って事は 知らなかったのは自分だけと気が付き
先日からの動きは 誰でもない自分だったのだと がっかりした
部屋を出て席に戻る時 神山は翔を捕まえて
「翔 この事を知ったのは いつだよ」
「ええ 昨日ですよ ほんと僕もびっくりですよ」
「なあ あんなに心配したのが 自分だもんなー」
「よかったですね 部長でしょ いいなぁー」
「ははは 戻ってくれば課長だよ」
「いいじゃないですか それでも」
「ははは そうだな」
すれ違いに市川が奥村の待つ会議室に呼ばれ入っていった
神山は早速 アルタの佐藤部長に電話をした
「銀座の神山ですが 佐藤部長をお願いします」
「佐藤です おめでとうございます」
「ははは 参ったなぁー おはようございます
今 課長から聞きました こちらこそお願いします」
「いやぁー 山ちゃんが来てくれたら安心だよ 助かったよ
本当にお礼を申し上げます ありがとう」
「いやいや そんな ところで引越しとか 荷物を運ぶとか
そんな話が出ていると言うのですが」
「うん 備品類を横浜から運ぶんだよ それでね折角だから
山ちゃんの荷物も 一緒に運びましょうって段取りです」
「はぁー 凄いですね 本人が知らない間に そこまで進んで」
「まあ山ちゃんの事だから 断るわけは無いし それで進めたのさ」
「そうしたら いつですか」
「明日のお昼ごろは如何ですか?」
「もう 如何ですかじゃなくて もう決まっているんでしょ もう」
「ははは その通り なのでお電話をしてお昼に横浜が伺いますよ」
「はい そうするととりあえずの物しか 運べないですね」
「今回はそうですが これからは横浜を使ってください」
「はい では明日お電話を待っています」
神山はアルタとの連絡を終えると ニーナ・ニーナの筒井に電話をした
「参りましたよ 知らないところ話が進んでいました」
「ははは これでようやく おめでとうと言えるね
先ほどは その事だと思って 先走りしてしまったよ」
「そうだったんですか いや僕のほうは別件なんですよ
その件は後でお話しますが 上原のどこですか?」
「うん しゃれた小さなマンションだよ それでお昼に会うとき
地図とカードキーを渡すよ」
「はい ありがとうございます」
「現場にも近いし 銀座にも近いし 非常に便利なところだよ」
「ええ 銀座の現場にすぐに入れると聞きました」
「ははは まあ 最初は仕方ないさ 上原の場合多少図面は
進んでいるんだよ でもそこからが山ちゃんの力が欲しいんだ」
「はい 喜んで参加させて頂きますよ で オープンはいつですか」
「うん 5月の半ばか6月の初めですね お願いしますね」
「はい ではお昼に」
12時30分を過ぎた時 倉元が奥村と由香里を連れて食事に行った
筒井との待ち合わせのホテルは
ここから歩いて5分のところに在るのでゆっくりと外出した
そのホテルの2階は軽食から本格的な食事も出来るところだった
周りを見渡せばビジネスマン等の打ち合わせや
濃厚な化粧をした婦人達が多かった
近くに銀座歌舞伎座があるせいか
ここは何時もお化粧の匂いが漂っているところだった
13時少し前に筒井がエスカレーターで上がって来るのが見えた
周りを見渡し探している様子なので手を上げて答えた
「やあ 暫く 部長 おめでとう」
「いえいえ まだです それよりすみません お忙しいところ」
「そんなに 忙しくないよ ひまで困っているよ」
「ところで どうする 昼飯」
「う~ん 実はまだなんですよ」
「そうか 何食べようか 今日はご馳走するよ」
「えっ 本当ですか ご馳走様です」
「そうしたら えびかつカレーランチにしてもいいですか」
「うん それ2人前頼もう それと生ビール2つ」
神山は言われた通りにウエイターに伝えると
すぐに生ビールとおつまみのチーズがきた
神山はカレーセットを少し後に延ばす事を伝えた
「そうそう 呑む前にこれを渡しておくよ はいこれ」
筒井は神山に上原の入居先地図とカードキーを渡した
神山は地図を見ると 祥子のマンションと分かったが
ここはまだ知らない事にして 話を聞こうと思った
「随分と高級住宅街じゃないですか ここら辺って」
「うん 上原の店舗の事を第一に考えると ここが一番なんだ
それから そのうちに分かるから 話しておくけれど
ほらチーフの久保祥子君も ここに住んでいるんだよ」
「あの久保さんがですか そうすると連絡も密に出来ますね」
「うん そうなんだよ」
神山は嬉しかったが 喜びを隠して聞いた
「筒井さん 家賃はどうなっているんですか?」
「そうか まだ聞いていなんだね 上原はニーナ・ニーナ持ち
横浜の家賃はアルタさんが 負担してくれる事に決定しているよ」
神山はこれで少し纏まった貯金が出来ると喜んだ
「それでこのカードキーの暗証番号だけれど
社員カードと一緒の6桁にしてあるよ」
「はい ありがとうございます」
神山はこれで祥子と密に連絡が取れるだけじゃなく
行き来し美味しい料理も食べられると 喜んだ
「筒井さん 昨夜久保さんと一緒になりまして相談を受けました」
「そうか 昨夜は上野公園でお花見だったんだよ」
「僕が帰ろうとした時にばったりとお会いして
スタッフと呑みに行ったんですが 皆が帰った後
随分と上原のスタッフの件で悩んでいるみたいでした」
「そうか~ 君はどう思う 林君と浜野君を観て」
「僕自身は 浜野さんの方が明るくて品格があり
あの場所にはハマリ役だと思いますが、、、」
「う~ん 実際のところ僕自身も困っているのだよ
実は 林君があの店には私が向いている
上原に行かせてもらえないのなら会社を辞めると言い出したんだ」
「随分と 筒井さんを困らせますね」
「そこで 久保君には悪いけど
林君をあそこに行かせると伝えてあるのだが 困ったものだ」
神山はなぜ林が上原に固守しているのか聞いてみた
「思い当たるのは 売上に対してのインセンティブに在るみたいだ
銀座店は売上の何パーセントかを地場代として引かれるわけだが
上原は地代が固定なので売上がよければいいほど
それだけ余計にインセンティブが入ってくる仕組みさ」
「恐ろしいですね女は そこまでして自分がなりたいか ですよね」
「困ったものだ 本当にいい手がないか困っていたところなんだよ」
筒井は先ほどから困った困ったを連発していたが
何か妙案があるらしく 真に困った様子でもなかった
「実は神山君 内緒だけどな 絶対内緒だぞ」
「ええ なんですか」
「御殿場のアウトレットが出来ることを知っているかね」
「ええ 新聞などのメディアで騒がれていますよね」
「うん 後1年後位で立ち上がる所なんだけどね
そこの準備で林君に行ってもらう事を考えているのだよ」
「そうすると 銀座店はどうなるんですか」
「今回 神山君が銀座に来ているように
銀座は様変わりしようとしているんだ
そこで 本社にいる人間を 上原で少し鍛えてから
銀座の店長にしようと考えているのだ」
筒井は自分の考えを神山に話した
林が銀座にいる時に新人1名を育てる
その時 同時進行で上原でも浜野が新人を育てる
しかし上原で育てる新人は銀座店の店長で任せられるように
育て上げなければいけなかった
「えっ いっぺんに2名も銀座店に来るのですか 新しい子が」
「うん 実際問題販売実績がないと 任せることが出来ないだろな」
「いいお考えだと思いますが 本社事務がお手すきにならないですか」
「うん 僕が困っているのはそこなんだよ」
「久保君のようなスーパーウーマンがもう一人いてくれれば
本当に助かるのだが どうしたものか困っているんだ、、、」
筒井は手薄になる本社スタッフをどのように 切り回したらよいか
考えあぐんでいた
生ビールを2杯ずつ飲干した後
二人は無口でえびかつカレーセットを口に運んだ
食後のコーヒーが出てきた時
「神山君 これからどうする 部屋にかえるの?」
「いいえ 筒井さんの事だからアルコールと決まっていますから
黒板に 青山打ち合わせ:直帰 って書いてきました」
「うん さすがだね ところで倉さんはどうしている?」
「ええ 先ほども倉さんに助け舟を出してもらったんですよ」
「では借りが出来たわけだ」
「ええ 倉さんが 宜しくって言ったましたよ」
筒井と神山はこれからどこに行くか決めかねていた
まだ14時30分を過ぎたばかりで 中途半端な時間ではあった
ホテルの外に出ると気持ちよかった
お化粧の匂いに慣れていたせいか
外の空気が美味しかった 筒井も同感だった
日はまだ高いが 少し西に傾いてきていた
ここは銀座でも中央通りと昭和通の中間に位置していた
ビール瓶をバンに積んでこれから配達なのだろうか昼の部が終り
今度は夜の準備をするために皆せわしなく動いていた
オフィスビルには社員食堂を自前で持っている所はめったにない
百貨店のように厨房施設があり調理人がいて
従業員が多いところなどに限られてくる
そのためお昼時はどこの飲食店でも満員御礼のところが多い
行列の出来るお店には制服姿やワイシャツ姿などのサラリーマンや
観光目的の外国人などの姿をよく見かける
二人が向かっている所はそんな慌しい世界を抜け出したところだった
築地にある寿司屋いせ丸は朝早くから夜遅い時間まで開いていて
筒井も倉元に教えてもらったと言っていた
普通仕込などの関係でお昼休みの時間を設けているが
このお店は暖簾がしまわれていても一見でないかぎり入れてくれた
神山は部屋の倉元に電話をした
「今日はありがとうございます 今筒井さんと一緒です」
「おう 筒井君は元気か?」
「ええ 電話変わりましょうか?」
「うん 頼む」
「はい 筒井さん 倉元さんです」
筒井は神山から携帯電話を受け取り倉元と挨拶をかわしていた
暫く話し込んだ後 通話が切断された状態で神山に戻された
「倉さんからだけど 今ちょっと前に店長が部屋に来て
神山君を探していたそうだ」
「えっ なんだろう?」
「今朝の御礼を言いに来たそうだ」
「ああ あの件ですね そんなに誉められる事していないですよ」
「店長にとっては 君を銀座に移動させた事が当たって
嬉しいのではないかな 分かる気がするよ
それから 俺も青山に行きたいなって言って来たので
これから 築地のいせ丸に行くところですと言っておいた」
「はあ 倉さんにばればれですね 読まれていますね」
倉元の話しをしながら築地に着いた
寿司屋に入ると歌舞伎座帰りの女性客が賑わっていて
筒井たちは奥の座敷に招かれた
この時間に入ると 黙っていても瓶ビールとつまみが出てきた
二人はお互いのグラスにビールを注いだ
「それでは 改めて乾杯 部長昇進おめでとう」
「はい ありがとうございます 乾杯」
「しかしこの店に来ると落ち着くね」
「そうですね 特にこの奥の座敷に来たときは
都会のど真ん中銀座では無いみたいですね 静かでいいです」
銀座の雑多から逃れるにはいい隠れ場だった
壁には丸窓があり格子の障子を開くと竹林が見渡せた
築地にこのような施しをして持成している店は殆ど無いだろう
二人が瓶ビールを空けると見計らったように 新しいビールが来た
このような持成しを受けられる座敷は全部で 八部屋ほどあるが
竹林を眺められる部屋はこの部屋を入れて三部屋しかない
だから今日はいいタイミングで来たみたいだった
「筒井さん 上原の交渉はどうなりましたか」
「なんだ 知っていたのか」
「ええ 久保さんからお聞きしましたよ
それに上原出店計画も筒井さんの肝いりだと」
「うん 結局はショバ代を少し上乗せする事で合意したよ」
「おめでとうございます」
「青山を出る前に 久保君から電話があり
賃貸料を3%上乗せすればOKです どうしますかとの連絡が入り
GOサインを出した」
「良かったですね 計画が進んで」
「後は 人事異動のタイミングなんだがね 問題は」
「と言うと 林さんですか?」
「うん 林君に辞められると困るので
早急に人事異動をしなければいけないのだが、、、」
筒井はまた困った顔になった
「ほら林君は知っている通り 少し男癖が悪いところがあるだろ」
「はい 噂にはよく耳にします」
「既婚者だからと言って 旦那を御殿場まで連れては行かないと
思うのだよ それに旦那はこちらでの仕事だからね」
林恵美の旦那 林隆は東京を中心とした什器リース会社の社員で
百貨店やスーパーなど催事替えの時に什器類の入れ替えをしている
少人数の会社なので運転手から全てを任されていた
当然だが恵美との会話は少なくなる
「今 探しているのは 林君の面倒を見れる男を捜しているのだよ」
「えっ そんな~」
「だって よく考えたまえ 林君を一人にしたらどうなると思う
それこそ 御殿場計画はお釈迦になってしまうではないか」
「それはそうですけど しかし、、」
「企業を発展させるには ある程度犠牲が必要になって来るのだよ」
筒井は配下にある駒の情報を正確に把握していた
久保祥子のマンションに付いてもきちんと計算ずくであった
新店舗となればいくら浜野由貴が頑張ってもなかなか売上は伸びない
そこで久保を近くのマンションに住まわせれば
浜野の面倒を見ながら一人前に育て上げると確信していた
近くに居れば朝の準備や夜のミーティングなども
スムーズに行われるだろうと考えていた
神山は筒井の考え方には全面的には賛成できないが
企業として生き残るためには仕方の無い部分もあると考えていた
会社を成長させるには色々なファクターが有るが
筒井の先を読む目にはいつも敬服した
神山は化粧室に行くときに時計を見たら17時を指していた
座敷に戻る時 祥子の連絡をどのようにしようか考えていた
多分 賃貸借などの契約が取れ喜んでいる顔が浮かぶが
この状況だと電話出来なかった
襖を開けたら新しいおつまみが来ていて づけも置かれていた
席に座り筒井にこのづけを聞こうかと思ったときに襖が開いた
倉元が入ってきた
「おう やっているな」
神山がきょとんとしていると
「山ちゃん 匂いで分るのさ」
筒井と倉元は昼間の電話でここで会う事を約束していたのだ
倉元が入ってきたので神山は自分の座布団を下座に移し
新しい座布団を上座に用意した
「今日は 店長の機嫌がいいから出てきた」
「よかったね 神山君」
筒井が満面の笑顔で言ってくれた
「お祝いだ」
神山は倉元にビールを注いだ
倉元と筒井は神山を誉めていたが自身はお尻がかゆかった
神山はこの二人の呑んべいと付き合うとここを出るタイミングが
無くなってしまうので
「倉元さん 実はもう一件打ち合わせが入っているので
ここで失礼させて頂きます」
「おう ご苦労さん」
「筒井さん 今日はご馳走様でした 色々と勉強しました」
「いやー 元気で頑張ってくれよ 銀座も頼んだぞ」
「はい 出来る限りがんばります」
神山は二人に礼をし座敷を後にした
外は赤く 夕焼けが銀座のビルを赤くしていた
神山は祥子に連絡を取った
「久保さん 神山です 遅くなってすみません」
「おつかれさまです 今 どちらに居るの?」
「銀座です 今まで筒井さんと打ち合わせをしていました」
「どうもすみません 私の為に大変でしたね
こんな時間までごめんなさい」
「いえそんな事ないですよ どこで待ち合わせしますか」
「神山さんがご存知のところでいいですよ」
「そうしたら 表参道の有名なうなぎ屋おおたではどうですか?」
「ええ いいですよ 私も1時間くらいで出られますので
先にお店に入っていてください」
「はい 吉報をお知らせしますよ」
「わあ 嬉しい 待っていてくださいね」
神山は以前ニーナ・ニーナの新作発表会の時
祥子に教えて貰った店に行く事にした
地下鉄まで歩くのが億劫なのと乗り継ぎが嫌だったので
タクシーで向かう事にした
東銀座の歌舞伎座に来るとタクシーが客を待って列をなしていた
銀座から赤坂を抜けて表参道についた時6時を少し前だった
繁盛しているのだろう 店のたたずまい脇にある緋毛氈の長いすに
数人が座り順番を待っていた
神山は予約を入れておいたので2階にある畳の個室に案内された
まだ祥子は来ていなかった
神山は生ビールと蒲焼のおつまみをたのんだ
2階建てのこの店は1階がテーブル席と少人数の個室で
2階は畳の大部屋と個室になっている
並んで順番待ちをし通される所は1階のテーブル席で
そこが満員になると2階の畳の大部屋に通される
畳の個室は運良くないとほとんど利用できない場所であった
生ビールと枝豆が出て来たときに祥子が現れた
「こんばんわ お待たせしました」
今朝 会っているのに暫くぶりで逢ったように錯覚を覚えていた
今夜の祥子はいつに無く輝いて見えたからだ
店舗の契約が取れた事の喜びからきているのか 明るい表情だった
「私 ここの生ゆばさしを食べたいな おいしいよ お勧めです」
「そしたら 追加しよう」
部屋の隅に置いてある電話で追加注文をした
程なく祥子の生ビールとつまみが来た
「契約が取れて おめでとう」
「ありがとうございます」
「では 乾杯」
二人はビールを呑みながら 今日の出来事を話し合っていた
祥子は筒井が林のことなどを そこまで考え抜いて采配を
している事をはじめて知った
「その話しからすると 筒井さんとしてはどうしても私が
上原に住まなければ成らなかったのね」
「そう だからホテルの件もタイミングがよかったのかもしれない」
「う~ん そうね」
祥子はそれ以上の詮索は止めた
生ビールを飲干した時に ひつまぶしが運ばれてきた
二人はうなぎの美味しさを順番に堪能した
神山は銀座で食べた事があった
最後は椀にだし汁を注ぎ食べるのが美味しかった
「わあ 美味しかったわ 神山さんと一緒だととても美味しいわ」
「ありがとうございます 僕も祥子さんと一緒だと楽しいよ」
二人は電話で会計を頼み襖を開けようとした時
どちらからともなく熱いキスを交わした
1階のレジで会計を済ませ表に出た
今夜は土曜日なのでうなぎ屋おおたの外では長椅子に座って
順番を待っている人が大勢いる
「祥子さん 明日の予定はどうなっているんですか」
時計は20時なのでまだ充分 最終電車に間に合うと思っていた
「明日は休みなんですが 朝一番で お仕事と私事で名古屋に
出張で6日の月曜日の午前中に帰ってきま~す」
「そうか う~ん 僕は明日は休みなんだけど どうしようかな」
神山は祥子にニーナ・ニーナ出向で祥子のマンションに住む事や
出向部長になることを伝え 明日は横浜から荷物を上原に
運ぶ事などを話すと祥子は自分のように喜び
「凄いわね おめでとうございます 私 凄く嬉しいわ」
「うん これから 分からない事があったら 直ぐ傍だから
なんでも聞きに来ていいよ もっとも分かる範囲だけどね」
本当は祥子を欲しいから今夜も泊まると言いたかったが
着替えが無いので躊躇していた
「神山さん すぐそこのお店で 明日の着替えとかを買えば
今夜は一緒に居られるでしょ それに買いおきしてもいいし」
「うん そうだけど」
「だったら 膳は急げ 行きましょ」
祥子は神山の手を取ってその店を案内した
アメリカンステージという店に入るとアイビーを中心とした
ファッションがところ狭しと店内に飾られていた
二人は神山に合う服やカジュアルシューズなど選んでいった
下着を選ぶときになって祥子が赤のビキニブリーフを選んだ
「えっ なんで赤なの」
「赤は 元気が出る色として言われていの ふふっ げ・ん・き君」
神山は祥子の勧めで赤いビキニを選んだ
会社にはスーツで出勤した事はほとんど覚えが無い
特に銀座店ではファッションが決まっていればGパンでもOKだ
綿麻のジャケットで今の祥子と同じものが吊るしてあった
それを眺めていると
「私の上下もここで買ったばかりなの
安いのに縫製は意外としっかりしているわ」
「そうか だったらこれも買おうかな」
日曜日は久しぶりにノーネクタイで出勤してみるかと思い
ジャケットに合うシャツを選別していると祥子が選んでくれた
白を基調にしブルーとイエロー オレンジカラーの幅を変えた
日本では余り見かけないストライプのシャツだった
神山が普段買わない柄だったので顔をしかめていると
姿見に連れて行かれ合わせをした
祥子がせっかく選んでくれたのでそのシャツも買う事にした
アメリカンステージを出るときは大きな袋が2つもなった
今夜 祥子のマンション泊まりの拒否理由はこれで解消した
袋が大きいのですぐに来たタクシーに乗った
二人と大きな紙袋を乗せたタクシーはすぐに
上原の祥子のマンションに着いた
祥子はカードをスキャンすると大きなガラスがゆっくりと開いた
箱が下がって来るのを待つ間に神山は祥子を引き寄せ唇を重ねた
エレベーターの扉はステンレスヘアライン仕上げになっていた
扉の前の床には天井からスポットライトが照らしていた
琥珀色の空間に抱き合った二人を包み込む光であった
ガラスの外からは丸見えだが抱き合ったシルエットは
映画のワンシーンに見えただろう美しかった
エレベーターで6階にある祥子の部屋に手をつなぎ入った
部屋に入るなり二人はベッドにもつれ倒れこんだ
二人はお互いの服を剥ぎ取りあい抱き合い交わった
久保祥子 このとき36歳で9歳の娘が居るが
名古屋の実家で祥子の両親に育てられていた
ニーナ・ニーナジャパンに就職したのは30歳のときだった
勤務先ブティックは名古屋鈴やだった
天性の頑張り気質と美しさ
兼ね備えた上品さですぐに上層部に知れ渡った
すぐにでも東京本社に来てもらいたがったが
娘が小学校に上がってからと断っていた
しかし実際に東京の本社勤務になったのは昨年からだった
娘の学業を両親に任せきりには出来ない部分があった
片親が居ない為のいじめなど娘自身から悩みをいろいろと
聞かされると離れる事が出来なかった
昨年までは週の半分を東京 残りが名古屋のブティックと
ハードな時期を送った
去年7月に遂に東京勤務を認めざるを得なくなった
東京勤務に集中して欲しい為 上層部が青山に呼んだ
条件としてゼネラルマネージャーの地位を用意した
祥子自身も青山勤務には興味があり
もともと販売以外でも実力を発揮したかった
そのころには娘も母親が居ない事に慣れて
ばーちゃんじーちゃんと上手に生活するようになって来た
マンション引越しについても 慌しい時期より娘の春休みに
お願いをして先月の末近くにここに来た
「だから 神山さんが 最初のお客さんなのよ」
「ご光栄です ありがとう」
「ねぇ~ シャワーを浴びましょうか?」
「うん そうしようか」
「では 支度してきますね ちょっと待っていてね」
祥子はどこに用意していたのか
バスタオルを躰に巻いてバスルームに消えていった
「いいわよ~ どうぞ入って来て下さい」
今夜は一緒に入る事を拒まなかった
神山は全裸でバスルームに向かった
バスルームの照明は少し暗かったがそれでも祥子の顔はよく見えた
「はい こっちに来て」
「うん」
「きれいきれいしましょうね」
「祥子さんもきれいきれいしなければね」
二人はお互いの体をシャボンとたわむれた
シャワーで流すと祥子はひざまずいて神山の肉棒をくわえた
先ほど果てたばかりだったが すぐに元気になった
「これからも このおちんちんと合えるのかしら」
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