2012年6月27日水曜日

若葉 1 - 8 Vol. 1



4月9日 木曜日 快晴

「おはよう」
「早いのね おはようございます」
「うん 銀座をみて青山だと 時間が欲しいからね」
「ごめんなさい」
「うん 大丈夫だってば もういいよ ほら一応担当者だから
それで顔を出しておけば 円満解決さ 終わり良ければ全て良し」
「私は 9時までに本社なの だから ここを8時15分に出るわ」
「そうか そうしたら一緒にいこうか」
「大丈夫 早くない?」
「うん どうせ催事場で 細かい事言われるから 聞き役ですよ」
「だったらシャワーを浴びて 支度をしてくださいね」
「うん 祥子は」
「私はもう済んでいますよ」
祥子はキッチンで調理をしながら神山に話した
「うん わかった」
神山はシャワーを浴びる為に バスルームに入り
熱い湯を体にかけるとしゃきっとした
バスタオルを巻き部屋に戻ると 焼き魚のいい匂いがして
「祥子 お腹が空いてきた いい匂いだよ」
「ほんと お腹が空くわね もう直ぐよ ビールを呑んで待っていて」
神山は缶ビールを持ってテラスにいくと いつものように
タバコをふかしながら 景色を見ていた 
「あなた 出来ましたよ どうぞ」
「ありがとう ねえ 昨日の洗濯物はどうしたの?」
「ちゃんとたたんで仕舞ってありますよ」
「うん ありがとう でも助かるな」
「もう 早く食べよ」
祥子はニコニコして席に着くと 缶ビールをちょこと呑んで
「はい 残りは味わって 呑んでね」
神山は受け取ると 少し口に含み
「うん 祥子の味がする なにか一味違います 美味しいよ」
祥子はクスクス笑い 箸を進めた

食事が終わると 祥子が支度をしている間に食器を洗い
「じゃ 部屋に戻って 支度をしてくるよ それから
昨夜の図面は忘れないようにね 出来ればコピーをして」
「はーい いってらっしゃい」
神山は自分の部屋に戻ると バッグに図面類をいれて
忘れ物が無いか 確認をした
祥子の部屋の前でインターフォンを押すと直ぐに出てきて
「では あなた行きましょうか」

久しぶりに朝早く出勤すると 気分がよく清々しい気持ちだった
祥子は濃紺のビジネススーツを着こなし 雑誌から出てきたような
美人キャリアウーマンを連想させた
二人で上原の住宅街を歩くのもこれでちょうど1週間になった
「ねえ 覚えている もう今日で1週間も一緒よ」
「もう1週間か 早いな」
祥子は何時ものように固く腕を組み豊かな胸を押し付けて歩いていた
神山もこの1週間は色々な意味で大変な思いをした
自身のニーナ・ニーナ応援 祥子の件 市川の件 由香里の件
思い出すと目が廻るくらい忙しい時間を過ごしていた
祥子もホテル住まいから上原の引越し 神山の件 
上原店舗オープン 林の件 御殿場準備と目白押しの
スケジュールをこなしてきた
二人ともお互いがお互いを認め合い 信頼しなければ
この1週間が無事に過ごせたか否か考えていた
ゆっくりと歩いているのにすぐに代々木上原駅に着いた
ホームで並んで待っているとまもなく電車が滑り込んできた
二人は満員の中で 向き合う形で立っていた
電車がゆれるたびに神山の体が祥子のバストとぶつかっていた
祥子も苦笑いをしていたが 神山は下半身が元気になった
そんな異常を察知した祥子はきつい目付きで
「なに考えているの ば~か」
と周りに聞こえないように言って来た
「なにも考えなくても 自然の力だよ」
神山も反論した
表参道駅に着き銀座線に乗り換えをしたが こちらも満員だった
又 先ほどと同じように向き合う形になってしまった
「こんど元気にしたら 今夜はお預けですよ」
祥子から先制攻撃の一言があったので 神山は何も考えない事にした
直ぐに青山1丁目の駅で 地下鉄の扉が開くときに
押し出される格好になり祥子を抱きしめた
「まぁ 早くほどいてくださいな」
「ごめんごめん では10時に伺います」
「はい お待ちしています」
神山は扉が閉まる寸前に飛び乗り 祥子に手を振った

「久保チーフ おはようございます」
と安田桃子が声を掛けてきた
「おはよう」
「どうしたんですか 元気ないですよ いつもの先輩と違いますよ」
「そぉ 何時もと変わらないわよ それよりどうしたの?
普段と違って 決まっているわよ 分った 今夜デート?」
「いいぇ 違いますよ 昨日筒井さんから電話があったんです」
「えっ 筒井さんから電話? あなたにもあったの」
「ええ 私も休日にゼネラルマネージャーから電話なんて
何事かと思い びっくりです」
「うん それでなんて言って来たの?」
「はい 今日少し話があるのでそのつもりで来てくれ」
「なにそれ 全然分らないわね」
「先輩 何かご存知ではないのですか?」
祥子は昨日の筒井から聞いた話と関係があるのかと考えていたが
「私は何も知らないわよ 上原が開店できる事しか」
「そうなんですか」
ニーナ・ニーナの二人は狐に包まれたような話をしながら
本社ビルに向かっていた
祥子も安田も自分の胸に隠している部分があるが
それは今 話せなかった

安田桃子25歳入社2年生 浜野由貴の青山学院時代の後輩に当たる
大学を卒業後暫くは両親の財力で世界中を飛び回っていたが
テニス同好会が開かれたとき 浜野由貴が
「ニーナ・ニーナは楽しいわよ 先輩の久保さんもいい人だし
どう少し来てみない 仕事をすればするだけ
恩恵があるの おもしろい会社よ」
安田桃子はお金には魅力を感じなかったが 自分の仕事が
そのように評価されるのであれば面白いシステムだと思った
昨年の春に入社し頑張りやの性格がいい方向で展開し
会社での評価もよく この頃はめきめきと力をつけてきた
仕事をすればするだけ評価が良くなる会社のシステムにも慣れた
昨年12月に 会社のクリスマスパーティーがあった
その会場でひときわ目立つ大田に恋心を抱くようになっていた
大田一郎はニーナ・ニーナジャパンの営業をしていたが
殆ど会社には居なかった 固定されている女性社員と違い
週ごとに全国のブティックを回っている営業である
その端正なマスクと優しい語り口から女性客からも人気があった
大田のもてもてぶりを外野の男性達から羨ましがられたが
私生活では皆無と言っていいほど女性の話が無かった
その大田が今日本社ビルに来るのだと筒井から聞かされた
桃子は私と太田さんが引き離されるのだろうか不安になっていた

祥子と安田は1階にショールームがある本社ビルの6階に上がった
6階に着くと祥子はびっくりした
銀座鈴やの林恵美がいて 普段滅多に居ない大田一郎まで来ていた
祥子は林に近づき
「どうしたの 今日は」
「昨日筒井さんから電話があり 今日本社に来るように言われました」
「銀座は大丈夫?」
「ええ 日本橋からパートさんを回してもらったから大丈夫です」
「なにかしらね」
祥子は筒井から林の御殿場移動についての件は知っていたが
(何が起こるのかしら 私は蚊帳の外? 嫌だわ)
「よお みんな集まったかな あれ高野君はまだ?」
「はい まだ見えていません」
高野哲也38歳 高野も大田同様日本各地を回っている営業マンだ
高野は大田に磨きを掛けた人物であり殆どの女性は虜になってしまう
現在 日本各地を廻っているが売上はトップだった
祥子は高野と殆ど会った事は無いが 
売り上げ数字はいつもパソコンで確認していた
(その高野さんまで呼ばれているなんて なんなの)
「おはようございます」
高野がジーンズの上下で現れた
事務所にいた女性達が一斉に高野を見た
「遅くなってすみません 車が込んでいて遅刻ですね」
実際はまだ会議まで充分に時間があったが
皆より遅く来た事に対し反省していた
「よお おはよう 元気か」
高野は大田に近寄り声を掛けていた
「ええ おはようございます 高野さんめちゃくちゃ凄いですね 
現在ダントツのトップですよ」
「うん 周りが良くやってくれるから 僕なんて何もしていないよ」
「そんな事無いですよ 高野さんと一緒だと僕なんて影薄いですよ」
「ご謙遜 ごけんそん、、、」
高野は大田の耳に近づき小さい声で
「しかし どうしたの このメンバーは 何かあるの?」
「いやぁー 全然分らないのですよ 
僕も昨日 携帯で筒井さんから呼ばれたんですよ」
「そうか 実は僕の場合は一昨日筒井さんから
福岡の店に電話が入ってきて呼ばれた」
フロアに集まったスタッフが思い思いの人と話をしている時だった
「やあ ようやく皆揃ったな 忙しいところすまんな」
筒井はスタッフを見渡しながら労い 会議室に入るよう指示した
祥子はこの会議に召集が掛かっていなかったので躊躇していた所
「おう 久保君おはよう 主人公が居ないと話が進まんよ 
上原の書類関係一式を持って来なさい」
筒井は祥子を会議室に入るよう指示した
(なに言っているの 私が主人公? なんなの?)
「久保君 それから上原の図面も一緒にな 忘れずに頼むよ」
「はい分りました」
祥子は言われるまま上原の書類一式と図面を持って
会議室に入っていった
「久保君 君は僕の隣に座ってくれ」
「えっ はい 分りました」
他のスタッフは思い思いの場所に座っていたが 
祥子だけ座る場所を指示された
「では 9時に会議を開くので それまで待っていてください」

鈴や銀座店
神山は7階催事場へいくと 飾り付けの看板やPOPなど点検し
什器類の員数も什器屋と一緒にチェックをした
「うん 大丈夫だね ありがとう」
「はい いつも ありがとうございます」
「もう暫くすると 売場の準備も落ち着くから 待っていて」
「ええ」
神山は催事担当者にここを離れることを伝え 什器や備品類の
過不足は業者に話して欲しい旨伝え 1階のステージに向かった
ニーナ・ニーナのステージを見ると 神山がデザインしたとおり
コンセプトがしっかり伝わるようデコレーションされていた
「あっ神山さん おはようございます」
「やあ 細川社長 おはようございます いいですね これ」
「ありがとうございます 時間が無かったので 逆に集中して
お仕事をさせて頂いたからかしら 必死でしたよ」
「ほんと ごめんなさい」
「あれだけの時間で 良くコレだけできたと 私も驚いています」
「人を増やしたんですか」
「ええ 2名増やしました」
「本当に ありがとうございます 助かりました」
細川と神山が話しているステージでは山崎愛と佐々木艶子が 
最終手直しをしている
「あら 山ちゃん おはようございまーす」
「よぉ 愛ちゃん ありがとう 助かったよ」
「ふふふ 高いですよぉー ねぇ社長」
「まあまあ 神山さん 倉元さんに話してあります」
「はい 会うのが辛いなぁー」
「山ちゃーん 大丈夫よ 昨夜遅くまで呑んで 機嫌はいいから」
「そうか 助かった 愛ちゃん それで充分だよ」
「はーい 艶子 もう止めようよ シルエットはこれ以上でないよ」
「ええ シルクだしピンが打てないから 仕方ないですかね」
「綺麗に 出ているよ シルクの感じが素晴らしいよ 大丈夫」
「はいはい お二人さん 山ちゃんからお墨付きよ さあ片付け」
「はーい」

ステージで話をしていると 奥村がきて
「山ちゃん おはようさん 社長 おはようございます
聞きました ありがとうございます」
「済みませんでした」
「うん 山ちゃんの失敗じゃない事も 筒井さんから連絡があった
しかし 素敵なステージに仕上がったね 良かった」
「ええ 2名追加です すみません」
「うん 倉さんから聞いた 大丈夫だ 何とかするよ」
そこへ店長の池上が来て 神山を見つけるとニコニコして
「おう 山ちゃん おはよう また素晴らしいステージだな」
「ええ 春から初夏へのシルクです 素材感を充分出せています」
「うん なかなか出来ない事だ 素晴らしい さすが受賞者だ」
「店長 予算オーバーしました」
ニコニコしていた店長がちょっときつくなり
「うん 理由は」
「はい シルクの素材感を出すのに 時間がかかるんです
これは 私の想定外の出来事です 実際今朝もこのように
入っています なのでオーバーしました」
「そうか シルクってそんなに 難しいのか」
「ええ 他の素材と比べ ピンを打つ事が出来ないんです
穴をあけたら商品価値がなくなりますし かと言って
美しいシルエットは表現したいし そこでデコレーターを増やし
この形に完成しました」
「うん 分かった 10万だな おう奥村君 この分のオーバーは
わしが認めたと会計課長に話をしておきなさい いいね」
「はいっ ありがとうございます」
奥村は深々と丁寧にお辞儀をしていると
「山ちゃん これからオーバーする時は 事前に話してくれ
わしが何とかするから いいね」
池上店長はニコニコしながら神山の肩を叩いて そこを離れた 
驚いた奥村は神山に
「こんな事 初めてだよ 凄いな山ちゃん」
「ははは もうドキドキしながらの 演技ですよ」
「そうか ありがとう しかし倉さんから 話が出なければいいな」
「別に出ても いいじゃないですか 事実だし」
「まあな そうしたら倉さんを探して 口止めだ」
奥村はその場を離れると 倉元を探しに行った
「課長 課長 倉さん そこに居ますよ」
奥村は神山の指先を確認するとウインドーに居た
「分かった」
奥村は駆け足で 外に回って倉元に事情を話した
倉元は頷き聞き終わると ガラス扉のところに来て
「おう 山ちゃん おはよさん よくやった わかったぞ」
倉元はニコニコして神山に話すと 店長がきて話し始めた
その出来事を一部始終見ていた細川は
「山ちゃん 間一髪セーフね でも素晴らしい主張だったわ
私もシルクは大変だと いつも感じているの
なんかデコレーターの意見を 話して頂いたようで 嬉しかった」
「ありがとうございます」
神山は時計を見るともう直ぐ9時30分になるので
「それでは失礼します」
「まぁ お茶をしようと思っていたのよ 残念」
「ええ 他のところで用事があるんですよ ごめんなさい」
「では 月曜日を楽しみにしているわ」
神山はお辞儀をすると 二人に手を振り外に出た
ウインドーに行くと 店長が倉元や奥村と話していたが
「店長すみません 課長 では10時の会議に行ってきます」
「うん 筒井さんによろしく伝えてください お願いします」
店長は笑顔で神山に
「鈴やを代表して しっかりやってきてな 頼んだぞ」
「はい わかりました」
神山は店長にお辞儀をすると タクシーを拾い青山に向かった

青山NNビル
「と言う事で ニーナ・ニーナジャパンを発展させるには
この方法が一番の政策と考えています」
筒井の会議内容概略説明が終った
東京上原出店 静岡御殿場アウトレット出店は皆知っていたが
三重県のアウトレット出店までは誰も知らなかった
と言うよりホットニュースであった
「そこで 人事だが 久保君には上原をオープンまで見てもらう
林君は当分の間 各地の顧客整理を兼ね 情報収集をしてもらう
勿論 御殿場の準備室長兼任だ いいね
高野君と太田君は現在の仕事のほかに林君のサポートをしてもらう
久保君には悪いけど当分の間は
銀座店の仕事と上原の仕事があるが大丈夫かね」
「はい 大丈夫ですけど、、、」
祥子は神山から話を聞いていたので あまり驚きは無かったものの
実際問題 どのように二箇所の現場をこなして行くのか不安が残った
そんな祥子を見て筒井は
「頼もしい助っ人が居るから心配するな」
横に座っている筒井を見てみると こちらを向き大丈夫とうなずいた
「浜野君は上原店長を任せるつもりでいる 
安田君は当分の間 浜野君と上原勤務 いいね
上野かおり君は 銀座店店長を任せるつもいでいる
ただし 銀座店店長も期限付きだ いいね」
上野かおり 39歳 現在本社ビルで営業のサポートをしているが
以前は日本橋 横浜など百貨店に入っているブティック店長を
経験してきた人物だった
2年程前から体調を崩し本社勤務になっているが
応援があれば直ぐに現場復帰できる貴重な存在だった
「尚 この6月に中途採用をし人材確保をしながら 
近い将来の三重アウトレットを開店します」
「以上 何か質問は」
筒井は説明を終えたのでスタッフからの質問に答える事にした

「はい」
手を挙げたのは林だった
「私の場合 全国の顧客整理と情報収集という事ですが
具体的にはどうなんですか?」
「うん 林君の場合 業務内容などについては
ここでは発言できない部分が有るので後でいいかね」
「はい 分りました」
「はい」
今度は林と行動を共にする高野から手が挙がった
「僕たち二人が交互に林さんのサポートをする事に
異議はありませんが その分 売上が落ちてくる懸念もあります
そこはどのようにお考えですか?」
「はっきり言って 売上は落として欲しくない
それを見込んで お二人に絞りこんだのだが 難しいか」
「選ばれた事については光栄ですが 
売上をキープするのは果たして分りません」 
「そんな情けない事言うな 
出来なければこのプロジェクトから外れてもいいぞ」
筒井はこのプロジェクトをサポートし
成功を収めたならばボーナスを出す事を約束していた
「はい分りました 精一杯頑張ります」
「次 何もないか?」                              
「はい」
浜野由貴が控えめながら挙手した
「私の上原勤務の時期と安田さんの件で伺いたいのですが?」
「うん どうぞ」
「私の上原勤務はいつからでしょうか?」
「その件は 後日連絡する ただ1ヶ月をめどに考えてくれ」
「はい分りました それと安田さんはいつまで上原勤務なのですか?」
「大体3ヶ月くらいを目安だ」
「以上 何もないか」
スタッフ同士が隣の顔を見合わせながら
首を横に振ったり下を見たりと皆元気が無かった
そんな光景を筒井は見逃さなかった
「さあ 以上で終わりにするが この計画はもう後戻りできないのだ
全員の力が必要とされる大プロジェクトだ
持っている力の120%以上 力を出すよう期待している
尚 10時から再び会議を行う」
筒井は時計を見て
「10分間の休憩」

神山は青山のニーナ・ニーナ本社ビルに着くと
アルタの佐藤も丁度タクシーから降りて 目と目が合った
「佐藤さんも会議に出席ですってね 改まってなんでしょうか?」
「ええ 御殿場の話は決まっているので 何かと思っているんです」
二人は本社ビルに入ると受付が尋ねるので
「鈴やの神山とアルタの佐藤部長です」
受付嬢は予め連絡があったので
「あちらのエレベーターで6階へお越しください」
2人はエレベーターで6階の会議室に向かった
止まったエレベーターの扉が開いた向こうに筒井が待っていた
「やあ 山ちゃん 待っていたぞ」
「どうも 遅くなりました」
佐藤も筒井と握手を交わした
筒井が先導をして会議室を案内した
会議室に入るとやはり祥子は仲間と一緒にいた
ちょうどニーナ・ニーナの祥子と向き合うところに着席した
筒井は皆が席に着いた事を確認してから
「それではこれから 上原出店 御殿場出店の詳細に入る」





次回は7月2日掲載です
.

2012年6月22日金曜日

芽吹き 3 - 7 Vol. 3



「ふふふ じゃ そうしましょう」
「そうしたら 部屋に行ってみるね」
神山はガウンのまま自分の部屋に戻ると FAXの受信をみたが
どこからも送信されていなかっら
電話も留守電を再生したが 何も入っていなかった

神山は出かける支度をして 祥子の部屋に戻った
祥子も支度をしている最中で 髪の毛をドライヤーで乾かし
「ねえ 向こうを向いていてよ 恥ずかしいでしょ もう」
神山は女性のうなじが魅力的で好きだった ドライヤーを使い
髪の毛を手で掬っていると 自分が手伝ってあげたくなり
ついつい見入ってしまった
神山は冷蔵庫から缶ビールを出して テラスでタバコをふかし
祥子の支度が出来るのを待った

「お待たせしました」
神山は振り返ると 初夏らしい淡い水色のジャケットに真っ白な
Tシャツ 体にフィットしたジーンズ姿の祥子に驚き
「わぁー ファッションモデルのようだよ うんばっちし」
「ほんと 嬉しいな」
神山は部屋に入ると 軽くキスをして
「では 出かけましょうか」
「はーい ふふふ」
祥子はカジュアルシューズを履くと 神山と腕を組んだ
マンションを出ると 祥子が
「ねえ 道順ってわかる?」
「うん さっき見てきたよ この坂を下って 右に行けば渋谷さ」
「へぇー 近いんだ」
「うん 2Km位だから 30分もあれば大丈夫だよ」
祥子は嬉しくて両腕で神山の腕をからめバストを押しながら歩いた
この時間になると 人通りは殆ど無く静寂な住宅街と改めて
感心させられた
それでも渋谷駅に近づくとだんだんと 人影が多くなり
東急ハンズの周りには 働いている姿が多くなってきた
「ここまで来ると 都会だね」
「そうね ほんとちょっとしか離れていないのにね」
「まずは 何を買うのかな」
「ええ ハンズでソファーとリビングテーブルを買うわ」
祥子と神山はハンズに入ると インテリア用品のフロアにいき
所狭しと並べられている ソファーを探した
「表面は皮素材 それともマンションのエントランスのような
キャンバス素材がいいのかな?」
「皮だと なにか硬いイメージで リラックスできないと思うの
だから キャンバスがいいな」
神山は祥子の部屋に合う色と形を探し
「ねえ こっちに来て これなんかどうかな」
祥子は目を輝かせ 頷くと値段が高くて困っていた
「予算はどのくらいなの?」
「うん 5万までなんだ 実は会社から出るの それが3万までで
不足分は私が出すんです」
神山は折角薦めたので 不足の3万円は自分が出す事でどうか聞くと
「だって そんなにしてもらって 悪いわ」
「いいよ お気に入りでしょ だったら僕が出すよ」
神山は財布から3万円を出すと祥子に渡し
「さあ これで買おうよ ねっ あとはテーブルだね」
「ありがと 嬉しいわ テーブルは ガラスがいいな」
「ははは エントランスと同じになったね でもあの組み合わせは
リラックスできる最高の組み合わせだよ」
「やっぱりそうなんだ 私ね 考えていたんです
皮はさっき話したとおりで キャンバスにしたとき なにが合うか
そうすると エントランスの組み合わせになるんですよ」
「そうだね そうしたらテーブルを見にいきましょう」
ガラステーブルのコーナーに行くとバーゲンセールをしていて
祥子はどれが似合うか探していた
神山も一緒に探していたが 帯に短し襷に長しで
なかなか希望に沿う商品が見つからなかった
そんな時 祥子が神山を呼び
「コレはどうかしら 結構いけると思うんだ」
神山はガラスの天板を触り 安定している事を確認した
「うん 大丈夫だよ デザインもソファーを合うし」
「じゃあ これにする 安いし ふふふ」
「そうだね でもしっかりした作りで 細かい所も安心できるよ
ガラスの厚さが充分あるから ちょっとやそこらで割れませんよ」
「そうなの よかった」
神山は値段を見て驚いた 3万円はするだろうと思ったが
5千円で販売されていたので もう一度商品を細かくチェックした
「ねえ どうしたの?」
「うん これって普通最低でも3万円以上するんだ だからさ
もう一度調べたんだ でもどこにも不具合が見つからないからね」
神山と祥子が話していると 店員が笑顔で近づき
「ここの商品は 実は倒産された会社の商品でして お値段は
通常価格の1/10でご提供させて頂いています」
「なるほど そうだったんですね 分かりました」
「私 これに決めた」
祥子はその店員に配達を依頼し 手続きを行った
「出来れば 今夜がいいんだけど どうかしら 直ぐそこです」
「いいですよ 近くに配達がありますから 大丈夫です 7時頃です」
「わぁー 嬉しい よかった ではその時間に待っていますね」

祥子と神山はハンズを出ると 家電量販店にいった
TVコーナーに来ると祥子は
「そんな大きなTVは必要ないけれど 大きい方が迫力があるわ」
「うん そうだね でも大きすぎると疲れるよ」
「そうなの?」
「うん 疲れない大きさって言うのが 見る距離で 大体あるんだ
祥子の部屋だと ソファーの前でしょ 置くのは」
「ええ ダイニングからも見えるといいな」
「TVを見るときは ソファーと考えると 大きくても32型だよ」
祥子はTVを見ながら 予算と大きさを検討した
暫く探していると 
「私 このTVでいいです お金を使いたくないし」
祥子が選んだのは26型のTVでまあまあの大きさだった
値段も買いやすく設定してあり 店員に聞くと昨年秋モデルといい
性能的にはこの春に 販売されたものと殆ど差はないといった
祥子は配送手続きの為 カウンターで伝票に住所など記入して
「出来れば 今夜お願いできますか?」
「ええ 大丈夫ですよ 7時ごろでも宜しいですか?」
「わぁー お願いします 待っています」
祥子は精算すると 神山に
「助かりました はいこれ」
祥子は1万円を出し神山に渡した
「いいの 僕は大丈夫だよ」
「平気よ ありがと ふふふ」

二人はハンズを出ると祥子が
「ねえ お腹が空いてきて 死にそうだぁー」
「ははは そうしたらラーメン餃子にしようか」
「あら 先ほどのホテルはどうするの?」
神山はニコニコしながら指を刺すところにラーメン屋があった
「あそこはね 餃子とラーメンがむちゃくちゃ美味しいって
TVで何回も取り上げられているところなんだ
ほら 横浜の時には こっちに来る機会がないでしょ
なので 一回は味わってみたいと思っていたところです」
「そうなの そんなに有名だったら 食べておかないとね」
「そうそう 折角上原に住んでいるんだもん 知らないとね」
祥子は頷いて神山の腕に両手を絡ませ楽しそうに歩いた
ラーメン屋はまだ12時になっていないのに 混み合っていた
神山は生ビールと餃子を3人前注文した
「あとはおつまみだと 野菜炒めでも食べようか?」
「ええ 美味しそうね 頂くわ ふふふ」
祥子はメニューから目を離すと神山を見ながら答えた
「お願いします」
「はーい なーに」
「野菜炒めを1人前ください」
「はいよぉー 野菜1 追加だよ 7番さんね」
「はーい やさい 7番 了解」
威勢のいい若い調理人4人が所狭しと動き調理を進めていた
まずは生ビールと野菜炒めが出てきて
「それでは 家具のセレクト終了ということで 乾杯」
「はーい かんぱーい」
祥子はこれから来る家具を楽しみに 笑顔が絶えなかった
神山も祥子は笑顔が最高に似合うと思っていた
「美味しいね 野菜炒め」
「ええ おうちでもこんなに美味しく出来たらいいのになぁー
そうしたら貴方に毎日つくってあげられるのに」
「ははは ありがとう 楽しみだね」
生ビールを御代りし餃子を食べると いよいよラーメンを食べた
スープはとんこつだがさっぱりしていて 神山はなるほど
このさっぱり感が女性にも受けているんだと 感心した
祥子もスープが美味しいといい ラーメンを残さず食べた

お店を出ると祥子は美味しかったと何回もいって
「今度 会社で聞いてみますね 知っている人手を挙げてって」
祥子は幼子が宝物を探し当てたような喜び方をしていた
「ははは 全員が手を挙げたらどうするの 言われるよ
今頃 食べに行ったんですかって」
「そうか だったら秘密にしておこぉっと ふふふ」
神山は無邪気な祥子を見ていて 一緒に生活できたら楽しいだろう
そう思い始めてきた
毎日が明るくて 楽しくて笑いが絶えなければ きっと幸せな
二人の時間が過ごせると 思い描いた
「ねえ 家電量販店で ラジカセを買いたいんだけどいいかしら」
「うん いこう」
二人は手を繋いで先ほどの家電量販店でラジカセを購入すると
「祥子 帰りは上り坂だからタクシーで帰りましょう」
「そうしようか 早く帰って CDも聞きたいし」
神山は大通りに出て タクシーを拾い上原のマンションを指示した
マンション前で降りて部屋に戻ると神山の携帯がなった
「はい 神山です」
「山ちゃん こんにちは 高橋です」
「こんにちわ どうしたの?」
「うん 例の床サンプルが届いてね この時間で
サンプルを見るとどうかなと思って 電話をしたの」
「わかった そうだね これから行きます」
電話を切ると 祥子に床サンプルがきた事を伝え
一緒に現場で確認をして欲しいと 話した
「行くわ お邪魔じゃないかしら」
「ははは 大丈夫さ そうしたらこのまま行こうか」
祥子は頷き キスをして部屋を出た

「やあ 考ちゃん 久保さんにも確認してもらう為に来て貰った」
「いらっしゃい 凄いね そうすれば床だけでも進めば早いよ」
「ははは サンプルはどれですか」
田中が奥から相当数の床材を運んできて タイルの上に並べた
高橋と神山が手伝って 見やすくすると
「考ちゃん お勧めはこの色でしょ」
「うん そう よく判るね」
「まあね 経験ですよ」
神山はそういうと 入り口に近い日が当たるところに並べた
祥子を呼び外に出てもらい 床材の色を見てもらうことにして
同じ床材を4枚並べ 色加減を変えていった

神山はそういうと 祥子に外から床材の色加減を見てもらう事に
した 床材を4枚ずつ並べると 部屋の中で見るのと違い
薄く感じられる事が分かり 祥子自身も確認できた
「分かったわ だいぶ違うんですね 部屋の中と外とでは」
「ええ なので僕は多少 濃い目の感じでいいと思います
店内照明を明るくすれば このままの色でも充分いけます」
「そうね 最初は暗い感じだったけど 外光が当たると
ちょうどいい加減で いいと思います」
「考ちゃん この色を中心にして 少し明るいのと暗いのを
3種類を3x6パネルで2枚づつ大至急作ってくれないかな」
「うん 大丈夫だよ 在庫は充分あるから コンパネに張るよ」
「うん お願いします」
「それからね 天井の解体がこれから始まります」
「早いね」
「それでね 周りのお店には挨拶をしてきたよ」
「ありがとう 夜までかかるね」
「うん 仕方ないよ 電気は明日仮設が入ります」
「はい 了解 久保さん あとは什器や棚類を決定してもらえば
直ぐにでも 工事は進みますよ」
「わぁー そんなに早く出来るんですか」
「そう 久保さんがOKと言ってくれればすぐです」
「大変な事ですね」
「なので このモデルを家に持って帰りますか」
「いいえ大丈夫です 図面をみて考えます 遅くなってごめんなさい」
「大丈夫ですよ ゆっくりといい案を練ってください
こちらは 基礎にあたる部分を進めていますから」
祥子は笑顔に戻り 神山に
「でも 早ければオープンは早くなるんでしょ」
「ええ でも材料とかの問題もあるので 一概に
その分早くなると言えない所があるんですよ 分かってください」
「はい わかりました でも壁などはどうですか?」
壁面の壁紙や塗装する色などで祥子が
「出来れば大きいサンプルがあると助かります」
神山も祥子を納得させるには大きなサンプルが必要と感じ
「高橋さん 原寸でここに置こうよ 3x6でいいでしょ」
「そうですね その方が分りやすいし 手配します」
百貨店のブティックでは各仕様共決まっていたが 上原に付いては
アンテナショップという事もあり多少のアレンジが許されていた
例えば壁面に付いていえば百貨店ではフラットな仕上げだったが
今回はエンボスのストライプ模様を取り入れるなど
イメージは変えないが細かい所で変化をつけて差別化をした
祥子も今まで自分が思っていた事が現実となるので真剣に
話を聞き 納得するまで妥協をしないスタンスだった
しかし初めての事が多すぎるので 一つ一つを神山に
確認をしながら理解し 判断をしていった
「では原寸大のサンプルは明日この現場にお持ちできますが」
祥子は神山を見て
「神山さんは お時間のご都合は」
「僕は 夕方なら銀座から戻れますよ」
「そうしたら 金曜日の朝でも構いませんか 明日は分からないし」
「ええ それでも構いませんよ 考ちゃん 明日中に準備して
それから照明の仮設だけど 壁面のところオープン時の明るさに
してもらうと 凄く助かるんだけど お願いできるかな」
「うん これから手配します そうすれば感じがつかめるものね
そうしたら 床材も一緒に持ってきますよ」
「うん お願いしますね」
3人が話していると 小型トラックが店に着いた
高橋は運転手に もっと店に寄せるよう指示をした
「考ちゃん それでは一回事務所に戻ります また連絡をください」
「了解です」
「それじゃあ」

祥子と神山はマンションに戻ると
「祥子 一旦部屋に戻ってから そちらに行きます」
「はーい 待っています」
神山は部屋に戻ると FAXや留守電を確認すると FAXが一通
【杉田です ニーナ・ニーナの件は間に合いました
ご安心ください ただ倉元部長が呆れていました】
(あーあ 参ったなぁー まったく もう)
留守電には杉田からで 同じ内容が録音されていた
(同じ内容なら わざわざFAXなんか使うな もう)
神山は少し気分を損ねたが 気を取り直して祥子の部屋に行った
「ねえ ごめんなさい」
神山が部屋に入るなり 祥子は泣き出しそうな顔で神山に話した
商品手配ミスがどこで行われたか分った
結局 林店長ではなく事務の津田がミスをしたみたい」
「えっ なんで事務なの」
「ええ 林が持ちまわる分と銀座に収める分を間違えたみたい」
「なんで そんな」
「林はもうすぐ持ち回りをしながら御殿場に行くの」
「えっ 御殿場の持ち回り?」
「ええ 今聞いたんです 明日の会議は人事発表と 出店計画に
関係する会議です 林の件は明日発表されます
それで 持ち回りの商品と勘違いして 事務が倉庫に手続きをしたの
本当にごめんなさい すみません」
「いいよ 誰だってある事だよ 気にするな
FAXが入っていて 無事済みましたって よかったね」
祥子はこらえ切れなくなり 神山の胸の中で泣いた
「さあ 元気出して ねっ ほら」
「うん 折角の貴方の記念になる日に馬鹿な事をしてくれたわ」
「わかったから ほら 顔を上げて」
祥子が顔を上げると 涙で化粧が崩れていて神山は笑ってしまった
「なぁに もう」
「鏡を見てご覧 笑えるよ もう」
祥子は大きな姿見に行って 自分を写してみると 笑ってしまった
「大変だわ Tシャツにも化粧が落ちているわ」
神山はTシャツを見ると 言われるように黒や緑の模様が出来ていた
「ははは 大丈夫さ この位」
「ねえ 脱いでください 直ぐに洗濯します」
神山は言われるとおり Tシャツを脱ぐと洗濯機を回し始めた
「ねえ 祥子 そうしたら 部屋から洗濯物を持ってくるよ
ちょっと待っていて ねっ」
「ふふふ もう わかったわ 早くしてね」
神山は上半身裸で 部屋に入るとTシャツや靴下など洗濯物を
落とさないように持って祥子の部屋に入ると
「はい これだけあるんだ」
「わかったわ 洗濯機に入れてください」
神山は洗濯機に入れるとスイッチを入れた

「ねえ お部屋に戻った時に何か着てくればよかったのに」
「あはぁー まあでも寒くないから 大丈夫さ」
「ねえ シャワーを浴びますか」
「うーん ビールを呑んで遅い昼寝がいいな」
「まあ」
祥子は冷蔵庫から缶ビールを取り出しグラスに注ぐと
「はい あなた ふふふ 今日はありがとうございました」
「もう直ぐすると ソファーが来て テーブルで呑めるんだ」
「それまで ゆっくり寝ましょうね」
二人は窓から入ってくる気持ちよい風に 酔いながらビールを呑んだ

ベッドに入ると どりらからともなく求め合い抱き合い戯れた
「ねえ あなた 私の体可笑しいのよ」
「どうしたの」
「ふふふ あなたがいけないんだから」
「なんで」
「休火山の目を覚ませたの」
「もう 変な事言わないで びっくりだよ
でも それである部分女性が取り戻せたんだから 良しとしてよ」
「まぁ お上手 ふふふ 
ほら ホテルの時にはこうやって男性の人と過ごす時間が無いでしょ
だから 凄く嬉しいのよ」
「そうだね その部分では開放感があるよね」
「でしょ ふふふ」
「さあ 少し寝ましょう」
「うん だいてぇ」
神山は祥子を抱きながら 睡魔の誘いに乗った

けたたましく鳴る目覚ましで 祥子と神山は目を覚ました
「しかし いつも思うけど あの音大きいね」
「いいでしょ 寝坊が無くなるし」
「さあ 服を着よう このままじゃね」
二人は普段着を着ているところへ ドアフォンが鳴った
「はーい 久保です」
「電気屋ですが TVをお届けにあがりました」
祥子は1階の自動ドアを開けると 玄関のドアも開けた
暫くすると 大きなダンボールを抱えた 作業員が
「お待たせしました」
そういって 部屋の中に入り 開梱作業が終わると
「どこに置きますか」
祥子は来るだろうソファーの反対側において貰った
配線をしてリモコンを操作し 確認すると
「ご不明な点がございましたら お電話をください」
「はい ありがとうございます」
作業員はキャップを脱いで 丁寧にお辞儀をして帰っていった
祥子は早速TVをつけると 久しぶりのTVだと言い喜んでいた
暫くすると家具屋が来て ソファーとテーブルを設置してくれた
二人はビールを呑んで 7時のニュースを見た
「いいわね このソファー」
「うん この部屋にぴったりだよ いいなぁー」
「そうね 貴方のお部屋は広いけれど 事務所だもんね」
「うん でも仕方ないか その分ここでゆっくりするさ」
「ねえ お寿司食べようか?」
「いこうか」

二人は そのままの格好で 駅前寿司にはいると女将が
奥の座敷に案内してくれて ビールを持ってきてくれた
「ねえ 女将さん てんぷらが欲しいな 勿論鮮魚のつまみもね」
女将さんは 笑顔で答えると 大将に伝えた
「じゃ ソファーの搬入 おめでとうで乾杯」
「はーい かんぱい」
祥子と神山はビールを美味しそうに呑むと お互い見つめあい
笑顔がこぼれ 神山はそんな祥子にますます引かれた
「ねえ 帰ったら 図面で分からない所を教えてください」
「どうしたの 急に改まって いいですよ」
「うん だって早く仕上げる為に 貴方が来たんでしょ
だからのんびり出来ないじゃない 私もがんばる ねっ」
「うん わかった ありがとう それならポイントを教えてあげる」
「ほんと 嬉しいわ」
祥子は笑うと白い歯が綺麗で 吸い込まれそうだった
(うん 祥子と一緒なら 多分楽しい時間が作れるな)
神山はビールを呑むと日本酒を注文し楽しく呑んだ

「自分なりに直した図面を見てもらいたいの」
「うん いいよ」
祥子は神山にアドバイスをして貰った上原店舗の図面を持ってきた
「この壁にある棚なんだけど どうもしっくりしないのよ」
棚板を支えている支柱が露出しているのが気になっている様子で
詳細図面を見てみると祥子が示した部分の棚は造り付けの
棚には違いないが 棚受けアジャスターを上下する事によって 
棚の高さを変えることが出来る構造だった
祥子が言いたいのは支柱が太く 
棚板との間に隙間が出来る事を嫌がっていた
「経費の関係で出来るか分らないけど 
壁を少し前にすればこの支柱と棚板の隙間は無くなるよ」
「そうなの」
「うん 壁に支柱を埋め込む形にすれば 
支柱が壁から出てこないから見た目も綺麗になるよ」
「そうですね ありがとうございます」
神山は支柱の部分の簡単な断面図を書いてあげると祥子は頷いた
「施工業者に壁と棚の隙間を無くすように指示すれば
そのように直してくれるよ」
「どうもありがとう やっぱりあなたに話してよかったわ
それで 商品配置は決まっていたんですけど 
隙間があるとこぼれてしまう恐れがあるものは置けないでしょ
だから 特に小物を置いたときは心配だわ」
「そうだね わざと隙間を空けて空間を演出する方法もあるけど
この場合の隙間は無いほうが使い勝手がいいと思いますよ」
祥子は心配事の一つが解決したので 顔が明るくなった
この後も神山のワンポイントアドバイスが続いた





次回は6月27日掲載です
.

2012年6月17日日曜日

芽吹き 3 - 7 Vol. 2



催事課の部屋に入ると 奥村課長が神山に
「山ちゃん 大変だよ もう店長が大喜びでさ」
神山は何を言われているのか 全然検討がつかなかった
「もう 課長 大丈夫ですか 今朝だって 主語が抜けていたし
今だって 本人はなにも分からないんですよ」
「ごめんごめん そうだったな いや上原の現場が
余りにもスムーズに事が運んでいるので アルタの内藤社長や
ニーナ・ニーナの筒井社長から お礼の電話があって
それで 是非山ちゃんに会いたいんだと これで分かった」
「課長 当たり前の話でしょ そんな」
「おう でもな店長は 特別に嬉しいんだよ 分かってくれよ」
「で どうするんですか 僕は」
「うん 大至急 秘書課に行ってくれ 頼むよ 昼から電話で
まだかまだかって 何回も言われているんだよ」
「たはぁー そうすると今朝の再現ですかね ははは」
「まさか」
奥村と神山が笑うと 部屋に居るみんなも大笑いした
「でもな お酒が入っているしな、、、」
「おう 酒も仕事のうちだぞ」
「そうですね では行ってきます でもなんだろう?」
神山が催事課の部屋を出ると 奥村は秘書課に電話をした
「秘書課です」
「催事課の奥村です あのー 神山部長ですが
ただいま現場から戻り そちらに向かわせました」
「あら大変 店長も催事課さんに行ってくるって出ました」
「えっ 参ったなぁー それでしたら 部長がつきましたら
大至急 催事課へ戻るよう伝えてください お願いします」
「ふふふ 奥村さんも大変ね 分かりましたよ」
奥村が電話を切り
「あーあ 店長がこちらに向かっているんですって 参った」
「おう 電話すればよかったじゃないか 山ちゃん又 怒るぞ」
「うん どうしよう なんか今朝から山ちゃんに振り回されてるな」
「ははは しっかりしろよ 奥ちゃん」
みんなで大笑いしていると
「おや 催事課は元気で賑やかだな 山ちゃんは来たか」
「はっ いらっしゃいませ 実はもうすぐきます」       
「おう そうか じゃ待たせて貰うよ」

催事課の部屋に突然現れたのは 池上店長だった
「はい店長 コーヒーです」
「おう いつもすまんね ありがとう」
斉藤由香里が入れたコーヒーを 池上店長は美味しそうに飲んだ
「店長 すみません 入れ違いになりまして」
店長はきょとんとしたが 事情を察し
「山ちゃん わざわざ悪かったな 何しろ嬉しくてな
こんなに嬉しくなったのは 久しぶりだよ」
神山は店長の傍に座ると
「何があったんですか?」
池上店長は 上原の現場が予想以上早く進み 業者や
ニーナ・ニーナから褒められた事が 嬉しいといった
「はい ありがとうございます もう寝る時間も割いて
がんばっています」
池上店長は笑顔で神山をみて
「そこでだ これ ワシからの気持ちじゃ 受け取ってくれ」
池上は胸ポケットから 茶封筒と取り出すと神山に差し出した
「そんな でも 頂きます ありがとうございます」
「うん 仕事が出来るといいな みんなから喜ばれる
おう 奥村君 少しは山ちゃんを見習いなさい」
「はっ 見習わせていただきます」
「なあ 倉さんもそう思うだろ」
「まあまあ 奥ちゃんも それなりにやってますよ」
「そうか でもみんなに喜ばれて無いぞ」
「ははは それは店長 組合の折衝の時でしょ」
「うん まあな ははは 今日は気分がいいな」

斉藤由香里はこの言葉が出たので 直ぐにビールを用意した
「はい店長 はい山ちゃん どうぞ」
「おう 倉さん こっちにこいよ ほら隅に隠れるな ははは」
倉元はしぶしぶ 店長の脇に座ると 由香里からビールを貰い
「おう では山ちゃんの発展を願って 乾杯」
「はい かんぱい」
3人はビールを呑み神山が上原の進捗を説明した
「そうすると そのチーフってのが綺麗なんだな」
「ええ 綺麗ですよ 頭も切れるし」
「おう ワシが仲人するから 式を挙げろよ」
「ちょ ちょっと待ってくださいよ 店長 それは無理ですよ
会社の人事のように 自分の駒を動かすのと違いますから」
「そうか 俺が口説けば 間違いないぞ」
「ほら そうしたら僕じゃなくて 店長の奥さんになっちゃう」
「ははは 上手だな わかった 上原は絶対に失敗しないでな」
「はい 分かりました」
「そうそう 時田さんも喜んでいたよ 電話があった
さあ 元気な山ちゃんを見たから 帰るとするか」
池上店長が立ち上がったので 神山は部屋の扉を開けると
「うん」
頷いた後に 耳元で
「今度は二人きりで呑もう こちらから連絡する 頼むよ」
神山は笑顔で頷き 店長をエレベーターまで見送った
席に戻ると 課長が神山のところに来て
「山ちゃん よかったでしょ 店長があんなに喜んでいるって
おれ久しぶりに見たよ」
「おう あんなにご機嫌なのはひさしぶりだぞ 山ちゃん」
「そうなんですか」
「おう きっと時田さんから褒められたから余計に嬉しいんだ」
「しかし 山ちゃんを見習いなさいって 言われてしまった」
「ははは 見習ったらどうだ」
「もう 倉さんも 苛めないでくださいよ」
「でも由香里さん なぜビールって分かったの?」
「うん それはね 以前一回あったのよ 確か夏だったわ
暑い暑いというから アイスコーヒー出したの そしたら
今日は気分がいい といわれて 答えようが無かったの
そのうちに ビールが呑みたいって言い出したの
だから 偉い人にそこまで言わせないように 気を使うわけ」
「なるほど そういう事があったんですね」
「だって 言いたいけど なんとなくいえない時ってあるでしょ
特に偉くなると だからぴーんと来たわけ」
「翔 分かったか」
「はい ようく分かりました」
神山は店長から貰った封筒を開けると 現金10万円入っていた
由香里が見に来て 
「凄い 私 初めての経験よ」
「おう 俺も初めてだな あの人がお金を出すって聞いたことない」
「わぁー これで又 プレッシャーがかかるな」
「おう いいじゃないか 励みになって」
「まあ そうですね」
「おう 帰りに耳打ちしたのはなんだ」
「それはまずいでしょ だって店長の耳に入ったら大変ですよ」
「ははは そうだな 悪かった ごめん」

暫くすると 入れ替え準備のために業者が 催事課の部屋に来て
催事担当者と什器など入れ替えの確認をする
神山も部長昇進の挨拶を受けながら 確認作業を進めた
7階の大催事場は閉店時間より早く閉めて 撤収作業に入る
神山は時間を見て 大催事場に行く時 倉元に
「倉さん 7階と地下を見て 大丈夫なら帰ります」
「おう 明日は出ないよな」
「ええ 倉さんはウインドーですよね」
「おう お決まりのウインドーだ」
「では 失礼します そうそう 木曜日はNNビルに行きます
多分 午前中だと思いますが 連絡は入れます」
「おう がんばってな」
神山は業者の人間と部屋を出ると 催事場に向かった
「しかし 山ちゃん凄いですね 部長と受賞」
「うん まあついていただけさ」
店内に入ると 若い女性がお辞儀をしてくるので 
神山もお辞儀をして挨拶をした

催事場に行くと商品撤収の最中で什器屋も待っている状態だった
什器屋の担当者に
「いつもの事だけど 多少の余裕は持ってきているよね」
「ええ 大丈夫ですよ」
催事場の什器は必ずといって良いほど 過不足がでる
原因は商品撤収の時に メーカーや売場が催事場に返さないで
そのまま持って帰るのが大きな原因になっている
特に売場の場合 商品撤収を借りている什器で売場にもって行き
木曜日にその什器が空くと そのまま放置しておくという
什器屋泣かせの売場も 結構ある               
神山達は今週の什器を 来週も使えると計算していると
急に員数が足りなくなり 次の売場が不足していると騒ぐ
そのような経験を何回もしていると 催事課だけではなく
商品管理課や総務課などが 催事場から移動する什器については
目を光らせ 監視するようになった
それでも過不足が発生するので 什器屋は多少余分に持ってくる

神山は7階催事場は後で見ることにし 各階で展開している
ステージの入れ替えや 模様替えしている売場を見て周り
地下の食品催事場にきた
食品催事場は撤収だけで 売場は明日定休日出勤して
準備をすることになっていた
食品部長が神山を見つけ
「こんばんわ 神山さん」
「こんばんわ」
「いや 凄いですね 受賞おめでとうございます」
「ありがとうございます たまたまですよ」
「いや 大したものです そうそう 美味しいのがあるんですよ」
そういって 部長席に呼ばれると杉田がちゃっかりと食べていた
「あっ 先輩 よく判りましたね」
「うん いい匂いがしてさ」
「この焼酎は美味しいですよ 課長 神山さんに作って差し上げて」
食品課長がポリカップにアイスと焼酎をいれレモンをいれて
「どうぞ神山部長」
神山は一口呑んで
「美味しいですね へぇー」
「美味しいでしょ 先輩」
催事課は売場と仲良くしていると 貴重な情報を貰える事が多い
「先輩 実は初日に別な焼酎を買って 昨日はコレを買ったんですよ」
「へぇー 売り上げに協力してんだろうな」
「勿論ですよ サービスで貰ったりしていませんよ もう」
「ははは 冗談だよ それで今夜は終わりか」
「ええ 久しぶりに早く帰れそうです」
「おいおい 7階はどうするんだよ」
「えっ 先輩が見ていくんでしょ」
「駄目だよ 上原があるから 見てくれよな」
「わぁー そんなぁー」                               
食品部長がまだ封を切っていない おつまみを出し
「翔ちゃん これあげるから 7階をみてよ 課長 もう1杯」
課長は翔のコップにアイスと焼酎をいれ
「翔ちゃん 残業代増えていいじゃん がんばって はいこれ」
翔はしぶしぶ神山の用件をのみ 焼酎を呑むとニコニコした
「僕はもう一回7階にいって様子を見て帰る
1階のステージもあるし 見るところは一杯あるぞ」
「ステージは明日でしょ 明日は出勤しますよ」
「うん 場合によってはこちらに来るが 上原の現場にいる」
「はーい 分かりました」
「部長 ご馳走様でした」
「いえいえ 翔ちゃんには 大サービスしますよ」
「ははは 翔 それじゃ あと頼んだよ」
「はい 分かりました」

神山は地下催事場を後にすると 1階のニーナ・ニーナ
ブティックによったが 飾り付けの商品が来ていなかった
(可笑しいな 何処かに紛れ込んでいるのかな)
探そうにもブティックの中には入る事が出来ず 考えてしまった
神山は祥子に電話をした
「はい 私です」
「こんばんわ 神山です あのさ 1階のステージとウインドーの
飾り付けで使う商品だけど ブティックの前に置いてないんだ」
「うーん まだそちらに届いていないと思います 配送中です」
「そうか ならいいんだけどね」
「ねえ まだ終わらないの」
「うん もう直ぐ出るよ 待たせてごめんね」
「ううん じゃ頑張ってね」
「ありがとう」
神山は7階に行くと什器屋を捕まえ 過不足を聞いた
「大丈夫ですよ 今回は」
「じゃあ 今夜は別件で先に帰るから あとは頼むね
杉田君がここを見てくれる事になっているから なにかあったら
店内呼び出しをかけて 指示を受けてください」
「はい 了解です」

神山は受付で自分のバックを受け取ると タクシーで向かった
青山3丁目の交差点でタクシーを降りると携帯電話をかけた
「神山です 遅くなってごめんね 今着いたよ」
「わかったわ 迎えに行きます 待っていてね」
携帯電話を切って 直ぐに祥子が現れ
「早いでしょ お疲れ様」
「うん 早いよ どこなの お店って」
「ここよ」
「ははは ここなら早いや」
祥子は交差点直ぐ傍のビル2階にあるイタリア料理店をさした
「このお店って 美味しいけれど あまり人が入っていないのよ」
「どうして」
「うん 多分高いんじゃないのかな」
「そうか 今はリーズナブルなお店が多いからね」
「さあ 入りましょ」
二人は腕を組んで階段を上がると シックな造りのお店だった
祥子が座っていたところに案内されると
「ねえ 今夜はステーキでも頂きませんか」
「おお いいね そうしよう なにかおつまみが欲しいな」
祥子はメニューを神山に渡し見てもらう事にした
「まずは 生ビールとピクルスとサラダがいいな」
「ええ そうしましょう」
神山はボーイを呼ぶと生ビールなどを注文した
「ねえ さっきの運送中の件だけれど こんなに遅い時間なんだ」
「ええ 一旦よそのお店から引き上げるでしょ それからだから」
「なるほど なら仕方ないね でも驚いたよ 無いんだもん」
「林さんから連絡は無かったの?」
「えっ 林さんから 連絡? 無かったよ
って言う事は倉さんには 伝わっているんだ まあいいか」
二人が話していると 生ビールなど運ばれてきた
「わぁー ボリュームが凄いね まずは乾杯」
「受賞 改めておめでとうございます」
祥子と神山はジョッキをカチンを合わせて美味しそうに呑んだ
「美味しいわ 私 呑まないで待っていたの」
「ごめんごめん 美味しいね」
祥子はニコニコしながらサラダを取り皿に盛り付けると
「はい あなた どうぞ」
「うん ありがとう」
神山は自慢話にならない程度に コンテストの事を話した
常連の倉元の事や 店長が喜んでいる事など話していると
祥子は一言も聞き漏らすまいと 真剣にでも笑顔で聞いてくれた
ビールが終わると赤ワインとステーキを注文した
先に赤ワインがワインクーラーに入れられて運ばれた
ボーイが上手にコルクを抜くと グラスにワインを注ぎ
「どうぞ 召し上がってください」
ボーイはそういうと クロスをワインボトルにちょんとかけ戻った

美味しいワインを呑み 柔らかいステーキを食べ 楽しい時間を
過ごせたと神山は心から喜んでいた
デザートを食べている時に 神山の携帯電話がなった
「ちょっと 失礼」
神山は電話に出ると杉田からだった
「やあ お疲れ様 どうした」
「先輩 ニーナ・ニーナの商品がまだ来ないんですよ
それで 倉さんがありそうな場所を探しているんですが無いんです」
「うん 分かった こちらから連絡するよ」
電話を切ると祥子に
「祥子 まだ商品が届いていないんだって」
「えっ いくらなんでも遅いわ もう10時でしょ 可笑しいわね」
そういうと祥子は携帯電話で運送会社に電話をした
「えっ 出ているの どこに向かっているの うん えっ倉庫
ちょっと待って ねえ 倉庫に入ってしまったの どうしよう」
「うん 明日朝一で届けてくれないかな 穴が空くよ」
祥子は頷き
「ねえ そうしたら そのコンテナは銀座の鈴やさんなの そう
うん だから明日朝一番で 鈴やさんに配送して 担当者は
倉元さんよ あとは 杉田さんよ そう催事課でいいわ お願いね
ねえ 何時ごろになるの えっ10時 もっと早くして お願い
うん いいわよ割高でも わかったわ9時ね はーいお願いします」
電話を切ると神山に
「ごめんなさい 明日朝一番で 9時前後に届くようにしました
本当にごめんなさい 折角の時なのに」
神山は直ぐに携帯で連絡を取ると杉田が
「今 倉元部長がいますから 変わります
おう 山ちゃん どこ探しても無いんだ」
「すみません 間違って倉庫に行っちゃったんです それで今
明日9時前後に 倉さんか翔宛に届くよう手配してもらいました」
「おう 分かった 9時前後だな 了解 ご苦労さん」
「すみません デコレーターに誤ってください すみません」
「おう 仕方ないさ じゃ 明日期待しているよ」
神山が電話を切ると 祥子に
「なんとか間に合うよ よかったよ 直ぐに連絡とれて」
「本当にごめんなさい でもなんでだろう 可笑しいな」
「まあ 明日 そうか休みだよね 木曜日にでも調べてよ
明日来れば 問題ないさ いつもの事だから気にしないでね」
「まぁ 優しいのね ねえ カラオケいく?」
「いいよ いこうか ここら辺にあるのかな?」
「渋谷に出れば 一杯あるでしょ 渋谷に出ましょうよ」
「そうだね 帰りも楽だし」

祥子と神山は渋谷でカラオケを楽しむと 部屋に戻ったのが
26時を過ぎていた
神山は受賞の喜び 祥子は商品手配のミスという喜びと不安が
交錯する二人はお互いの体をむさぼり合っていた
「ねえ 本当にごめんなさい」
「祥子 もういいよ 終わった事さ」
神山は一度果てた祥子の体を優しく触っていた
祥子は神山の肉棒を握りながらいじっていると 
「あらぁ 又元気になってきたわ ふふふ」
「うん 気持ちがいいよ」
祥子はそういうと 体をおこし肉棒を咥え 何回も味わっている
フェラチオをしてもらった
「祥子 ほら 顔をまたいで」
祥子は神山の指示に従って 顔を跨ぐと大事なところを見せた
神山は小さなクリトリスを 丁寧に舐めたりして愛撫を再開した
舌先の攻撃と指を使われ 祥子は興奮してきて 自ら腰を動かし
いよいよという時になり 自分が上になり交わった
腰を前後に動かし 神山のところに倒れると 肉棒に上下運動を
加えたり グラインドさせた
神山もしたから突き上げると 祥子は更に気持ちよくなり
上下運動のピッチが早くなってきた
「祥子 だめだ 出るよ」                  
「私も いきそう」
二人は一緒に果て 抱き合ったまま寝てしまった


4月8日 水曜日 快晴

神山は自分の携帯電話のなる音で起きた
「はい 神山です」
「あっ 先輩 おはようございます」
「やあ おやようさん どうした?」
「ええ ニーナ・ニーナの商品が届きましたよ」
「よかった 助かったな 倉さんに伝えた?」
「いえ 何処かに行って 居ないんですよ でも商品をステージや
ウインドーのところにおいて置きましたから 大丈夫だと思います」
「ありがとう リストどおりに割り振ってくれたんだ」
「ええ 先輩から頂いたリストを元に 割り振りをしました」
「ありがとう そうすると徹夜か?」
「ええ そうです 中途半端に帰るよりいいですからね
それに徹夜の理由もはっきりしているし」
「そうだな まあ当分は徹夜をして 稼げばいいよ」
「はい では」
「うん 頑張ってな」
電話を切ると目を覚ました祥子に
「ニーナ・ニーナの商品 無事に届きました ありがとう」
「よかったわ 穴を開けたら大変な事になるものね」
「うん よかったよ」
神山はそういって祥子にキスをすると
「あなた シャワーを浴びましょうよ」
祥子と神山はバスルームで戯れながら 互いの体を綺麗にした
浴室から出ると 祥子がバスタオルで神山の体を拭くと
おちんちんに軽くキスをして シルクのガウンを羽織った
「髪の毛を洗うと さっぱりするね」
「ええ 朝から気持ちがいいわ さあ ご飯の支度するわね」
「ねえ 部屋に戻って 何も無ければ渋谷で早いお昼にしないか」
祥子は時計を見ると9時になっていたので
「そうしましょうか 私はどちらでも構わないわ」
「ほら 駅前の新しいホテルで食事をしたいなぁーなんて」




次回は6月22日掲載です
.

2012年6月12日火曜日

芽吹き 3 - 7 Vol. 1



銀座店催事課

「由香里さん コーヒーください」
「どうしたんですか さきっから」
課長の奥村は神山が出勤してこないのでイライラしていた
5分毎に時計を見ては ため息をしていた
「倉さん 山ちゃんから連絡ありませんか?」
「おう 無いぞ 携帯にかければいいじゃないか」
「携帯が繋がらないんですよ」
「おう まだ10時だぞ なにおそんなに焦っているんだ」
「ええ それは本人が来てから はい 遅いなー」

暫くすると ラフなカジュアルファッションで神山が出勤すると
「山ちゃん 遅いじゃないか もう どうして携帯が
繋がらないんだ 繋がるようにしてくれ」
「課長 おはようございます お言葉ですが
地下は繋がらないんですよ 僕の携帯は まったく朝から」
「おう 山ちゃん おはようさん」
「倉さん おはようございます なんですかいきなり ねぇ」
「おう 課長さんは 山ちゃんを来るのを待っていたよ」
「へぇー それで朝一番から 携帯のいちゃもんですか もう
気分悪いですよね 由香里さん コーヒーください」
「そうよね まったく 酷いわよ」
奥村は少し言い過ぎたと思い
「山ちゃん いや神山部長 大変失礼しました
で ちょっとみんな集まってくれ」
課長が男らしく神山に謝罪したので テーブルに集まると
「実は えー 僕がイライラしたのも 報告をさせて頂くからです」
「おう 分かったよ 山ちゃんが又 なにかしたのか」
奥村は メモをとったノートを読み上げた
「内示がありました 2月に行われた 銀座バレンタインディー
ウインドーコンテストで 見事 神山部長が最優秀賞を
受賞されました 神山部長おめでとうございます」
「えっ 僕が最優秀賞、、、ほんとですか 嫌ですよ
やっぱりあれは 間違いだったなんて」
「山ちゃん 大丈夫だよ ほら9日に銀座会があるだろ
その会議内容が 昨日届いて秘書課が確認したところ
間違いなく うちの山ちゃんだ だからおめでとう」
「おう 山ちゃん 凄いな おめでとう」
「先輩 おめでとうございます 凄いですね」
「神山部長 おめでとうございます よかったわね」
「うん ありがとう」
「やあ おめでとう 同期として嬉しいよ」
「ははは 大ちゃん ありがとう」
みんなが喜んでいるとニーナ・ニーナから電話が入った
「はい 神山です」
「筒井です 最優秀賞 おめでとう よかったね
あそこで我が社の商品を見せてくれたんだよね 嬉しいよ」
「ニーナ・ニーナの商品が良かったからですよ」
「よかった そうそう スケールモデルとか
色々とありがとう 僕も嬉しいよ がんばってね」
「はい ありがとうございます」
「そうそう あと1件 9日木曜日朝10時にNN青山本社ビルに
来てください アルタの佐藤部長にも来ていただきます
奥村課長には 後で連絡します お願いします」
「はい 分かりました 伺います」

神山は電話を切ると奥村課長に
「課長 筒井さんからですが 9日の10時に青山の
NN本社ビルに来てくださいと言われ 佐藤部長も
呼ばれるそうです 課長には後で電話すると言っていました」
「うん 分かった 立ち上がりは大丈夫だよな」
「もう 翔が居ますから 大丈夫ですよ なあ翔」
「はい そうそうFAX頂きました ありがとうございます」
「うん あれを見ながら 説明するよ」
「ええ 良く書かれているので 感心してみていました」
「ははは 見ているだけじゃなくて 覚えてくれよ」
みんなが大笑いしていると奥村が倉元に
「倉さん どうでしょうか このコンテストと部長昇進の
祝賀会は地下で行いませんか 大々的に」
「おう そうだな 俺が昨年貰った時も地下でしたしな
いいんじゃないか 店長も喜ぶよ そうしよう」
「はい わかりました なあ市川君 段取りをしてくれ
忙しいのは分かるが 同期の祝賀会だ それと
翔 市川君のサポートを頼んだぞ それから」
「はい 私でしょ 大丈夫よ 連絡先などは記録してあるから」
「ははは お願いします」
「課長 お願いですが 土日は外してくださいね」
「なんで」
「だって もうずっと休んでいないんですよ
それに夜遅くまで仕事をして 朝早くからFAXで起こされ
土日は休みますからね あっても来ません」
「おう 山ちゃんどうした そうかすっきりしたか」
「ははは すっきりしました もう 朝一番で 課長」
「分かったよ もう苛めるなよ 頼むよ
こっちこそ分かって欲しいよ 伝えたいのに
携帯電話は繋がらないし 何時に来るか って訳さ ごめん」
「まあ 課長 ありがとうございます でも土日はだめですよ」
「うん 分かった 業者さんで土日休みが半分くらいあるでしょ
そうすると 今度の月曜日がいいかな 何もないと思うよ」
奥村は自分の予定表を見てみると 店長や販促部長も
何も予定が入っていないので この日に決定とした
「市川君 早速地下に電話をして いつもの人数だから
大広間だ そこを押さえてくれ 頼んだよ」
「はい 分かりました」
市川は席を立つとホテル禅 日本料理 四季に電話をした
宴会担当と挨拶をして 本題を伝えると快く了承してくれた
「課長 OKです」
「うん ありがとう 翔 後は案内状など 市川君と進めてくれ」
「はい わかりました」
「杉田さん 昨年のが取ってあるわよ 後で持っていくわね」
「さすが ありがとうございます」
「課長 倉さんは」
「うん 2位だ しかしうちでワン・ツーなんて初めてですよね」
「おう 俺が1位の時 確か山ちゃんは僅差で3位だろ
あと 俺以外で 1位は居ないはずだけどな うーん 忘れた」
「僕も秘書課で確認したんですが 倉さん以外に居ないんですよ
そんな訳で 山ちゃん 本当におめでとう 店長も大喜びさ
それで 今日お昼はどう 一緒にいかない たまには」
「すみません お気持ちだけ頂ます お昼に現場で打ち合わせです」
「そうか 残念だな なんか寂しくなるな」
「おいおい 奥ちゃん 別に遠くに居るわけじゃないだろ
山ちゃんは今が一番大切な時期なんだよ 分かってあげろ」
「はい すんません がんばってな」

このコンテストは銀座1丁目から9丁目までの
ショーウインドーを持っている販売店なら業種関係なく参加できるが
ショーウインドーの床面積が5㎡以上あることと規定が有り
あと参加費を支払わなければいけない
コンテスト期間は2週間と決められていて 今年はバレンタインに
あわせて2月1日から14日の間と決められた
毎年参加してくる所は 百貨店や大きい会社が参加してくる
裏通りにある個人経営のブティックなどは 以前は参加していた所も
有ったが 不景気の影響か今は殆ど参加していない
昨年は倉元が久しぶりに一位を受賞したが 連続受賞は無理だった
しかし 倉元はいつも上位 特に3位以内に入っている実力者だ
ウインドーコンテストは参加しているウインドーに『1998 
ウインドーコンテスト参加』と印刷されたステッカーを貼り
行き交う通行人や購買客に参加している事を表示する
気に入ったウインドーを選んでもらう市民参加型のコンテストなので
デコレーション技術だけではなく総合デザインが問われる
投票用紙や回収箱は各交通機関の駅や参加している店舗だけではなく
銀座のいたるところに置かれている
実際の順位決定は市民参加分が100票で0.01ポイント獲得で
参加した店舗ウインドーに各ポイントが割り振りされ仮順位が決まり
コンテスト実行委員会では最初この作業から始まる
実行委員会の投票人数は70名で持ち点1が与えられ
実行委員会理事は5名で3ポイントが持ち点になる
最終的に1位になるには 実行委員会でのポイント85ポイントと
市民参加分ポイントが加算されその時の過半数を
超えなければ一位にはなれない
今回市民参加分が108ポイント(108万人分)と
85ポイントを加算し193ポイントになり過半数97ポイントを
超えなければ1位になれない
順位決定投票は市民参加分で上位8位までが残る
そこから実行委員や理事が投票し過半数が出たら1位だが
過半数に達しない場合は下位2つのウインドーが消える
この時残った6つのウインドーに対して入賞が与えられる
再投票し下位3つのウインドーが消える
最後に3つのウインドーに対し85ポイントがどう動くか
いつも注目されている所だ
今回鈴やのウインドーコンテストには神山だけ参加するか否か
議論が有ったが最終的には倉元の参加も決定した
参加費用も1件に付き20万円なので 
倉元と神山の6位の入賞は果たしたかった
昨日の午前中から事前に提出された規定の書類や写真を審査し 
実行委員会の投票が行われた
市民参加分のポイントでは倉元が1位 神山は5位だった
そこから各委員の投票で倉元が1位 神山は3位になった
再投票で倉元が1位だが過半数97ポイントを獲得出来ず
僅差で2位になった神山と再投票で
神山が97ポイントを獲得して目出度く1位になった

「しかし 何が良かったのかなぁー」
「それは 山ちゃんの腕でしょ」
「おう ニーナ・ニーナの商品が輝いていたぞ それだな
デコレーターは多少感性の違いはあるが みな同じ腕だ
山ちゃんの最終ジャッジと商品構成がばっちりだったんだ」
「倉さんのメインウインドーが良く目立つので
これは商品構成で やるっきゃないと思いましたよ」
「おう 筒井ちゃんも大喜びだっただろ」
「ええ いつもよりトーンが上がっていました」
みんなが大笑いしていると 早速デコレーション会社
スーパーデコの細川社長から電話が入った 由香里がでて
「課長 スーパーデコの細川社長からです」
「ああ ふとかわさんね わかった」
みんなが一斉にしーっと合図した 奥村も頭をかいて
「はい 奥村です」
「細川です おめでとうございます」
「ありがとうございます いつも力になって頂き はい」
「それで今回は 倉さんではなくて 山ちゃんだそうですね」
「ええ 本人もそれなりに頑張った様子です」
「また 祝賀会するんでしょ」
「はい 案内状が出来たら直ぐに FAXします はい」
「ええ 楽しみにしているわ お願いね」
「はい ありがとうございます はい」
奥村は電話を置くと ほっとした様子で席に戻った
「課長 まずいですよ ふとかわって
普段思っているから 出てしまうんですよ 聞こえたかも」
「そうですよ 男性ならまだしも 女性ですよ 失礼な」

スーパーデコ社長 細川恵子は独身で50歳
そのグラマスさは有名で『ふとかわさん』で通っている
肌着のサイズは国産では間に合わないで 外国製を使っていると
言われているくらい 凄いサイズの持ち主だ
以前 祝賀会で逃げる奥村が強引にキスをされてからは
絶対に「細川」と呼ばず『ふとかわ』と呼んでいる

「分かったよ みんな白い目で見るなよ 考えてくれよ
あのボディーでキスをされたんだぞ 人の気持ちも考えないで
そうだ あの「ふとかわ」さんが いいと思うのは手を挙げて」
奥村以外 全員手を挙げて由香里は
「あんなに優しい女性は居ないわよ なによ大きいからって」
「そうか でもな俺は どうしても駄目なんだよ」
「はいはい じゃ今回は隣に座ってもらいましょうね」
「由香里さん なんで いいじゃない 店長の隣で」
「市川さん 聞いた 隣でOKだからね 上座の席次は決定よ」
「はい 分かりました そのようにFAXします
絶対に細川社長喜びますよ 課長の大ファンですからね」
「ふーん 分かった ってことで はい解散」

奥村が課長席に戻ると直通電話が鳴った
ニーナ・ニーナの筒井からの電話で 9日10時会議の
出席依頼と会議概要を伝えられたが
「山ちゃんだけでも よろしいですか 僕の方は店長対応が
あったり 立ち上がりの日ですから」
筒井は事情を考慮して 神山一人の出席を了承した
「山ちゃん 筒井さんから 正式に出席要請があって
僕は出られないので 山ちゃん一人という事で 了承して貰った」
「はい ありがとうございます では木曜日は向こうに
直接行きますので こちらはお願いします」
「うん 分かった」
「さあ 翔 仕事だしごと 昨夜のFAXを持ってきて」
神山は杉田翔に センターテーブルで仕事のポイントを説明し
分からないところは 徹底的に分かりやすく例を話しながら
理解 納得してもらうよう勤めた
「ざっとこんなもんだけどさ 大体把握できただろ」
「ええ 僕の知らないポイントばかりです ありがとうございます」
「うん 一回失敗すると覚えるだろ 渉外の時には特に
気をつけなければ その場で悪いイメージを持たれてしまう
だから こうやって事前に勉強すればいいんだ」
「そうですね 後は場数を踏まないと、、、」
「うん 場数を踏むにも知らないのと知っているのでは
雲泥の差があるからね 勉強をして損は無いよ」
「はい 分かりました」
「おう 翔 いいバイブルを手にしたな 頑張れよ」
「はい ありがとうございます」

神山は席に戻り 一息ついて時計を見ると12時になっていた
「わぉ もう12時だよ 参ったなぁー」
独り言をいい 書類に目を通すと 隣の翔に
「翔 これから僕の机に来たものは どんどん処理してくれ
ただし 什器などは絡みがあるから確認してからな
でないと リース代が増えてしまうからさ 使い回しが
出来るようなら 使い回しをすること お願いするね」
「はい それでも分からなかったら 電話をします」
「うん うるさい売場リストはあげただろ そこから申請が
きたら 僕に一言連絡をくれ 頼んだよ」
「はい このABランクですね」
「うん ABランクは売場というより その人物だ 融通が利かない
煮ても焼いてもどうにもならない人物だ いいね」
「おう 山ちゃん xxx君は入っているか」
「ええ AAランクに入っています」
「うん 彼は店長にも楯突くから 要注意人物だな」
「なっ 分かっただろ しかし一回失敗すると覚えるけどな
そうすると こんなリストは要らなくなるよ ははは」
「またぁー 失敗しないようにのバイブルでしょ もう」
「そうそう 機転が利けば 簡単さ 勉強だよ」
「じゃ 上原に行きます あとは頼んだよ」
「おう 山ちゃん 夜は来るんだろ」
「ええ 来ますよ 大丈夫ですよ」
「うん じゃ 頑張ってな」
神山は催事課の部屋を出るとタクシーで上原の現場に向かった

「やあ 考ちゃん 少し早かったかな」
「そんな事無いよ それで久保さんも来るんでしょ」
「うん 連絡が無いから 来るはずですよ 大丈夫」
「そうしたら 駅前寿司で見ることにしようか?」
「うん いいよ」
高橋と神山が現場で話をしていると祥子が駅から歩いてきた
神山を見るとニコニコしながら手を振った
「お疲れ様 早く来られたみたいですね」
「ええ お仕事が早く終わって 良かったわ」
高橋は二人を駅前寿司に案内すると 田中幸三が先に来ていて
席を確保していた
「やあ 幸三ちゃん ありがとう」
「いえいえ ここの方がゆっくりと見てもらえると思いまして」
神山は見やすいモデルの傍に座ってもらい 自分は祥子の
隣に座り 高橋と向かい合う格好になった
「それでは オープン」
田中幸三はスケールモデルを覆っていた布を取ると 現場を
忠実に再現されたモデルが現れた
「わぁー 凄く大きい へぇーこうなるんですか」
「考ちゃん 良く出来ているじゃない 凄いね」
「うん 山ちゃんの仕事だから ばっちしさ」
祥子は上から眺めたり 角度を変えてみたりした
田中幸三がバックヤードから 人形を5個出して 店内に飾ると
「わぁー こうなるんだぁー へぇー この人形も
スケールダウンですか?」
「ええ そうですよ どうですか?」
「ええ これだと図面で分からない事が 良く見えてきますね」
祥子は入り口のところに目を当てて 店内を見ていると
感心し 一人頷き見入っていた
「考ちゃん これって1/20でしょ ただ天井の所はあの赤い線」
「そうです 壁は天井ラインで切らないで 赤線で表示です」
「いかがですか?久保さん どこか不明なところはありかすか」
神山が聞くが 多分見たばかりなので 何も見えてこないだろうと
思い 什器なども動く事を伝えると 自分なりに移動させた
「わぁー こうするとわかりやすいけれど パズルのようね」
「ははは パズルか そうですね」
神山は時間をかけなければ 納得する配置が決まらないと思った
「久保さん このモデルは現場に置きましょうか それとも
僕の事務所にでも置きましょうか?」
「現場でいいですよ 現場に置いてください」

「さあ それではお昼の時間にしましょう」
高橋は女将におつまみとビールを運んでくれるよう頼んだ
おつまみは事前に準備されていたので 直ぐに運ばれたが
祥子はおつまみが来ても モデルに興味があり時々見ていた
田中はビールをみんなのグラスに注ぐと高橋が
「それではモデルの完成で 乾杯」
みんなが乾杯をして 祥子もようやくみんなと話すようになった
「神山さん ウインドーコンテスト最優秀賞を受賞されたんでしょ
おめでとうございます 凄いですね」
「もう話が伝わっているんだ そうなんですよ」
「そうそう 山ちゃん おめでとうございます 凄いね」
「まあ たまたまですよ でも良かった
筒井さんも 大変喜んでくれたし」
「そうね 筒井も自分の事のように 喜んでいたわ」
「飾って頂いたドレスシャツは 全部売れてしまったわ
大変な反響だったですよ」
「そうなんですか へぇー あれって高いのに良く出ましたね」
「デザインや品質を考慮すれば安いって 分かってくれる女性が
少しだけ 財布の紐を緩めてくれたのね」
「そうか よかった 陳列して売れなかったら大変だからね」
4人はコンテスト受賞の話で盛り上がりながら食事を終えた

神山は先に店を出て祥子に
「これから 銀座に行くけれど 会社に戻る?」
「ええ 会社へ行きます」
「じゃ 送っていくよ」
「えっ ほんと」
二人が話していると 高橋と田中が店から出てきたので
「考ちゃん ご馳走様」
「ごちそうさまでした」
「いえいえ どういたしまして そうしたらコレを現場において
僕らは 会社に戻ります」
「うん お願いします 又 連絡しますね」
「はい じゃ」
高橋と田中はスケールモデルを持ち現場に歩いていった
神山は少し歩いて タクシーを拾い銀座にむかった
「凄いわね あのモデル」
「うん 良く作ってくれました ははは」
「ねえ 知っている 9日の事」
「うん うちは僕だけだよ 課長から筒井さんに話していたよ」
「なんなのかしら 分からないわ」
「うん 何だろうね アルタの佐藤部長も招待されているんだ」
「へぇー なにかしら?」
「今回は全然 読めないや って言っても自分の事分からなかったし」
「ねえ 今夜は何時頃になるの」
「うーん 8時には動けるよ もう少し早いかな」
「そうしたら イタリア料理でもいい?」
「うんいいよ」
「そうね8時に3丁目の交差点はどう お店は直ぐ近くなんだ
私 早く終わるから お店で待っています」
「了解 交差点に着いたら電話するよ」
「うん分かった 私ね 明日なんだけど お休みを貰ったの」
「へぇー 凄いね 土日じゃなくて 大丈夫なんだ」
「うん ほら先日名古屋に帰ったでしょ その荷物がくるの」
「それで休みを貰えたんだ いいね」
「うん それから ソファーとか家電製品を買わないといけないし
だから 時間が空いているようだったら 渋谷に一緒に行かない」
「うん 明日は多分急ぎは無いはずだから 大丈夫だよ」
「じゃ お願いね」
タクシーが青山3丁目の交差点で止まると
「すみません 一人降ります お願いします」
そういうと扉が開き 祥子が反対側の歩道を指をさし教えてくれた
「じゃ今夜」
「はーい 待っています」
祥子は手を振って見送ってくれた





次回は6月17日掲載です
.

2012年6月7日木曜日

芽吹き 2 - 6 Vol. 3



「おう 頼むぞ」
あいにくと奥村課長が居ないので由香里に
「由香里さん 上原現場にはいってそのまま帰ります
っていっても事務所で翔のお仕事をしますがね ははは」
「はい 頑張ってね 林さんの件は大丈夫?」
「うーん だって僕がどうこうできない話でしょ 大丈夫ですよ」
神山は催事課の部屋を出ると 表通りでタクシーで上原に向かった
考えてみると 今日はタクシーに乗るのが これで4回目だった
(よかった 祝儀を貰っていなければ こんなに乗れないよな
近距離だと佐藤さんから貰った タクシー券も使いづらいし)

上原の現場に着くと高橋が待っていて手を挙げた
「やあ山ちゃん ごめんね 忙しいのに」
「なに言っているんですか お互い様ですよ それで」
高橋と神山は問題の柱に行くと神山が
「なるほど 確かに下がっているね そうするとタイルのままだと
コンクリの補修も出てくるものね コンパネにしようよ
床レベル出してさ 柱にアンコすれば問題ないでしょ」
「うん そうするよ うちのデザイナーもその方がベターだって
喜んでいたよ それに経費が減るし」
「うん では ハツリなしで決定 で モデルはどう」
「うん 製作部と誠二らが手伝っているから 明日にでも出来るよ」
「早いね さすがアルタだね」
「山ちゃんが来たんだから のんびりしていたら怒られますよ」
「ははは」
神山は笑うと 外との境にあるのガラスにいくと 手のひらを
ガラスのほうにだして 外光の明るさを調べた
「どう 山ちゃん 軽くいく?」
「あそこ?」
「うん」
神山は時計を見ると17時になっていた 
1,2時間くらい呑んでも大丈夫とみて
「行きましょう」
高橋は店舗の鍵を閉めシャッターを下ろした

二人は駅前寿司に入ると 奥の座敷に案内され女将に
「鮮魚のおつまみと生ビール2つ」
「はい 何回もありがとうございます」
「ははは そうだね これからも一杯来るからね」
高橋と神山は顔を見合わせて 笑った
「ねえ 考ちゃん フローリングだと色は決まっている?」
「全然 一応候補は出してあるんだけれど」
「そうしたらさ 300角のサンプルを持ってきて貰えるかな」
「そうだね うん準備して現場に持ってきますよ」
「うん あそこね 照明も難しいよ だから早め早めに
手をうって進めないと オープンが6月になるよ」
「そうだよね さっきもさ 雨が降っているのに明るいでしょ
だから 考えていたんだ」
「うん この時間になると 結構暗くなっているけれどね
店内店舗と違って ちょっと工夫が必要だね」
「うん よかった山ちゃんが一緒で ははは」
「そんな なにも出ないですよ」
二人はお昼にここで食べたばかりなのに 箸が良く動いた
ゆっくり呑んでいると18時になり この時間になると
会社帰りのビジネスマンが多くなってきた
神山は高橋に
「今夜は ちょっと用事があるから もう直ぐ出てもいいかな」
「ごめんごめん そうしたら 事務所で待っているのに
お土産を作ってもらうから ちょっとだけ大丈夫?」
「うん 全然 そのくらいは大丈夫さ ほら店外催事とか
若いのが一人だからさ こちらで進めないとね」
「そうだね まだお中元じゃないでしょ」
「うん あれは5月に入ったら直ぐに始まるでしょ」
「そうか 5月はダブルで大変なんだ」
「うん でもデザインさえ出来れば あとは現場だから
考えようによっては 気が楽だよ」
二人が話していると 女将が
「お客さん お土産できました こちらに置いておきます」
「はーい ありがとう」
「じゃあ 考ちゃん 出ましょうか ご馳走様」
「いいえ 助かりますよ 仕事が速くなるよ ほんと」
神山は先に表に出ると 雨はすっかりあがり気持ちが良かった
高橋が会計を済ませ出てくると
「じゃあ また連絡をください」 
「うん モデルが早く欲しいな」
「ええ 頑張ります それでは」
「じゃ」
高橋は駅構内に消えてゆき 神山はマンションに歩いていった

神山はマンションに帰ると シャワーを浴びて体をすっきりさせ
30分ほど寝る事にした
タイマーを19時に合わせ ベッドに横になった
目覚ましのけたたましい音で目が覚めると 部屋着に着替え
缶ビールを呑みながら 催事課の仕事を精力的にこなした
20時少し前に 携帯電話がなり出てみると
「祥子です ごめんなさい 遅くなって」
「うん 大丈夫だよ」
「今 会社を出ました」
「わかった 注文するのはピザだけでいいのかな?」
「任せるわ お願いします」
電話を切るとピザ屋に電話をして 住所を告げると30分かかると
いわれ 承諾して持ってきて貰うことにした

「こんばんわ」
「やあ お帰りなさい まだピザが来ていないんだ」
「はーい 来たら教えて 取りにくるわ 私の部屋でいいでしょ」
「うん じゃ準備しておいて」
祥子は部屋に帰ってくると 大急ぎで着替え神山の部屋で話した
「しかし ほんと事務所ね」
「ああ 大きなテーブルにパソコンに大きなFAX 事務所だよ」
「そうしたら お願いね 教えて」
祥子は神山に軽くキスをして 自分の部屋に戻っていった
神山は仕事に集中したので 催事課の仕事が結構進んだ
ピザが配達されると 祥子の部屋に運び 予め用意された
お皿に盛り付けを済ませると 冷蔵庫から缶ビールを取り出し
二人のグラスに注ぎ
「お待たせしました かんぱーい」
「うん 乾杯」
祥子はフォークとナイフでピザを切り分けると
神山の取り皿に乗せた
「はい どうぞ」
「ありがとう」
さらに祥子はサラダも取り皿に盛り付けると
「はい サラダも食べてね」
「うん ありがとう さあ 食べようよ」
祥子は自分の分を取ると一口食べて
「あー 美味しい お腹ぺこぺこよ」
「お昼から何も食べなかったの」
「ええ ほらバックヤードの容量を計算したりで おやつも
食べる時間が無かったの でも大体計算できたわ」
「凄いね で 図面に書いてある通りで 大丈夫なのかな」
「ええ 大丈夫だった でも 結果論でしょ
私 計算して 良かったと思う」
「良かった そうすると基本的なところは OKだね
どうしてかというと あの場所で5cmとか10cm動かすのは
什器の寸法まで影響して来るんだよ」
「へぇー それで大体の奥行きを決めて 後は微調整なの」
「そうなんだ 最初から5cm単位のレイアウトをしていると
二度手間 三度手間になってしまい なかなか前に進まないんだ」
「うんうん 分かるわ」
「そうか ちょっと失礼 アルタがモデルを作っているから
今のうちに教えてあげれば 固定できるでしょ
連絡してくるよ ちょっと待っていてね」
神山は自分の部屋に戻るとアルタの高橋に電話をした
「考ちゃん ごめんね 大丈夫かな」
「ええ 大丈夫ですよ」
「今ね ニーナ・ニーナの久保さんから連絡があって
バックヤードの奥行きだけど 図面どおりでOKだって」
「ほんと よかった 助かったよ これで固定できます」
「それでさ どうだろう あと5cm売場側にふかせるかな」
「ええ 一応10cmは見ていますよ」
「うん 彼女 バックヤードの容積を計算したんだって
大したもんだよ そこから割り出して OKだって」
「へぇー 凄いですね」
「じゃあ お願いします」
「明日持って行く事ができます」
「喜ぶぞ お願いね」
神山は電話を切ると 祥子の部屋に入るなり
「よかったね 明日モデルが出来るって 喜んでいたよ」
「わぁー ほんと 嬉しいわ ありがと」
「うん やっぱり壁を固定しないとふらふらするでしょ
それが大変なんですよ なので最初に決めて貰うと助かる」
「そうか 固定していないと どうするの」
「うん 例えば 上にテグスを張ってそこにぶる下げるとか
どちらにしても 格好は悪いし 参考にならないんだよ」
「うんうん 分かる じゃ私 スピードアップに貢献したのね」
「そうだよ ありがとう」

「じゃ赤ワインを呑みましょうか ちょっと待ってね」
祥子はそういうと棚から ワイングラスを取り出し
「はい お願い」
今度は冷蔵庫の野菜室から赤ワインを取り出した
「ねえ コルク抜くのやってぇー」
神山はコルク栓抜きを上手にねじ込むと ゆっくりと引き上げ
ポンと音を出し 綺麗にコルクが抜けた
神山はワイングラスにワインを注ぎいれると 祥子に渡し
「じゃ 改めて乾杯」
「ありがと これからも教えてね 嬉しいな」
暫く食べたり呑んだりした後に神山が
「ねえ 今日ね林さんが 僕を訪ねてきたんだよ 驚きさ」
「えっ 貴方のところへ」
「うん だから何も知らぬ存ぜぬで通したよ ドキドキしたよ」
「うーん そうですか ごめんなさい」
「いや 別に気にしていないよ はっきり言ってよそ様の
人事に僕がどうのこうの言える立場ではないからね」
「そうよね でも今日も 夕方に林さんから電話があって
辞めたいという内容だったの 困ったわね」
「僕は筒井さんを信じているよ 大丈夫だよ 任せておけば」
「ほんと 大丈夫かしら」
「信用してあげないと 筒井さん可哀想だよ」
「そうね わかったわ ごめんなさい」
祥子はいつもの明るい笑顔に戻り フォークをすすめ
「ねえ 明日のお昼はどうされるんですか」
「うん たぶん現場だと思うよ お昼一緒にしようか」
「ええ 私も書類を届けるところがあって 上原に来るんですよ 
そうしたら1時でいいかしら?」
「うん じゃ1時に現場で集合だね 居なかったら駅前寿司」
「わはっ また駅前寿司 大丈夫?」
「いいじゃん あそこの鮮魚は格別美味しいよ 安いし」
「はーい なにかあったら携帯電話ねっ」
「うん お願いします」

楽しいひと時を過ごし ダイニングテーブルで寛いでいると神山が
「ねえ 祥子さん 僕は仕事があるので 向こうの部屋に戻るよ」
「えっー 戻っちゃうのー 寂しいな」
「うん でもやらなければいけないことが沢山あって」
「分かったわ 明日の夜は絶対に お泊りしてね」
「うん 一応銀座の作業を確認して戻ってくるよ」
「わぁー お願いよ だったら邪魔しないから貴方の部屋に居ていい?」
「うん 来てもいいけれど なにもないし つまらないよ
また明日にでも部屋の中は 見せるよ だから我慢して」
「うん じゃ おやすみなさい」
「明日 朝ごはんを一緒に食べたいな」
「うん いいよ 起こしてあげるね」
「よっかたぁー 助かるよ 美味しいし 祥子の顔は見ていられるし」
「じゃあ いってもいい?」
「ははは 祥子の顔を見ていたら 仕事にならないじゃないか」
「ふふふ そうね ごめんなさい」
神山と祥子は抱き合って キスをすると祥子が
「はい そこまで ねっ お仕事でしょ」
「うん じゃ ゆっくり寝てね 明日もハードだよ」
「はーい おやすみなさい」
神山は祥子の部屋を出ると 自分の部屋で貯まっている仕事をし
翔がこれから担当するであろう 仕事の整理を始めた
資料が無い為 思い出しながらポイントをパソコンで入力して
プリントアウトした 出来ればメールで送りたかったが 
簡単なイラストや注釈を 記入するところが無くなり 
プリントアウトした用紙に記入をし FAX送信する事にした
神山は時計を見ると25時を回っていたが構わずFAXをした
冷蔵庫から缶ビールを取り出し グラスに注ぎ呑んだ
テラスに出てみると 涼しい風が気持ちよく タバコをふかし
遠くの山を眺めていた


4月7日 火曜日 晴天

「あなた 起きてください」
神山は何事かと思い起きると 玄関で祥子がドアフォンを使って
お越しに来てくれていた
「やあ おはよう」
「もう 携帯に電話しても出ないし 仕方ないから来たわ」
「ごめんごめん 遅くまで起きていたから ついつい」
「良かったわ 起きてくれて さあ そのまま来て
私の部屋で シャワーを浴びたらいいわ」
「うん そうするよ そうだ祥子さんのところにビールはある?」
「うん 大丈夫よ」
「ちょっとまって カードを忘れると大変だ」
神山は部屋のカードキーを持って祥子の部屋に移った
キッチンからは 焼き魚の匂いが香ばしかった
「わぁ いい匂いだ お腹が空いてきたよ」
「ほんと 嬉しいわ じゃ早くシャワーを浴びてきて
着替えはバスルームに置いてあります」
「うん」
神山は熱いシャワーの湯で体を引き締めると 髪の毛や
体を丁寧に洗い流した
バスタオルで体を良く拭いて 棚にはバスローブが準備され
それを羽織 部屋の戻ると祥子が
「さっぱりしたでしょ さあ腰掛けて」
朝のキスを交わすと 着席をうながした
祥子は冷蔵庫からビールを取り出し 二人のグラスに注ぎ
「じゃ 今日一日頑張りましょう」
「うん ありがとう がんばりましょう 頂きます」
神山は早速干物を口にしたが 丁度いい焼き加減で美味しかった
「祥子さん 美味しいよ 嬉しくなるな」
「ねえ その祥子さんは止めて 祥子でいいわよ」
「うん 分かった」
神山はビールを呑みほすと祥子はもう1本出して
「大丈夫でしょ」
「うん 頂きます」                           
祥子はビールを二人のグラスに注ぎ呑んだ
「あー美味しいわね 朝からビールって」                      
「はは 強いんだね」
「ううん その日の気分よ 今日は天気もいいし 気分も最高」
「なるほど それでビールを呑んでも大丈夫なんだね」
「ふふふ 食前酒ってところですね」
神山は目玉焼きを食べたが 黄卵が甘くて味が濃厚だった
「祥子さん この目玉焼き 美味しいね」
「ほんと 嬉しいわ これは名古屋コーチンの玉子なのよ
褒めてもらって嬉しいわ よかった」
「そうすると 新幹線で持ってきたの?これを」
「ええそうよ パッキンして持ってきたの」
「はぁー 貴重な玉子なんだ 味わって頂きます」
神山は祥子が作ったという煮物も頂いたが美味しかった
朝ごはんが終わると タバコが吸いたくなり 祥子に
「ねえ 祥子さん タバコを1本恵んでください」
祥子はニコニコして 棚からスモールシガーを取り出し
神山に手渡すと
「では ちょっと外で吸って来ます」
「いいわよ ここでも」
「でも いいよ」

神山は東向きのテラスに出ると 朝日を浴びて気持ちよかった
新宿方面を見ていると 自分はのんびりとこうやって
ある部分束縛されない仕事をさせて貰い ありがたいと思った
今 この時間はサラリーマンにしては 会社へ行く戦いが
始まっている時間だ 今日一日の作戦を練ったり ミスの
穴埋めをどうするか考えたり 満員電車のなかから始まっている
「どうしたの 呼んでいるのに」
「ごめんごめん ちょっと考え事をしていたのさ」
「気持ちいいわね ここで吸うのも」
見てみると祥子もスモールシガーをふかしていた
「さあ 支度をしようよ 祥子さん」
「ねえ 祥子さん じゃなくて 祥子だって言っているでしょ」
「ははは そうだね ごめんごめん 祥子 支度をしようよ」
祥子はニコニコしながらシガーを灰皿に捨てると部屋に入って
神山に抱きつくと 熱いキスを交わした
「はい ここまでよ」
「なんで ほらこんなに大きくなった」
神山はガウンの真ん中が盛り上がっているのを見せると
「だめよ 忙しないとゆっくりと楽しめないでしょ もう」
神山はガウンの合わせを開くと 肉棒がぴょんと出てきた 
「どうしてパンツ穿かないの?」
「えっ 無かったよ」
「また そんな」
祥子は慌ててバスルームに行くと パンツは乱れ箱に落ちていて
「ごめんなさい 下の箱に落ちていました」
祥子はそう言うと パンツを穿かせ肉棒へはちょことキスをし
「あとは自分であげてね」
「もう でも今夜に楽しみを取っておくよ」
祥子は笑顔で答えると 食器類をさげて支度を始めた
女性の着替えるところを じっくりと観察したかったが やめて
食器類を洗って 籠に入れ水切りをした
「ありがとうございます 助かるわ 貴方の支度は」
「あっ そうだ 直ぐにするから待っていて 忘れていたよ」
神山はガウンを脱いで パンツ一枚で自分の部屋に戻った
慌てて催事課に行かなくても良かったが 祥子の誘いなので
せめて駅までも一緒にいこうと支度をした

神山はドアフォンのところで
「支度できたよ」
「はーい」
そういうとドアが開き 神山はびっくりした
「あー 驚いた 心臓に悪いよ ははは」
二人は手をつないでエレベーターを待っていると祥子が
突然キスをしてきて
「まず お昼でしょ それから夜でしょ 絶対だからね」
「うん 大丈夫だよ」
話していると箱が上がってきて 1Fに降りた
エントランスルームは 朝日が燦々と差込気持ちよかった
外に出ると祥子は神山の腕を両手で絡め 豊満なバストを
押し付ける格好で歩いた
神山はこのまま祥子と一緒に生活してもいいかなと思ったが
果たして 子供が居る事だし 下手に告白しないでおこうと思った
代々木上原の駅に着くと 神山は
「僕は また事務所に戻るよ」
「えっ 戻るの」
「うん 連絡待ちが一件ある ごめんね」
「もう」
そういうと人目を憚らずにキスをした
「ねえ みんな見ているよ」
「いいじゃない 見たい人には見せておけば」
そういうと又 キスをしてきた 今度は少し長かった
「さあ 行ってらっしゃい」
「はーい じゃ1時に」
「うん」
祥子は改札口へ向かう人ごみの中に消えていった

神山は構内のATMを利用して150万円を入金した
通帳を見ると残高は殆どゼロに近い状態から150万という
桁違いの数字が打刻され 自身驚いた
神山は離婚した時の約束で 子供たちが成人するまで
仕送りをする約束を交わした 思うように仕送りが出来ず
給料日の前日に残っている金額を送金してきた
だから神山の通帳は一向に増えず 毎月ゼロ円に近い数字だった
しかしこのお金は 今後の事もあるので 貯金に回し
5月に出る 賞与を全額振り込めばいいと思った

部屋に戻るとアルタの高橋からFAXが届いていて
スケールモデルは今日12時に現場に持っていくと書かれていた
神山は高橋に電話をすると
「おはようさん」
「やあ山ちゃん おやようさん」
「FAX見たよ ちょっと駅まで行っていたんだ
それで 1時にニーナ・ニーナの久保さんが現場に来るんだよ」
「じゃ 丁度よかったね」
「何時までかかったの?」
「うん 製作部は3時頃って言っていた」
「ありがとう そうしたら どうしようか」
「山ちゃんはどうなの?」
「うん 午前中 催事課に顔だして お昼は上原で 夕方から
夜は銀座で まあこんな感じ」
「そうしたら 1時に現場で待っていますよ」
「うん それで駅前寿司を1時で予約を入れておこうか」
「あっ それはこっちでやります 大丈夫ですよ」
「うん 分かりました お願いします」
「そうそう 先ほど解体屋から電話があって 早急に天井を
解体するって 連絡がありました」
「よかっったね」
「うん 連絡をしなかったら 1ヶ月は無理ですよって言われた」
「えっ まさか でも横浜が忙しいから よかったね」
「日にちが決まったら連絡します」
「お願いします じゃ1時に現場」
神山は電話を切ると テーブルに大きな図面を広げ
落ち度が無いか 何回も確認した






次回は6月12日掲載です
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2012年6月2日土曜日

芽吹き 2 - 6 Vol. 2



「それはね 上野から入ってくるのよ 上野でも大騒ぎよ」
「へぇー そうしたら僕が行くと サービス課の女の子は
みんな僕のところに 来るね」
「ふふふ そうよ その中から選べばいいわ」
「いやぁー 亜紀ちゃんより 美人は居ないよ ねえ旦那は」
「ごめんなさい 今ねちょっと買い物に出ているんですよ」
「そうか そうしたらさ また伺うよ 絶対に」
「いいわよ 電話をくださいね お待ちしています」
電話を切ると祥子はちょっと 嫌な顔をしていたが
「大変ですね 色々なところから 祝辞の挨拶で」
「うん でも飲み屋からは架かって来ないから大丈夫さ」
みんなが大笑いし おつまみを食べる事にした

食事が終わると神山が高橋に現場を見たいといい祥子が
「それでしたら 一緒に行きましょうか」
5人で歩いて直ぐにある 店舗に出向きシャッターを開け
がらんとした店内に入った
神山は入る時にすぐに気が付いたのが 床の傾斜だった
ファザードに緩やかな傾斜があり そのまま真ん中の柱まで
続いていた
「結構広くて 展開しやすいし いいところですね」
「ええ 私も アンテナとしては充分な広さだと思います」
神山は店内を一回りすると高橋に
「これだったら 5月の半ばにオープンできるよ ねえ考ちゃん」
「ははは 参ったなぁー お見通しで うん 出来るよ」
「考ちゃん この外に面しているガラス面を上手に生かそうよ
そうすると 床が問題だね」
高橋は図面を広げて 神山と祥子に説明を始めた
祥子も一生懸命 高橋の説明を聞いているが分からずに
「この高さって どこで見るんですか」
など 図面の見方が全然分からなかった
神山は高橋に
「ねえ考ちゃん 頼みがあるんだけれど スケールモデルを
造ってもらえないかな 什器は動かせるようにして どう?」
「うん 早速作るよ その方がわかり易いものね」
「うん お願いします それからね この床だけれど 入り口で
ステップにすると つまずきが出て危険だから止めようよ
中に倒れるならいいけれど 外に倒れた場合 このお店の
責任になるでしょ だからスロープにしようよ」
「そうか そうだね お店と違うからね 分かりました」
「それから久保さん このバックヤードの奥行きですが
実際 どのくらいの奥行きか分かりますか?」
「ううん 全然分からないんです」
神山は祥子を連れて バックヤードのパーテーションが
立つ位置を教えて 既存壁との奥行きを確認させた
「どうですか 少し狭くないですか?」
「ええ 少し狭いかしら」
「多分 この奥行きは 百貨店のバックヤードの寸法を基準に
考えられていると思います しかしこの店舗は バックヤードは
ここしかなくて ここに全部集約しないといけないんです
百貨店のように キャパがオーバーしたのでちょっと貸してが
出来ないところなんですよ」
「そうですよね 私もう一度 ここの寸法を測ります」
「細かい寸法は微調整するとして 80cmがいいのか1m20cmが
いいのか そこら辺で 考えてください」
「はい 分かりました」
「考ちゃんのほうも まだ大丈夫でしょ」
「ええ 全然大丈夫ですよ」
「どうだろう ここだと2週間かな」
「うーん 天井が入るでしょ やっぱり2週間少しかかるかな」
「うーん 天井を先に決めたいね」
「ええ 配線やダクトが決まれば 先に入れますからね」
「そうすると 床とバッティングしないよね そうだよな
ねえ 天井の解体だけ先に行おうか どうだろう」
「うん 横浜との兼ね合いなんだ 手があれば直ぐにでも出来るよ」
「その線で 進めようよ なにしろ解体だけ先に進めれば 
楽は楽でしょ」
「分かった そうしたら 早速聞いてみるよ 墨は後でも出来るし」
「うん 壊して何が出てくるか楽しみだし」
「ははは それは無かったようだよ 裏に上がっているから」
「ははは そうなんだ 残念でした」
現場での確認が終わると 高橋は神山に
「そうしたら帰って スケールモデルや天井解体を進めます」
「うん お願いします」
高橋たち3人は傘をさして 駅に向かっていった

「祥子さん これからどうしますか」
「ええ 会社へ行って バックヤードの詳細を見直しします」
「そうしたら 車で送っていくよ 僕も催事課に行きます」
「わぁー ほんと 嬉しいなぁー」
神山はタクシーを拾うと運転手に 青山3丁目経由銀座と伝えた
「ねえ スケールモデルってなあに」
「まあ言ってみれば 小さな店舗ですよ」
「わぁー 小さい頃良く遊んだ あの小さなおうちが出来るの?」
「ははは そうですよ まあ多少割愛はしますがね」
「助かるわ ありがとうございます」
「ほら 目線を変えると お店の中がわかり易いでしょ」
「そうか そうですね なるほど 神山さんって やっぱり凄い」
「特に あのように外に面している所では 大切なんですよ」
「なるほど 分かるような気がします」
「今夜はどうされますか? 雨が降っているし」
「ねえ 神山さんピザ宅にしようか
実は私 今夜は少し遅くなると思うの だいたい8時ごろには
帰れると思うんです だからそうしませんか」
「そうしたら 会社を出たら電話をください 注文しますから」
「わぁー そうね そうするわ じゃお願いしていいかしら」
「いいですよ それまで僕は部屋で仕事をしていますから」
「今日は何時ごろ戻られるんですか」
「多分 6時頃には戻れますよ」
タクシーは青山3丁目の交差点で止まると祥子が
「ねえ ここで降ろして ここから直ぐだし」
「うん 運転手さん 一人降ります」
ドアが開くと 祥子は降りて歩道に渡ると神山に手を振った

神山が催事課の部屋に戻ると斉藤由香里が
「お帰りなさい 部長」
神山の目を見て笑顔で話すと
「ほんと 1日に何回も往復すると大変だよ」
「はい これ」
由香里はカードを渡し
「これ 地下鉄のプリペイドカードよ 使って」
「ありがとう 助かるよ でも大丈夫なの?」
「ええ 先ほど部長の交通費請求で購入したのよ」
「へぇー 凄いね 部長って」
「だから部長っていいでしょ」
二人が笑っていると 奥村が
「山ちゃん お帰り 少し前にアルタの内藤さんから
お褒めの言葉を頂いたよ 早速ありがとうございますって」
神山は何のことについて 褒められたのか検討がつかず
「はぁ 普通の事ですよ」
「ほら ニーナ・ニーナの久保さんの件や 天井解体の件
大変喜んでいたぞ 適切な指摘だって」
神山は言われて分かったが 当たり前のことなので
「まあ 期間が少なければそう考えますよ 当たり前です」
「まあまあ 先方は喜んでいるんだ 当たり前でも凄いじゃん」
「おう 店長も喜んでいたぞ」
「あっ 倉さん 本当ですか」
「おう 先ほど来られてな 嬉しそうな顔して 褒めていたよ」
「参ったなぁー そんな大げさな事じゃ無いのに」
「まあな でも周りが喜んでいるんだ いいじゃないか なっ」
神山は由香里から貰ったカードをバッグに入れると由香里が
「ねえ ちょっと話があるんだぁ いいかな」
「うん 大丈夫だよ ちょっと待っていてね 置いてくるから」

由香里は神山と催事課の部屋を出ると喫茶レイに入った
二人はウエイトレスにコーヒーを注文すると由香里が
「ねえ 市川君の事知っているでしょ」
「ああ 先日もあいつと話したよ なんでも出来ちゃったと言っていた」
「それでね 私にも相談があったのよ」
「えっ いつ?」
「さっきよ」
「なんで?」
「ほら 中絶の事なの」
「えっ 中絶?」
「そう 彼女がどうしても産みたいという話で 中絶するとしたら
時期的にどうだろうかって」
「なんでまた由香里に? 奥さんが居るだろうに」
「うーん そうね でも話しにくいんじゃないの それで私に
このような状況だけれど どうでしょうって聞きにきたのよ」
「そうか しかし3ヶ月って言っていたよ」
「えっ4ヶ月よ もう直ぐ5ヶ月だわ」
「えっ 4ヶ月、、、」
「だから中絶するとしたら4ヶ月がぎりぎりで それ以降に
おろすと 母体が危ないし 将来的なことを考えるなら今よって
でも 私は実際に産んでいないから それ以上は分からないのよ」
「まあ そうだね しかしゆっくりしているな 
課長と話したと思っていたんだけどな」
「うん 課長からも相当きつく言われ 反省していたわ」
「それで どうするって」
「うん 今はまだ分からないみたいで 悩んでいたわ」
「なに言っているんだよ 本気かよ」
「それで 貴方からも 話してもらえる?」
「だって 先日も話したし それ以上話せっても、、、」
「冷たいわね 同期でしょ ちゃんと別れさせてよ」
神山は由香里がなぜここまで市川のことで熱くなっているのか
よく判らなかったが 昨年のこともあるので
「じゃあ由香里から 話せばいいでしょ 相談されたんだから」
「まぁ 本当に冷たいわね いいわ」
由香里はぷりっとして 席を立ち喫茶レイを出て行った
一人になった神山は少し言いすぎたかと思ったが
市川に相談されたんだから 由香里も自分なりに考えて欲しかった

催事課の部屋に戻ると由香里の姿が見えなかったので
少し心配したが 自分の席に戻り仕事に集中した
「先輩 ニーナ・ニーナの林さんからメモです」
神山は翔からメモを貰うと
【ご相談したい事があります 至急連絡をください】
神山はこの内容に 上原の件が絡んでいると思ったが
デスクの電話機を握り 林の所へ架電した
「はい こちらはニーナ・ニーナです」
「私は催事課の神山ですが 林さんは在席されていますか」
「はい 少々お待ちくださいね 先日はご馳走様でした」
軽やかな口調の若々しい浜野由貴の声が電話口から聞こえた
「いや こちらこそ 何も出来なくて申し訳ない」
「今度はもう少し時間を考えて ゆっくりと呑みに行きましょう」
「はい ありがとうございます 待っていますね 
あっ 林に変わりますね」
「もしもし 神山さん 少しご相談があるのですが、、、」
「えっ 僕に相談なんて言われても 
出来る事と出来ない事がありますよ」
「ええ その上で お願いしたいのですが 
今 そちらにお邪魔しても構いませんか?」
「ええ どうぞ 僕のほうは大丈夫ですよ 空いていますから」
「分りました 直ぐに伺います」
神山は部屋に戻ってきた由香里にニーナ・ニーナの林が来る事を告げ
会議室に人を通さないよう注意した
メモ用紙などを準備し待っていると林が会議室に入ってきた
「申し訳ございません お忙しいところ 
それから 先日はご馳走様でした」
「いやいや 慌しい呑み会でしたね次回はゆっくりと呑みましょう」
挨拶を交わしているときに斉藤由香里がコーヒーを運んできた
由香里は林には作り笑顔でコーヒーを置き 
神山に対しては覚めたキツイ目付きでコーヒーを置いていった
(きっと この間呑みにいったときに何かあったんだわ 
いやらしい神山さんて 最低ね)
「すみません お忙しいところ」
「いえ 月曜日はそんなに忙しくないですよ 留守番ですよ」
「こちらが何時も無理をお願いしていますものね」
「まあ 出来るときは充分に飾りつけなどをさせて頂いていますが」
林が本題に入らないので少し重たい空気が流れたが
「ところでですね 私 昨日筒井から転勤を命ぜられました」
林が関を切ったように言い出した
先日 筒井が銀座店にきて林に内示を伝えたとの事だった
しかしその人事にまつわる事については一切 他言は無用であった
「はあ どう言うことですか?だって 林さんは
この銀座にはなくては成らない存在でしょ どうして?」
「まだはっきりとした時期は決まってはいないのですが 
御殿場の準備室に決まりました」
(えっ なんて早いんだ だってまだ上原が開店していないのに 
筒井さん何考えているのだろう)
神山は悟られないよう
「だけど 御殿場はまだ1年か2年も先の話しですよね」 
「えぇ 私もびっくりしているのですよ」
「そこで 以前神山さんは筒井と親しく話が出来ると
伺っていたものですから なにか 存じ上げていらっしゃると
思いまして お尋ねました」
「うん 僕なんか 何も知りませんよ 御殿場開店は知っていますが」
果たして うそが見破られたか否か 心臓がどきどきしていた
「そうですか 神山さんだったら なにかご存知かと思いましてね」
「う~ん すみません ご期待に添えませんで」
「それと 浜野由貴が上原に移動になるんですよ」

これまた心臓の鼓動を抑えなくてはいけない言葉が出てきた
「へえ すごい人事ですね」
「ええ 私も彼女だとまだ店長は無理だとお話をしたのですが
しかし 筒井はこの人事で会社を磐石の構えにすると
言われるものですから、、、」
神山は何故にこの様な行動をとったのか腑に落ちなかった
それとも筒井になにかこの様な行動を起こさせる何かが起きたのか
林は一通り愚痴を言ったので気分が優れて来たのか 
「どうもお邪魔しました お忙しいところをありがとうございました」
「いえいえ 何もお力になれませんでした また何かありましたら
お気軽にどうぞ来て下さい」
「はい ありがとうございます」
林は一礼をして催事課を出て行った
斉藤由香里が近寄ってきて
「ねえ どうしたの 今日の林さん 随分と暗い感じだったわよ」
「うん ニーナ・ニーナが御殿場のアウトレットに
出店する事は知っているだろ」
「ええ だけどそれと林さんとどんな関係があるの?」
神山は林との話をかいつまんで話した
「だけど 銀座店のベテランでしょ 林さん 大丈夫なのかしら」
「しかし はっきり言ってよその会社の人事だからね
まだ公じゃないから 少しの間は口にチャックだ いいね」
「はい わかりました」

席に戻り仕事をしていると翔が
「先輩 5月の店外ですがここが分からないんです 教えてください」
神山は図面の綴りを受け取ると
「ああ ここか じゃあっちで」
神山と翔はセンターテーブルに行くと図面を広げて説明した
「そうだ 経費の詳細もあっただろ それを持ってきて」
翔は言われたとおり 詳細を神山に渡すと
「いいか ここの売り場のハンガーラックとここの売り場の
陳列台を足してごらん」
翔は言われたとおり 図面から台数を足していくと
「ほら 経費詳細のこの数字になるだろ わかった」
「だって 先輩 陳列台が詳細に無いから どうしたのか
分からなかったし まさかサービスで入れたのかと思いましたよ」
「うん これには理由があってね この陳列台はそのまま売り場で
使って その翌週かな また催事場のバーゲンで使うんだよ
だから ハンガーラック並みに安くして貰った訳さ」
「そうですか でも詳細になぜ明記しなかったんですか」
「うん 明記すると 同じ金額で貸し出しが出来ると 知らない
人間が見たとき そうなるだろ だから分かるように
図面に →7Fと記入してあるだろ」
「なるほど この記入はその意味があったんですね 分かりました」
「ははは だって当時 担当を離れるなんて 思ってもいないしな」
「そうですね そうするとまだまだ暗号が一杯あるんですね」
「ははは 一杯あるよ 探してくださいね」
「またぁー 先輩教えてくださいよ」
「それと 金曜日に全体会議だよね」
「ええ そうです 出てくれるんですよね」
「うーん わからん」
「えっー そんな」
「図面はどうした 出来上がった?」
「ええ 出来ています」
翔は図面を神山に見せると
「この図面は書いてもいいのかな」
「ええ 大丈夫ですよ」
神山は翔が起こした図面に赤鉛筆で色々と記入していった
「まず ここの通路幅は 図面より狭くなる
ホテルから貰っている図面が違っているんだよ 30cm狭いよ」
「へぇー 凄いですね」
「まあね それから ここの柱6本は実際より細くなっている
確かWとDとも14cmくらい細いよ」
「へぇー」
「それから このチェックしてあるところ 売場係長より
メーカーの営業さんが口うるさいところだ」
「へぇー でもこの図面には書いてないですよ」
「それは覚えるんだよ 売場に行った時や 会場で覚えるさ」
「そうすると 営業さんを抑えるんですね」
「うん 自分で可笑しいなと思ったら 先に手を打つんだよ」
杉田は言われた事を 図面に書き込んでいると倉元が
「おう 翔頼んだぞ 山ちゃんはたった一回で覚え 秋には
誰からも苦情が出なかったって言っていたぞ」
「そうですよね 昨年の5月と10月のバーゲンですよね
はぁー 凄いな 見習います」
そこへ由香里がコーヒーを持ってきて
「そうよ 5月の時だって 凄かったのよ 知っている」
「あの先輩が怒った事件ですか」
「そう あれだってみんなに聞けば メーカーさんが悪いわ
山ちゃんに全然非がないわよ」
「ははは 由香里姫 もういいよ 終わった事だから」
由香里は神山の行動を掻い摘んで話した

昨年5月のホテルバーゲン会場 開催日当日朝の出来事
商品陳列が終わった什器に不具合が無いか 点検していると
ある売場の什器の配置変えをしている メーカーの営業マンがいて
見ていると 扱いがぞんざいで商品を積んだまま動かしていた
神山が手伝う事を申し出て 商品を什器からおろすと
メーカーの人間が怒り出したが 神山も什器が壊されるので
同じタイプの什器に積まれている 商品を全て卸し始めた
「なんで 時間が無いのに 商品をおろすんだ 陳列するのに
時間がかかるんだぞ」
「商品を積んだまま動かすと 什器が壊れるんですよ」
「うるさい 早く商品を元通りにしろ」
「嫌です 早く什器を動かしましょう 陳列はそれからです」
二人が言い合っていると 売場係長が止めに入ったが メーカーの
営業マンは ふてくされて 何処かに消えたという事実

「へぇー そうだったんですか 先輩が悪い処って無いですよね」
「そうでしょ それで その営業マンが居なかったその一日は
今までの1.5倍の売り上げがあったんですって」
「へぇー 初めて聞きました 僕も気をつけます」
「おう 翔 さっき言っていた ホテルの図面が間違っているの
あれ なぜだか分かるか?」
「ぜんぜん まさか測ったんですか」
「おう そうだよ ご丁寧に測ったんだ それも5回かな なあ」
「ははは そうです 30m巻尺で5回位測ったよ 哲ちゃんと一緒に」
「へぇー 凄いですね」
「うん 5月の初日だけどね 寸法どおりに什器が並んでいるのに
導線が取れていないんだよ 280とか300少ないんだ
ほら消防がきた時のことを考えると 大変だろ そこで 少しずつ
つめて 通路は確保したんだ でも撤収をしたあと 哲ちゃんと
巻尺で計ったんだ そうしたらホテルの図面が間違っていたんだ
ホテルでは 壁をふかした後 修正していなかったんだ
だから この図面までは 前の図面を利用して書いていたんだ」
「そうすると ホテルの図面を修正しなければいけないですね」
「うん ただ時間が無くて 手をつけられなかったんだ」
翔は頷き 大きく図面に書き込んだ

神山は暫く仕事に集中したが
「先輩 アルタの高橋さんから電話です」
「うん はい神山です」
「山ちゃん 今 大丈夫ですか」
「うん どうしたの」
「うん ほらスケールモデルの事で今現場に来ているんです」
「ああ ありがとうございます」
「それでさ この床だけれど どうする?」
「っていうと ハツリを入れるかどうかでしょ そうだな僕は
既存のタイルの上にコンパネ入れてフローリングがいいと思うよ」
「やっぱりね そうだよな 実はね柱があるでしょ」
「うん 真ん中の柱でしょ」
「あそこさ 床が10下がっているんだよ ご丁寧に4辺とも」
「あじゃー 分かった これから大至急いくよ 待っていて」
「うん お願いします 助かるよ」
電話を切ると翔と倉元に
「翔 上原に行ってそのまま事務所だ」
「はい 分かりました なにかあったら携帯電話に入れます」
「倉さん 上原がちょっとやっかいな問題がでたんで 失礼します」






次回は6月7日掲載です
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