2012年7月7日土曜日

若葉 2 - 9 Vol. 1



上原駅前寿司19時
「お待たせしました ごめんなさい遅くなって」
「そんな事ないよ」
神山は時計を見て
「まだ 7時を少し廻ったところだよ」
「しかし 待ったでしょ」
「僕も 今さっき着いたばかりで ビールだけだよ」
「何か注文はされていますか」
「うん もう直ぐ鮮魚のおつまみと照り焼きが来るよ」
「私もビールを頂きますねっ」
祥子にビールが届き二人で乾杯をし呑み始め
休みの事を会社と話した事を伝えた
「全て自由 但し今だけは」
「今だけって?」
「結局 長期の現場監督だから人事には自己申告になるんだって」
「なんか 大変」
神山は今日仕入れてきたばかりの情報を祥子に教えた
「そうしたら 休みでも働いて 働く日でも休めるの?」
「まあ簡単に言ったら そうなるね」
「だけど縛り付けられない仕事もいいわね」
「まあね しかし 現場は良く出来て当たり前だから 大変だよ」

女将がビールとおつまみを運んできてくれた
「ねえ 昨日現場で言っていた床材の事だけど聞いていい?」
祥子は内装仕様のサンプルは全然見てはいなかったが
今までと違う色が出てくる事を懸念していた
神山はここでは話をしても分らないから現場で説明すると言った
机上ではどんなデザインでも良く見えてしまうが
実際の現場だと微妙に色、形など見る角度や感性で違ってくる
時にはデザイナーが思いもよらない効果が出たりして
デザインが一人歩きする時もある
「そうすると 明朝の現場で教えてくれるのね」
「うん きちんと説明するから心配するな」
「は~い 分りました 安心だものね」
二人は照り焼きが美味しいので 女将に追加注文した
祥子が
「実はね 今夜遅くなったのは 明日の金曜日に
名古屋の実家に帰ることになったの」
「うん その方が良いよ まだ先は長いし」
「寂しくないの?」
「それは寂しいけど 僕は出張になった」
「いつ?」
「土曜日に 御殿場の現場だ」
「だけど まだ何もないところでしょ」
「そう 何も無い所から記録写真を撮るのさ」
「大変ね」
「アルタでも写真を欲しがっていたし ちょうど良かったのさ」
「日帰りなの?」
「いや 休みを兼ねているから泊りがけですよ」
「ひとり?」
「うん なんで」
「あやしいな?」
「仕事だよ し・ご・と ニーナ・ニーナの仕事」
「はいはい 分りました」
神山は御殿場の図面をまだ見ていないが 今夜モールの概要図と
出店予定位置が書かれた図面がFAXされる事を告げた
まだ更地なのではっきりとした場所は分らないものの
周りの情景とかを撮影し その写真を利用して
パソコンで合成写真を製作し プレゼンする事を言った
「そうしたらプレゼンの写真はアルタの写真ではなく
あなたの写真が使われる訳なんだ 凄いわね」
「まあ そうだけど、、、」
「私も御殿場行きたいな」
「もう少し 形が出来てから行こうよ」
「そうね 私ひとりだとさっぱり分らないもの」
アルタでは他の内装工事を専門にする会社より一足早く
コンピューターグラフィックスを導入し他社より抜きん出ていた
プレゼンにCGを導入する事によって 目線での訴求力が違って
例えば床を赤にするか黒くするかユーザーが迷った場合でも
モニターに映し出されている色を瞬時に換える事が出来
仕事を早める上では大変重宝された
「ねぇ そうしたら 7月頃は行けるかしら」
「多分大丈夫だよ 皆お中元で大変なときに行きましょう」
「そうね うれしいわ」
二人はまだ何も出来ていない御殿場の話で盛り上がり
鮮魚のにぎりや巻物を美味しく食べ 幸せな気分だった
祥子は何時ものように腕を硬く絡ませ歩いていた

「もう 御殿場の図面が来ているかしら」
「分らないな」
「来ていると良いわね 楽しみだわ」
二人は御殿場の図面を気にしながらエレベーターから降りた
「そうしたら 仕事の連絡を確認するから自分の部屋にもどる」
「ええ 分ったわ 早く済ませてね」
「はい 了解しました」
神山は祥子と別れ自分の部屋に入り
FAXを見てみると御殿場の図面が届いていた
ダイニングテーブルに広げてみると
思ったとおり確定していない部分が多かった
神山は土日の御殿場出張を早める為に由香里に電話した
「神山ですが、、、」
「はい 由香里です」
「こんばんわ 今 大丈夫?」
「ええ こんばんわ」
「由香里どの 明日の夜から出られるか?」
「えっ どうしたの?」
「別に理由は無いけど」
「ええ 私は大丈夫だけど あなたは?」
「大丈夫だ 明日で一段落さ」
「そうしたら どうすれば良いですか」
「何時に東京駅に来られる?」
「遅くても7時には行くことができます」
「分った 明日又連絡します」
「宿泊先はどうされますか」
「うん 明日こちらから予約を入れる」
「はい分りました 楽しみにしています」
「うん フィルムの購入を忘れずに」
「ええ 分っています あなたのお仕事ですものね」
「そんな いじめるな」
「では おやすみなさい」
「うん おやすみ」

神山は電話を切ると部屋着に着替え
FAXで送られてきた図面を持って祥子の部屋に行った
「わぁ大きな図面」
祥子は今まで見た事の無い大きさの図面に驚いた
「まあ 普通の人は余り見た事が無いと思うよ」
祥子のダイニングテーブルも大きかったが図面を広げると
紙がはみ出してしまった
「だけど もうここまで決まっているの?」
「そうだね もう場所は決まっている様子だね」
祥子は図面を隅から隅まで見たが よく分からなかった
しかし神山は詳細を事細かに説明するのは
分らない事を余計に分らなくすると思い説明を控えた
どのような場面にでも当てはまるが話をする相手が
内容の下地が無いときに いくら分かるように説明しても
本質が伝わらない事が多く 間違って伝わった時には
大変な事態を招く事になる
神山はこの様な事態のとき伝える側 伝えられる側で
失敗している時が有ったので慎重だった
「だったら いつ行きましょうか?」
「やはり 祥子が言っていたように夏にでもどうかな?」
「いいわね 嬉しいわ」
祥子は今一度図面を見た後
「ねぇ なにか呑む?」
「うん ナポレンンが有るから呑もうか」
「わぁ 久しぶりよ」
「分った 僕の部屋から持ってくるから待っていて」

神山はナポレオンを取りに部屋に戻った
本来は自身及びアルタ関係者と呑む物だったが今夜の話は
仕事が中心だったので自分でも許す気分になった
部屋を出ようとした時に電話が鳴った
「はい 神山ですが」
「私 由香里です」
「うん どうした?」
「先ほど市川さんから電話があって 別れたって」
「へぇ ほんとかよ?」
「ええ 色々と考えた結果だって」
「良かったじゃないか」
「だけど 彼女産むみたいなの」
「分らないな、、、」
由香里と話をしていると玄関を叩く音がしたので
「由香里ごめん まだ電話が来るので明日にしてくれ」
「ごめんなさい では明日連絡を待っていますね」
神山は電話を切ると玄関を開けた
「どうしたの 心配だから来ちゃった」
「ごめんごめん 仕事の電話が入っていたから手配していた」
「もう済んだ? だったら早く私の部屋に行きましょう」
「ごめんね」
ナポレオンを持って祥子の部屋に戻った
祥子はブランデーグラスを用意して ナポレオンを注いだ
「ねえ 私やっぱり名古屋に帰るのよそうかな」
「どうして あんなに楽しみにしていたのに」
「だって あなたと離れるの辛いもの」
「何言っているのだ こちらも出張で居ないのだよ」
(なにか気が付いたのかな?)
「だけど 寂しいものは寂しいわよ」
「分るけど 自分だって友子ちゃんが待っているだろ」
「ええ そうね」
「明日は9時に現場だから早く寝ようか」
「そうね 何時もより少し早く仕度しないといけないし」
「名古屋での2泊3日を満喫してきてください」
「そんな」
「だって 2週間ぶりだろ 友子ちゃんとゆっくり逢うのも」
神山は祥子と一緒の時間を寂しいと思いながらも
由香里との御殿場の視察旅行も楽しみにしていた
「呑みすぎると明日に響くから そろそろシャワーにしようか」
「そうね 私 用意してくるわね」
「うん ここを片付けておく」
祥子はバスルームに入り バスタブに湯を張った
神山も広げられている図面に疑問点をメモをし片付けながら
この調子で進めば早い時期に完成すると思っていた
アルタの引渡し時期設定はもともと神山のような
人材が仲介しない予定表だったのでニーナ・ニーナとの
打ち合わせがこのように順調に進めば引渡しが早まる事になる
通常引き渡し時期を設定するときには
相手のスケジュールなどを考慮するものだが今回は神山が
途中から参加した為 アルタにとっては嬉しい誤算になった
この事については祥子自身は感じていないが
ニーナ・ニーナの筒井は準備が早まる事について喜んでいた
神山自身も気が付いていたがこれほど
両者のパイプ役が上手に進められている事に誇りを感じていた
どのような業務についていても自分の職を間違わずに
行っていれば ほとんど混乱無く業務を遂行する事ができる
「仕度が出来ましたよ はいろ」
「うん はいろ」
二人はバスルームに入り 戯れた
今夜の祥子は今まで以上に積極的で
何かに呪われたように 快楽を満喫していた

4月10日 金曜日 快晴
神山は朝日の眩しさで目を覚ました
昨夜はバスルームで戯れた後 ベッドでも祥子が
何時にも無く求めてきたので 躰が鉛のように重たかった
けだるい躰を半身お越し キッチンにいる祥子に
「おはよう 何時もながら早いね」
「おはよう あなた」
「今朝は どうしたの 早いよね」
神山はベッドサイドの時計を見ながら言った
「だって 名古屋の仕度もしなければいけないでしょ」
「そうか」
「分ったら 協力をしてくださいね」
神山は全裸のまま祥子に近づき 抱き寄せ軽くキスをし
服の上から豊かなバストを愛撫し始めたが
「何やっているの 早くシャワーを浴びてきなさい」
「だって こんなに元気だぞ」
「ば~か 空元気でしょ 時間が無いのよ 早くして」
「分ったよ シャワーに行ってきます」
普段より早い時間から動いている祥子に敬服した
神山は熱いシャワーを浴び躰をシャキとさせ
バスルームを出るといつもの純和風朝食が待っていた
「いつもながら 感心するよ」
「ありがとう 誉めていただくと嬉しいわ」
「ビールをいただこうか?」
祥子はビールを注ぎながら
「そうね 日曜の夜まで逢えないもんね」
「そんな たった2日だよ」
「分っていても 辛いものよ」
「日曜日は何時ごろ帰宅する予定なの」
「まだ分らないわ 向こうで夕飯を食べてくると思うの」
「そうすると最終になるね」
「ええ また時間がはっきりしたら電話します」
「うんお願い 僕のほうが早く帰宅すると思うよ」
「今夜は一人で寂しいでしょ」
「そんな事は無いよ アルタと呑み会かも」
「呑みすぎないでね お願いします」
「ありがとう そんなに心配するなよ」
「ところで 今夜は何時の新幹線?」
「まだ取れていないの 会社で取ってもらうわ」
「僕が見送りに行けたらいいのだが ごめんね」
「いいわよ お仕事ですから」
普段と違い会話が盛り上がらない朝食だった
食べ終わった後片付けを神山が行い 祥子は仕度に専念した
「祥子 片付けが終ったから 一回戻るよ」
「は~い この部屋に忘れ物しないで下さいね」
「そうだね 出かける前に点検するよ」
「それと 慌てなくていいからね 9時丁度でOKだから」
「ありがとうございます もうすぐよ」
神山は図面を持って部屋に戻った
仕事用の電話に留守電は何も入っていなかったが
杉田翔から昨夜遅い時間のFAXが何枚かきていた
【杉田です 5月の店外催事の件ですが、、、、、
、、、従いまして売場との打ち合わせが 明日15時になりました
出切れば神山さんにご出席を お願いしたいのですが
お時間の都合は 如何でしょうか】
神山はバーゲン催事なので任せても良いかなと思ったが
【神山です おはようさん 連絡をどうもありがとう
今日の全体会議には出席をさせて頂くよ
販売促進にも伝えておいてください】
FAXで返事を出した
現場打ち合わせが終れば一旦部屋に戻る事ができるので
カジュアルな仕度をして 祥子の部屋に行った
「早いのね もう少しだから待っていてね」
「うん 慌てなくていいよ 忘れ物ないようにね」
「あなたはそんな格好でいいの?」
「うん 現場打ち合わせが終ったら戻ってくるから」
「一緒に行かれないの?」
「祥子の後 詳細を詰めなければいけないから 無理だよ」
「そうね、、、 さあ仕度は終ったわ」
祥子は手押し式のキャリーとショルダーバッグを持って
「仕度出来ました あなたの忘れ物ない?」
「うん 点検するよ」
祥子が出た後 この部屋の戻ることが出来ないので
この3日間必要なものを探したが 特に必要なものは無かった
「大丈夫だよ 何も無いよ」
「では 少し早いけど現場に行きましょうか あなた」
「そうしようか」
祥子は両腕を神山の首に巻き軽くキスをし
「御殿場 気をつけてくださいね」
「わかった ありがとう 友子ちゃに甘えてきなさい」
二人は4月の爽やかな風を受けながら上原の駅に向かった

「おはようございます 今サンプルを運んでいます」
高橋はサンプルが間に合った事を神山と祥子に話した
アルタの社員はサンプルを迅速に並べ終え
「神山さん おはようございます どうぞ見てください」
「幸ちゃんおはよう 朝早くからありがとう」
「とんでもないですよ これでいいですか」 
幸三は壁のサンプルを指して聞いた
大体サンプルをこんなに大きく作る事は無かったが
この様に外光を取り入れる所では 出来上がりに近い状態で
判断するほうが間違いが無かった
蛍光灯の下で見る色と自然光で見る色は違ってくる
神山は何度もこの色の違いを経験しているので
祥子に分ってもらう為に大きなサンプルを用意した
「大きなサンプルで助かります ありがとうございます」
祥子は壁に置いてあるサンプルを見ながら高橋に言った
今まで見た事が無い大きさのサンプルだったが
自然光が入ってくるこのブティックでは助かった
「そうしたら幸ちゃん 床材のサンプルを置いてください」
「はい そうしたら日が入ってくるこの場所でいいですか」
「うん そうだね そこにお願いします」
床材を置くと壁に立て掛けてあるサンプルの色が変化した
「やはり 百貨店の中と違うのね」
「そうでしょ 外からの光を受けるので違ってきますよ」
祥子は神山に勧められて壁紙の選定にはいった
神山のアドバイスもあり仕様の決定は早く進んだ
床材に付いても従来百貨店仕様のものと
新たに神山が選んだサンプルを選ぶ事になった
祥子が選んだのは従来仕様より一段明るめの色だった
勿論 そこには神山のアドバイスがあった
「今までのだと 光が入って来ない時間帯になると
少し濃すぎて コントラストが強くなってしまう」
「そうね このサンプルでよく分るわ」
「そうしたら 床材はこれでいいね」
「ええそうします 全体が明るくて素敵です」
「従来の百貨店より少し明るくなったと思うよ」
仕様材料が決定した事でアルタの高橋が
「山ちゃん ありがとう 完成が早まるよ」
「よかったね その分丁寧にね」
「任せておいて 後で修正日程をFAXします」
「そうしたら ニーナ・ニーナの筒井さんにもお願いします」
「了解ですよ 筒井さんとは明日お会いしますからその時にでも」
「筒井さんも大変だな 工事ばっかりで」
「違いますよ 久しぶりのゴルフですよ」
「そうか 筒井さんもゴルフをするんだよな」
「そう ほんと久しぶりだそうですよ」
神山と高橋は今後の段取りを決めて祥子に話した
「私のほうは早く完成すればありがたいですわ」
「そうだね 判断が早いから仕事がしやすいよ」
祥子は嬉しそうに神山に小声で
「あなた ありがとう」
祥子は時計を見てもうすぐ10時になるので
「では 私は一足先に失礼します ありがとうございます」
「とんでもないです 朝早くからありがとうございます」
「では 失礼します それと神山さん ちょっと」 
「えっ?」
「日曜日の連絡はちゃんと下さいね」
祥子はそう言い残すと皆にお辞儀をして改札口に向かった
神山も一緒について行き改札口で祥子が
「ほんと 気をつけてくださいね」
「うん わかった ありがとう」

神山は祥子を見送り現場に戻るとサンプルを片付けていた
「悪いけど そのまま置いといてくれないか」
「うん いいけど どうして?」
「例えば 関係者が来た時に話をしやすいから」
「全然構わないよ もう材料は決まったしOKですよ」
高橋は神山に少し厚手の茶封筒を手渡した
「ありがとう」
神山は茶封筒の中を覗いたが5万円どころではなかった
「どうしたの こんなにいっぱい?」
「佐藤部長が社長に話をしたらその金額になった」
「しかし まいったなー」
「まあ お金は有り過ぎて困る事無いでしょ」
「それはそうだけど」
「実際にその写真を使わせてもらうし 安いでしょ」
「そうしたら カメラマンにお手当てをあげるよ」
「その代わり 写真はいっぱい撮って来てね」
「うん 天気も良さそうだし」
「では 気をつけて行って来てください」
「うん 何かあったら携帯に連絡をください」
「そんな野暮はしませんよ ごゆっくり英気を養ってください」
そんな話をしながらシャッターを降ろし別れた
神山は部屋に戻ると 早速銀座の事務所に電話を入れた
「おはようございます 鈴や催事課です」
「おはよう 由香里どの」
「おはようございます あなた」
「なんだ 市川君はどうした」
「今 課長と出て行ったわ 例の話しでしょ」
「よかったな 後はお金か」
「そうね ところで今日はこちらに来られるのでしょ」
「うん 3時に会議だから昼過ぎに行く」
「お昼はどうされますか」
「そうしたら 銀座築地の寿司屋いせ丸に1時でどう?」 
「うれしいわ だけどどうしたの?」
「別になんでもないよ」
「わかりました 1時に待っています」
「込んでいる時間帯だから予約を入れて奥を頼みます」
「分りました 座敷の予約を入れておきます」
「では お願いします」
神山は電話を切るとアルタの佐藤部長へ電話した
「鈴やの神山ですが」
「よう おはよう どうされました」
「佐藤さん たくさん資金を頂きましてありがとうございます」
「いや山ちゃんの仕事だから それに写真の提供も一緒だから」
「ありがとうございます」
「いい写真をいっぱい撮って来て下さいね」
「はい 分りました」
神山はお礼の電話を切って茶封筒の中を改め驚いた
現金50万円と手紙が同封されていて
【御殿場の撮影お願いします このお金は 写真の版権料も
含まれています 少し安いですがお願いします 内藤】
現金の多さにもびっくりだが御殿場にあるホテルの
スイートルーム宿泊券まで入っていた
昨日貰った無料宿泊券よりも更にワンランク上のホテルだった
神山はどうしたものか考えたが 今夜からの旅仕度を始めた
仕度を終え仕事に掛かろうとした時 携帯がなった
「もしもし 祥子です」
「神山です どうかした」
「ううん 今 筒井に今朝の事話したの」
「うん どうなった」
「凄く誉められたわ ありがとう」
「よかったね 本当に」
「神山さんがいるからよ ありがとうございます」
「どうしまして」
「では 気をつけて行って来て下さいね」
「はい 祥子も気をつけて」
「は~い では」
祥子の嬉しそうな声を聞き終え仕事に集中した
今日の会議で必要な書類を揃えると杉田にFAXし
杉田の携帯に電話をした
「神山ですが」 
「はい 杉田です」
「今 今日使う資料をFAXした 後で目を通しておいてください」
「ありがとうございます」
「では 頼んだよ」
神山は電話を切ると 今夜の宿に予約を入れ
他の仕事に集中し何とか出かけられるようになった
小さ目の旅行鞄と仕事の封筒をもって部屋を
出たときは12時30分を廻っていた

これから地下鉄を利用すると間に合わないので車を使う事にした
金曜日の昼間とあって道路は空いていて
13時前に築地のいせ丸に着いた
扉を開けると 思っていた通り歌舞伎座帰りの女性客で
賑わっていたが店員が神山を見つけると奥の座敷に案内した
「ごめん 遅くなった」
「私も今来た所です」
「今夜から出かけることになってごめんね」
「いいえ 嬉しいわ」
そんな会話をしていると襖が開き座卓にビールとお通しが運ばれた
「今日はどうされますか」
「うん 余りゆっくり出来ないから 適当にお願いします」
神山は店員に食事を中心に作ってもらう事を指示した
「では お酒は控えめでいいですか?」
「うん そうだね その代わりビールを2本お願いします」
そう言うと店員はお辞儀をし襖を閉め出て行った 
「どうしたの 今日は すこし豪勢ですね」
「まあ その話は後で ねっ 明日の成功を祈って乾杯」
神山はアルタからの件は後で報告すればいと思って
「由香里と二人きりで来るのは初めてだよな」
「ええ ありがとうございます」






次回は7月12日掲載です
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