2012年6月22日金曜日

芽吹き 3 - 7 Vol. 3



「ふふふ じゃ そうしましょう」
「そうしたら 部屋に行ってみるね」
神山はガウンのまま自分の部屋に戻ると FAXの受信をみたが
どこからも送信されていなかっら
電話も留守電を再生したが 何も入っていなかった

神山は出かける支度をして 祥子の部屋に戻った
祥子も支度をしている最中で 髪の毛をドライヤーで乾かし
「ねえ 向こうを向いていてよ 恥ずかしいでしょ もう」
神山は女性のうなじが魅力的で好きだった ドライヤーを使い
髪の毛を手で掬っていると 自分が手伝ってあげたくなり
ついつい見入ってしまった
神山は冷蔵庫から缶ビールを出して テラスでタバコをふかし
祥子の支度が出来るのを待った

「お待たせしました」
神山は振り返ると 初夏らしい淡い水色のジャケットに真っ白な
Tシャツ 体にフィットしたジーンズ姿の祥子に驚き
「わぁー ファッションモデルのようだよ うんばっちし」
「ほんと 嬉しいな」
神山は部屋に入ると 軽くキスをして
「では 出かけましょうか」
「はーい ふふふ」
祥子はカジュアルシューズを履くと 神山と腕を組んだ
マンションを出ると 祥子が
「ねえ 道順ってわかる?」
「うん さっき見てきたよ この坂を下って 右に行けば渋谷さ」
「へぇー 近いんだ」
「うん 2Km位だから 30分もあれば大丈夫だよ」
祥子は嬉しくて両腕で神山の腕をからめバストを押しながら歩いた
この時間になると 人通りは殆ど無く静寂な住宅街と改めて
感心させられた
それでも渋谷駅に近づくとだんだんと 人影が多くなり
東急ハンズの周りには 働いている姿が多くなってきた
「ここまで来ると 都会だね」
「そうね ほんとちょっとしか離れていないのにね」
「まずは 何を買うのかな」
「ええ ハンズでソファーとリビングテーブルを買うわ」
祥子と神山はハンズに入ると インテリア用品のフロアにいき
所狭しと並べられている ソファーを探した
「表面は皮素材 それともマンションのエントランスのような
キャンバス素材がいいのかな?」
「皮だと なにか硬いイメージで リラックスできないと思うの
だから キャンバスがいいな」
神山は祥子の部屋に合う色と形を探し
「ねえ こっちに来て これなんかどうかな」
祥子は目を輝かせ 頷くと値段が高くて困っていた
「予算はどのくらいなの?」
「うん 5万までなんだ 実は会社から出るの それが3万までで
不足分は私が出すんです」
神山は折角薦めたので 不足の3万円は自分が出す事でどうか聞くと
「だって そんなにしてもらって 悪いわ」
「いいよ お気に入りでしょ だったら僕が出すよ」
神山は財布から3万円を出すと祥子に渡し
「さあ これで買おうよ ねっ あとはテーブルだね」
「ありがと 嬉しいわ テーブルは ガラスがいいな」
「ははは エントランスと同じになったね でもあの組み合わせは
リラックスできる最高の組み合わせだよ」
「やっぱりそうなんだ 私ね 考えていたんです
皮はさっき話したとおりで キャンバスにしたとき なにが合うか
そうすると エントランスの組み合わせになるんですよ」
「そうだね そうしたらテーブルを見にいきましょう」
ガラステーブルのコーナーに行くとバーゲンセールをしていて
祥子はどれが似合うか探していた
神山も一緒に探していたが 帯に短し襷に長しで
なかなか希望に沿う商品が見つからなかった
そんな時 祥子が神山を呼び
「コレはどうかしら 結構いけると思うんだ」
神山はガラスの天板を触り 安定している事を確認した
「うん 大丈夫だよ デザインもソファーを合うし」
「じゃあ これにする 安いし ふふふ」
「そうだね でもしっかりした作りで 細かい所も安心できるよ
ガラスの厚さが充分あるから ちょっとやそこらで割れませんよ」
「そうなの よかった」
神山は値段を見て驚いた 3万円はするだろうと思ったが
5千円で販売されていたので もう一度商品を細かくチェックした
「ねえ どうしたの?」
「うん これって普通最低でも3万円以上するんだ だからさ
もう一度調べたんだ でもどこにも不具合が見つからないからね」
神山と祥子が話していると 店員が笑顔で近づき
「ここの商品は 実は倒産された会社の商品でして お値段は
通常価格の1/10でご提供させて頂いています」
「なるほど そうだったんですね 分かりました」
「私 これに決めた」
祥子はその店員に配達を依頼し 手続きを行った
「出来れば 今夜がいいんだけど どうかしら 直ぐそこです」
「いいですよ 近くに配達がありますから 大丈夫です 7時頃です」
「わぁー 嬉しい よかった ではその時間に待っていますね」

祥子と神山はハンズを出ると 家電量販店にいった
TVコーナーに来ると祥子は
「そんな大きなTVは必要ないけれど 大きい方が迫力があるわ」
「うん そうだね でも大きすぎると疲れるよ」
「そうなの?」
「うん 疲れない大きさって言うのが 見る距離で 大体あるんだ
祥子の部屋だと ソファーの前でしょ 置くのは」
「ええ ダイニングからも見えるといいな」
「TVを見るときは ソファーと考えると 大きくても32型だよ」
祥子はTVを見ながら 予算と大きさを検討した
暫く探していると 
「私 このTVでいいです お金を使いたくないし」
祥子が選んだのは26型のTVでまあまあの大きさだった
値段も買いやすく設定してあり 店員に聞くと昨年秋モデルといい
性能的にはこの春に 販売されたものと殆ど差はないといった
祥子は配送手続きの為 カウンターで伝票に住所など記入して
「出来れば 今夜お願いできますか?」
「ええ 大丈夫ですよ 7時ごろでも宜しいですか?」
「わぁー お願いします 待っています」
祥子は精算すると 神山に
「助かりました はいこれ」
祥子は1万円を出し神山に渡した
「いいの 僕は大丈夫だよ」
「平気よ ありがと ふふふ」

二人はハンズを出ると祥子が
「ねえ お腹が空いてきて 死にそうだぁー」
「ははは そうしたらラーメン餃子にしようか」
「あら 先ほどのホテルはどうするの?」
神山はニコニコしながら指を刺すところにラーメン屋があった
「あそこはね 餃子とラーメンがむちゃくちゃ美味しいって
TVで何回も取り上げられているところなんだ
ほら 横浜の時には こっちに来る機会がないでしょ
なので 一回は味わってみたいと思っていたところです」
「そうなの そんなに有名だったら 食べておかないとね」
「そうそう 折角上原に住んでいるんだもん 知らないとね」
祥子は頷いて神山の腕に両手を絡ませ楽しそうに歩いた
ラーメン屋はまだ12時になっていないのに 混み合っていた
神山は生ビールと餃子を3人前注文した
「あとはおつまみだと 野菜炒めでも食べようか?」
「ええ 美味しそうね 頂くわ ふふふ」
祥子はメニューから目を離すと神山を見ながら答えた
「お願いします」
「はーい なーに」
「野菜炒めを1人前ください」
「はいよぉー 野菜1 追加だよ 7番さんね」
「はーい やさい 7番 了解」
威勢のいい若い調理人4人が所狭しと動き調理を進めていた
まずは生ビールと野菜炒めが出てきて
「それでは 家具のセレクト終了ということで 乾杯」
「はーい かんぱーい」
祥子はこれから来る家具を楽しみに 笑顔が絶えなかった
神山も祥子は笑顔が最高に似合うと思っていた
「美味しいね 野菜炒め」
「ええ おうちでもこんなに美味しく出来たらいいのになぁー
そうしたら貴方に毎日つくってあげられるのに」
「ははは ありがとう 楽しみだね」
生ビールを御代りし餃子を食べると いよいよラーメンを食べた
スープはとんこつだがさっぱりしていて 神山はなるほど
このさっぱり感が女性にも受けているんだと 感心した
祥子もスープが美味しいといい ラーメンを残さず食べた

お店を出ると祥子は美味しかったと何回もいって
「今度 会社で聞いてみますね 知っている人手を挙げてって」
祥子は幼子が宝物を探し当てたような喜び方をしていた
「ははは 全員が手を挙げたらどうするの 言われるよ
今頃 食べに行ったんですかって」
「そうか だったら秘密にしておこぉっと ふふふ」
神山は無邪気な祥子を見ていて 一緒に生活できたら楽しいだろう
そう思い始めてきた
毎日が明るくて 楽しくて笑いが絶えなければ きっと幸せな
二人の時間が過ごせると 思い描いた
「ねえ 家電量販店で ラジカセを買いたいんだけどいいかしら」
「うん いこう」
二人は手を繋いで先ほどの家電量販店でラジカセを購入すると
「祥子 帰りは上り坂だからタクシーで帰りましょう」
「そうしようか 早く帰って CDも聞きたいし」
神山は大通りに出て タクシーを拾い上原のマンションを指示した
マンション前で降りて部屋に戻ると神山の携帯がなった
「はい 神山です」
「山ちゃん こんにちは 高橋です」
「こんにちわ どうしたの?」
「うん 例の床サンプルが届いてね この時間で
サンプルを見るとどうかなと思って 電話をしたの」
「わかった そうだね これから行きます」
電話を切ると 祥子に床サンプルがきた事を伝え
一緒に現場で確認をして欲しいと 話した
「行くわ お邪魔じゃないかしら」
「ははは 大丈夫さ そうしたらこのまま行こうか」
祥子は頷き キスをして部屋を出た

「やあ 考ちゃん 久保さんにも確認してもらう為に来て貰った」
「いらっしゃい 凄いね そうすれば床だけでも進めば早いよ」
「ははは サンプルはどれですか」
田中が奥から相当数の床材を運んできて タイルの上に並べた
高橋と神山が手伝って 見やすくすると
「考ちゃん お勧めはこの色でしょ」
「うん そう よく判るね」
「まあね 経験ですよ」
神山はそういうと 入り口に近い日が当たるところに並べた
祥子を呼び外に出てもらい 床材の色を見てもらうことにして
同じ床材を4枚並べ 色加減を変えていった

神山はそういうと 祥子に外から床材の色加減を見てもらう事に
した 床材を4枚ずつ並べると 部屋の中で見るのと違い
薄く感じられる事が分かり 祥子自身も確認できた
「分かったわ だいぶ違うんですね 部屋の中と外とでは」
「ええ なので僕は多少 濃い目の感じでいいと思います
店内照明を明るくすれば このままの色でも充分いけます」
「そうね 最初は暗い感じだったけど 外光が当たると
ちょうどいい加減で いいと思います」
「考ちゃん この色を中心にして 少し明るいのと暗いのを
3種類を3x6パネルで2枚づつ大至急作ってくれないかな」
「うん 大丈夫だよ 在庫は充分あるから コンパネに張るよ」
「うん お願いします」
「それからね 天井の解体がこれから始まります」
「早いね」
「それでね 周りのお店には挨拶をしてきたよ」
「ありがとう 夜までかかるね」
「うん 仕方ないよ 電気は明日仮設が入ります」
「はい 了解 久保さん あとは什器や棚類を決定してもらえば
直ぐにでも 工事は進みますよ」
「わぁー そんなに早く出来るんですか」
「そう 久保さんがOKと言ってくれればすぐです」
「大変な事ですね」
「なので このモデルを家に持って帰りますか」
「いいえ大丈夫です 図面をみて考えます 遅くなってごめんなさい」
「大丈夫ですよ ゆっくりといい案を練ってください
こちらは 基礎にあたる部分を進めていますから」
祥子は笑顔に戻り 神山に
「でも 早ければオープンは早くなるんでしょ」
「ええ でも材料とかの問題もあるので 一概に
その分早くなると言えない所があるんですよ 分かってください」
「はい わかりました でも壁などはどうですか?」
壁面の壁紙や塗装する色などで祥子が
「出来れば大きいサンプルがあると助かります」
神山も祥子を納得させるには大きなサンプルが必要と感じ
「高橋さん 原寸でここに置こうよ 3x6でいいでしょ」
「そうですね その方が分りやすいし 手配します」
百貨店のブティックでは各仕様共決まっていたが 上原に付いては
アンテナショップという事もあり多少のアレンジが許されていた
例えば壁面に付いていえば百貨店ではフラットな仕上げだったが
今回はエンボスのストライプ模様を取り入れるなど
イメージは変えないが細かい所で変化をつけて差別化をした
祥子も今まで自分が思っていた事が現実となるので真剣に
話を聞き 納得するまで妥協をしないスタンスだった
しかし初めての事が多すぎるので 一つ一つを神山に
確認をしながら理解し 判断をしていった
「では原寸大のサンプルは明日この現場にお持ちできますが」
祥子は神山を見て
「神山さんは お時間のご都合は」
「僕は 夕方なら銀座から戻れますよ」
「そうしたら 金曜日の朝でも構いませんか 明日は分からないし」
「ええ それでも構いませんよ 考ちゃん 明日中に準備して
それから照明の仮設だけど 壁面のところオープン時の明るさに
してもらうと 凄く助かるんだけど お願いできるかな」
「うん これから手配します そうすれば感じがつかめるものね
そうしたら 床材も一緒に持ってきますよ」
「うん お願いしますね」
3人が話していると 小型トラックが店に着いた
高橋は運転手に もっと店に寄せるよう指示をした
「考ちゃん それでは一回事務所に戻ります また連絡をください」
「了解です」
「それじゃあ」

祥子と神山はマンションに戻ると
「祥子 一旦部屋に戻ってから そちらに行きます」
「はーい 待っています」
神山は部屋に戻ると FAXや留守電を確認すると FAXが一通
【杉田です ニーナ・ニーナの件は間に合いました
ご安心ください ただ倉元部長が呆れていました】
(あーあ 参ったなぁー まったく もう)
留守電には杉田からで 同じ内容が録音されていた
(同じ内容なら わざわざFAXなんか使うな もう)
神山は少し気分を損ねたが 気を取り直して祥子の部屋に行った
「ねえ ごめんなさい」
神山が部屋に入るなり 祥子は泣き出しそうな顔で神山に話した
商品手配ミスがどこで行われたか分った
結局 林店長ではなく事務の津田がミスをしたみたい」
「えっ なんで事務なの」
「ええ 林が持ちまわる分と銀座に収める分を間違えたみたい」
「なんで そんな」
「林はもうすぐ持ち回りをしながら御殿場に行くの」
「えっ 御殿場の持ち回り?」
「ええ 今聞いたんです 明日の会議は人事発表と 出店計画に
関係する会議です 林の件は明日発表されます
それで 持ち回りの商品と勘違いして 事務が倉庫に手続きをしたの
本当にごめんなさい すみません」
「いいよ 誰だってある事だよ 気にするな
FAXが入っていて 無事済みましたって よかったね」
祥子はこらえ切れなくなり 神山の胸の中で泣いた
「さあ 元気出して ねっ ほら」
「うん 折角の貴方の記念になる日に馬鹿な事をしてくれたわ」
「わかったから ほら 顔を上げて」
祥子が顔を上げると 涙で化粧が崩れていて神山は笑ってしまった
「なぁに もう」
「鏡を見てご覧 笑えるよ もう」
祥子は大きな姿見に行って 自分を写してみると 笑ってしまった
「大変だわ Tシャツにも化粧が落ちているわ」
神山はTシャツを見ると 言われるように黒や緑の模様が出来ていた
「ははは 大丈夫さ この位」
「ねえ 脱いでください 直ぐに洗濯します」
神山は言われるとおり Tシャツを脱ぐと洗濯機を回し始めた
「ねえ 祥子 そうしたら 部屋から洗濯物を持ってくるよ
ちょっと待っていて ねっ」
「ふふふ もう わかったわ 早くしてね」
神山は上半身裸で 部屋に入るとTシャツや靴下など洗濯物を
落とさないように持って祥子の部屋に入ると
「はい これだけあるんだ」
「わかったわ 洗濯機に入れてください」
神山は洗濯機に入れるとスイッチを入れた

「ねえ お部屋に戻った時に何か着てくればよかったのに」
「あはぁー まあでも寒くないから 大丈夫さ」
「ねえ シャワーを浴びますか」
「うーん ビールを呑んで遅い昼寝がいいな」
「まあ」
祥子は冷蔵庫から缶ビールを取り出しグラスに注ぐと
「はい あなた ふふふ 今日はありがとうございました」
「もう直ぐすると ソファーが来て テーブルで呑めるんだ」
「それまで ゆっくり寝ましょうね」
二人は窓から入ってくる気持ちよい風に 酔いながらビールを呑んだ

ベッドに入ると どりらからともなく求め合い抱き合い戯れた
「ねえ あなた 私の体可笑しいのよ」
「どうしたの」
「ふふふ あなたがいけないんだから」
「なんで」
「休火山の目を覚ませたの」
「もう 変な事言わないで びっくりだよ
でも それである部分女性が取り戻せたんだから 良しとしてよ」
「まぁ お上手 ふふふ 
ほら ホテルの時にはこうやって男性の人と過ごす時間が無いでしょ
だから 凄く嬉しいのよ」
「そうだね その部分では開放感があるよね」
「でしょ ふふふ」
「さあ 少し寝ましょう」
「うん だいてぇ」
神山は祥子を抱きながら 睡魔の誘いに乗った

けたたましく鳴る目覚ましで 祥子と神山は目を覚ました
「しかし いつも思うけど あの音大きいね」
「いいでしょ 寝坊が無くなるし」
「さあ 服を着よう このままじゃね」
二人は普段着を着ているところへ ドアフォンが鳴った
「はーい 久保です」
「電気屋ですが TVをお届けにあがりました」
祥子は1階の自動ドアを開けると 玄関のドアも開けた
暫くすると 大きなダンボールを抱えた 作業員が
「お待たせしました」
そういって 部屋の中に入り 開梱作業が終わると
「どこに置きますか」
祥子は来るだろうソファーの反対側において貰った
配線をしてリモコンを操作し 確認すると
「ご不明な点がございましたら お電話をください」
「はい ありがとうございます」
作業員はキャップを脱いで 丁寧にお辞儀をして帰っていった
祥子は早速TVをつけると 久しぶりのTVだと言い喜んでいた
暫くすると家具屋が来て ソファーとテーブルを設置してくれた
二人はビールを呑んで 7時のニュースを見た
「いいわね このソファー」
「うん この部屋にぴったりだよ いいなぁー」
「そうね 貴方のお部屋は広いけれど 事務所だもんね」
「うん でも仕方ないか その分ここでゆっくりするさ」
「ねえ お寿司食べようか?」
「いこうか」

二人は そのままの格好で 駅前寿司にはいると女将が
奥の座敷に案内してくれて ビールを持ってきてくれた
「ねえ 女将さん てんぷらが欲しいな 勿論鮮魚のつまみもね」
女将さんは 笑顔で答えると 大将に伝えた
「じゃ ソファーの搬入 おめでとうで乾杯」
「はーい かんぱい」
祥子と神山はビールを美味しそうに呑むと お互い見つめあい
笑顔がこぼれ 神山はそんな祥子にますます引かれた
「ねえ 帰ったら 図面で分からない所を教えてください」
「どうしたの 急に改まって いいですよ」
「うん だって早く仕上げる為に 貴方が来たんでしょ
だからのんびり出来ないじゃない 私もがんばる ねっ」
「うん わかった ありがとう それならポイントを教えてあげる」
「ほんと 嬉しいわ」
祥子は笑うと白い歯が綺麗で 吸い込まれそうだった
(うん 祥子と一緒なら 多分楽しい時間が作れるな)
神山はビールを呑むと日本酒を注文し楽しく呑んだ

「自分なりに直した図面を見てもらいたいの」
「うん いいよ」
祥子は神山にアドバイスをして貰った上原店舗の図面を持ってきた
「この壁にある棚なんだけど どうもしっくりしないのよ」
棚板を支えている支柱が露出しているのが気になっている様子で
詳細図面を見てみると祥子が示した部分の棚は造り付けの
棚には違いないが 棚受けアジャスターを上下する事によって 
棚の高さを変えることが出来る構造だった
祥子が言いたいのは支柱が太く 
棚板との間に隙間が出来る事を嫌がっていた
「経費の関係で出来るか分らないけど 
壁を少し前にすればこの支柱と棚板の隙間は無くなるよ」
「そうなの」
「うん 壁に支柱を埋め込む形にすれば 
支柱が壁から出てこないから見た目も綺麗になるよ」
「そうですね ありがとうございます」
神山は支柱の部分の簡単な断面図を書いてあげると祥子は頷いた
「施工業者に壁と棚の隙間を無くすように指示すれば
そのように直してくれるよ」
「どうもありがとう やっぱりあなたに話してよかったわ
それで 商品配置は決まっていたんですけど 
隙間があるとこぼれてしまう恐れがあるものは置けないでしょ
だから 特に小物を置いたときは心配だわ」
「そうだね わざと隙間を空けて空間を演出する方法もあるけど
この場合の隙間は無いほうが使い勝手がいいと思いますよ」
祥子は心配事の一つが解決したので 顔が明るくなった
この後も神山のワンポイントアドバイスが続いた





次回は6月27日掲載です
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