んでもらうと後が怖いですね」
「だけど 良かったじゃないか そうそう奥ちゃん 
今日の昼だけど空いていたら築地の寿司どうかね 久しぶりに」
「そうですね 今日は会議が無いし ちょっと羽を伸ばしますか」

暫くすると10時になり奥村課長がみんなをテーブルに集めた
「すんません 忙しいところ しかし市川君がまだ来ていないな」
由香里が
「課長 先に進めましょうよ 事後でも構わないでしょ」
奥村は暫く考えて
「うん そうしましょう 実はこの度」
この時 催事課の部屋に市川が申し訳なさそうに入ってきた
「おお 市川君 少し遅いぞ まあ話は後だ こっちに来てくれ
これで全員集まったね では最初から」

奥村はニーナ・ニーナジャパンの上原出店に伴う神山課長の
出向人事を正式に発表した
「山ちゃん 4月6日の9時15分に銀座店秘書課で人事発令が
行われるので 遅刻しないように いいね」
「っていうと 上原が終わったら また普通の課長ですか?」
「ははは それは分からないよ 本社が決める事だから」
由香里がニコニコしながら
「よかったわね 部長さん」
「しかし 課長部長だろ あんまり嬉しくないよ」
人事の話がひと段落すると 奥村はデザイナー3人を呼び
「あちらの会議室まで お願いします」
4人は会議室に入ると奥村が
「山ちゃん 実は上原の出店だけではなく 御殿場も見て欲しい」
「えっ だってまだ来秋か次の春でしょ それだって分からないし」
「うん でもその方がいいんだよ 御殿場は最初から
プロジェクトに入ってもらいたいんだ」
「そうすると 銀座はどうするんですか?」
「うん そのために山ちゃんの 新しい事務所兼住居を借りた」
「えっ 事務所兼住居、、、横浜はどうするんですか」
「うん そこだが行ったり来たりになるな 悪いけれど」
「えっー そんな、、、でも決まった事で 進んでいるんですよね」
「うん 進んでいる」
神山は突然の出来事にパニックになったが 気を落ち着かせ
「新しい処はどこですか?」
「上原の現場近くだよ 歩いても5分のところだ」
神山は内心喜んだ
(よし これで祥子さんと毎日逢えるぞー)
「それでそこへ行くのはいつからですか?」
「うん 直ぐにでも行って貰いたいんだ しかし山ちゃん
悪いけれど 中元の飾りつけは 何とか手を貸して欲しいんだ」
「勿論大丈夫ですよ そんな手を貸すなんて ここの人間ですよ」
「うん あんがとさん ところで翔」
「はい」
「どうだ 少しは勉強したか?」
「ええ でも先輩がいないと体が足りません」
「おいおい いまからそんな弱音を吐いてどうする」
「おう 翔 弱音は後で吐けよ 今は頑張るしかないだろ
評価は別として実際に出来たじゃないか
一昨年の事はそれとして これから失敗しないようにすればいい」
「はい」
杉田は神山が来る前のお歳暮とお正月飾りを任されたが
肝心なところで デザイン力不足が指摘さて 苦い思いをした
「なあ翔 分からない事があったら何でも聞けよ いいな」
「はい 先輩 分かりました」
「それで 対外的にも御殿場の話はオフレコです いいですね」
全員が頷くと奥村は
「さあ これで円満に解決したね 山ちゃん 後でニーナ・ニーナの
筒井さんと連絡を取って 入居先のことを確認 それと
アルタの佐藤部長と連絡を取って 荷物の運搬などを確認な」
「はい 分かりました」
神山はこれで先ほど筒井が『おめでとう』と言った訳が分かった





次回は5月13日掲載です
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