2012年9月15日土曜日

青葉 2 - 16



『次は東京 終点東京です』
神山は車内のアナウンスで起こされた
三島駅を出た後 うとうとと寝込んでしまった
今日一日 どこからも連絡が無かったので落ち着いたが
逆に何も連絡がないと心配をしてしまった
東京駅に降りた時に杉田に電話をしてみると
「神山だが」
「杉田です お疲れ様です」
「どうだい 飾りつけは?」
「ええ 先ほど終了して 今 食事です」
「良かった 問題なしだな?」
「ええ 倉元さんも一緒ですが、、、代わりましょうか?」
「うん 代わってくれ」
「おう 山ちゃん 大変だな 聞いたぞ」
「早いですね それはそうと造花はどうですか?」
「うん やはり取替えが必要だな」
「そんなに目立ちますか」
「おう なるべく目立たないようにはしたが やはり無理があるな」
「そうですか、、、 残念ですね」
「おう しかし山ちゃんの責任じゃないからな 気にするな」
「それで 交換はいつですか?」
「おう 明日の閉店後に行う」
「そうすると残業は、、、」
「おう 杉田君が立ち会う事になっている」
「分りました いつもすみません 杉田君に代わってもらえますか」
「おう 山ちゃんも頑張れよ おう翔 部長さまだ」
「はい 杉田です」
「大変だけど 明日の晩は頼むな」
「はい 任せてください ところで明日はどうされますか?」
「そちらには午後になるな 何かあったら携帯に連絡を頼む」
「了解です では気をつけて下さい」
神山は電話を切ると祥子に連絡をとった
「はい 久保です お疲れ様です」
「やあ 今帰りました 今夜はまだ残業?」
「はい まだ仕事をしています」
「どのくらい掛かりそうですか?」
「まだ時間が読めないわ」
そして 小声で
「このあと 皆で食事を計画しているの、、、だからごめんなさい」
「そうか 大変だな 呑みすぎるなよ」
「はい それでは失礼します」
神山は一人になると 今夜はどこで食事をするか考えた
由香里を呼ぶにしても7時を過ぎているしどうしたものか考えた
現場で仕事をしているアルタの高橋に電話をした
「神山ですが」
「やあ 山ちゃん お疲れ様 今お帰りですか?」
「うん 孝ちゃんはまだ仕事?」
「もう直ぐ終わるけど、、、現場に来る?」
「うん 直ぐに行きます」
「了解 待っています」 

神山は東京駅を出るとタクシーで上原の現場に向かった
渋谷に近づくとネオンがまぶしく 
つい先ほど三島で見た光景と同じ様に若い男女の姿が多くなってきた
今日も暑いのか半そで姿の格好が目立った
渋谷を抜けると今度は静かな街中に入った
現場で降りると 仕事帰りの人たちで駅周辺は活気づいていた
「やあ 山ちゃん お帰りなさい お疲れ様でした」
「ほんとしんどかったよ」
神山は昨日最終点検した現場に入り
「どう 何か問題点は出てきた?」
「全然無いですよ 完璧!」
「それは良かったよ ニーナ・ニーナも喜ぶでしょ」
「ところで夕飯は?」
「まだ食べていないです」
「そうしたら 何処か食べに行きましょう 何にしますか?」
「孝ちゃんは?」
「そんな 山ちゃんに合わせますよ」
「駅前の寿司屋にでも行きますか?」
「はい 了解です」
二人は直ぐ傍にある寿司屋に入った
この頃良く通っているので 奥の座敷を案内された
「凄いね 孝ちゃん こちらが何も言わないのに案内されたよ」
「そうですね 良く来ていますからね」
二人はビールを注文し鮮魚の盛り合わせを頼んだ
ビールが直ぐに来てお疲れ様の乾杯をした
今回の仕事内容は高橋にも伝わっていて 神山の仕事を誉めた
橘副支配人から送られてきたFAXを内野と一緒に検討した高橋は
【さすが 神山さん 仕事が違う】と誉めた事を伝えた
「しかし孝ちゃん
今までの事を考えればそんなに苦労はしていないよ」
「だけど ホテル側では喜んでいるわけでしょ」
「それはそうだけど、、、」
「それだったら 結果いい仕事をしている訳でしょ」
「まあ そうかな」
「そうですよ 山ちゃん 山ちゃんのレベルが違う うん違うよ」
「なにそれ?」
「結局の処 頭の構造が違うのですよ
例えば 先日の床材選定にしても 普通の感覚ならば
床材の色と壁面の調和 或いは什器との調和を考えるけど
山ちゃんは 外光が差し込むことまで読んで決めているでしょ」
「うん そんなの当たり前だと思っているけど」
「ところが 分っていても出来ない所があって
後になって 修正をしなければいけなくなる事が多いわけ」
「だけど 孝ちゃんのように百戦錬磨でもそうな訳?」
「ある部分では 後で修正と言う事が有りますよ
時間があれば考えられる所を それを瞬時に決められる
山ちゃんの考え方の素晴らしさは 一級品ですよ」
「そんなに 誉めていただいても何もでないよ」
「いやいや ほんと 鈴やではもったいない
と 皆言っていますよ 特に社長は」
「しかしね そんなに言われても、、、
逆に僕が失敗をしたときは どのようになるのか怖いですよ」
「まあ その時は一過性の過ちと考えるでしょう」
「うーん 失敗が続けば 或いは失敗でなくとも会社の政策と違った
方向性で話が進んだ場合は僕の見方が違って来るでしょう」 
「それは有り得ない話では無いです」
「だから 今のように使い勝手がいい状態が良いのではないの?」
「まあ そう言われてみればそうですね」
神山と高橋はお互いの意見を尊重しながら話し 箸をすすめた
「ところで山ちゃん 明日の朝は現場にこられる?」
「うん 時間は取ってあるよ」
「よかった 明日朝に床が入ってきます」
「早いね 予定だとあさってでしょ」
「そう それが在庫があって早くできる事になったのです」
「へぇ ニーナ・ニーナも喜びますよ」
「そうしたら 明朝お願いしますね」
アルタの高橋と神山は明日の約束をして寿司屋を出た

神山はマンションへ向かう間まだ一ヶ月も経っていない間に
自分の周りが変化している事に戸惑っていた
3人との女性関係がこのまま続くとは思っていないが
果たして流されるのか 流すのか、、、
どこまで踏み込むのか否か、、、
考えれば酷い話だと思った
急に自分の周りに魅力的な女性がいっぺんに現れることは、、、
できれば順番に現れてくれれば良いのに、、、
神山はお酒の酔いも手伝って
都合のいい考えをしながらマンションへ戻った
部屋に戻ると22時を廻っていたので先に風呂に入り疲れを取った
ジャグジーを使い心地よくなったので
冷蔵庫から御殿場の地ビールを取り出し浴槽で味わった
浴室からは夜空に星が輝き神山の疲れを飛ばしてくれた
ジャグジーで心地よくなったので浴室から出て
FAXや仕事用の留守番電話などに対応した
殆どの内容は今までの携帯電話連絡で済んでいた事だった
神山はまだ帰っていない祥子に連絡した
「はい 私です」
「こんばんわ 祥子悪いけど 今夜は早く寝ます ごめん」
「ほんと 寂しいわ 相談したい事があったんだけど」
「えっ どうしよう そうしたら 待っていようか?」
「だけど まだスタッフと一緒だから、、、」
「急ぎじゃなければ 明日でもいいかい?」
「ええ では 明日お願いします」
「では 明日また起こしてくださいね お願い」
「は~い それではおやすみなさい」
神山は久しぶりに24時前に床に付いた
考えてみれば ここ2週間で始めてのことだった


「あなた 宝くじが当ったわ、、、それも2等、、、」
神山は上原の現場に居る時に携帯で亜矢子から知らされた
「えっ 本当ですか?」
「ええ 本当よ 凄いわ 嬉しい」
「良かった 本当に良かったね」
「ええ あなたが買ってくれたから当ったのよ」
亜矢子はこれ以上ない笑顔で神山に抱きついて来た
神山も亜矢子をしっかりと抱きしめキスをした
ホテルでは椿総支配人などが皆でお祝いの拍手をしていた


4月16日 木曜日 曇り  
「ねえ あなた起きて お願いだから」
祥子は神山の携帯電話を鳴らしながら部屋の前で起こした
聞こえてくる声は亜矢子ではなく椿の声でもなかった
神山は遠くから聞こえる祥子の声で夢から覚めた
昨日はアルコールを控えたのだがぐっすりと寝込んだようだった
「ごめんごめん 今 そちらに行きます」
神山は玄関を開けると片手に携帯電話を持った
ルームウェアー姿の祥子が立っていた
「もう 何回起こしたら 起きてくれるの?ほんとうに」
神山は眠たい目をこすりながら
「ごめんごめん ぐっすりとしてしまった」 
「もう 心配させないで 起きて来ないんだから、、、」
祥子は神山の返事を待たずに自分の部屋に戻った
神山はそのままの格好で顔を洗って祥子の部屋に行った
祥子はいつになく機嫌が悪く
「なんで そんなに遅くまで寝ているの?」
神山は答えようがなく黙っていると
「昨夜は本当に寝ていたの?」
またまた攻撃である
神山は携帯電話で言った通りだと説明したが
「だけど 何回も連絡を入れたのよ ほんとうに」
神山自身もここまで言われると流石に気になり
「そんなに言われても事実だからどうにもならないでしょ」
今度は祥子が黙ってしまった
神山もこんなにきつく言わなければ良かったと思ったが
いつまた同じ様に言われるのか考えると
言っておいて良かったと思った

「ねえ 本当に大丈夫? いくら起こしても起きて来ないんだから」
「うん 大丈夫だよ」
祥子はいつものように和食のメニューを用意していた
「祥子 今日の現場だけど 床材が入ってくるけど、、、」
「ほんと すごいわ 見に行きたいけど、、、」
「用事があるなら無理する事ないさ いつでも見られるよ」
「でも あの床材がフローリングになるのでしょ 見たいわ」
「今朝は本社?それとも銀座?」
「ええ 銀座なの」
そう言うと祥子の顔は暗い表情になった
「どうしたの うつむいて」 
「ええ 今夜お話ししますね」
神山はそれ以上聞いても答えが返ってこないと思った
「では 今夜は何処かで食べようか?」
ようやく祥子の顔が普段の笑顔がもどり
「そうしたら どこか銀座で美味しいところが良いな」
「何にする?和食?中華?、、、」
「お任せするわ」
祥子の笑顔を見ながら話していると現実を忘れる思いだった
ここに居る事も現実を忘れさせているし、、、
しかし 今の時間を大切にする事については
祥子も神山も同じ考え方だった
「そうしたら 電話をするよ」
「ええ お願いね 待っています」
「しかし 終日銀座なの?」
「ええ 今日は一日銀座店にいますよ」
「分った 連絡をしますよ」
祥子と神山は今夜の約束をしながら朝食を食べた
今朝のメニューには納豆がなかったのでキスが出来た

神山は祥子と別れると自分の部屋で上原の仕度をして
祥子の部屋で仕度を待った
「お待たせしました さあ行きましょうか」
今日の祥子は紫陽花をイメージした彩りだった
「祥子 素敵だよ」
神山は素直な思いを告げた
色白の肌にパステルパープルのジャケットが良く似合っていた
上原の駅に向かうまでいつものように腕を組んで歩いていた
駅前のブティック現場前に着くと 
「では 先に銀座に行っていますね」
「うん 改札口まで送るよ」
神山は現場を過ぎ改札口まで祥子を送った
祥子はこちらに見える程度に可愛らしく
小さく手を振りながらホームに消えていった
神山は見えなくなったところで改札口を離れ現場に向かった
歩いている間 祥子の昨日の話や今朝の態度が気になった
現場の進捗状況は良好だし 筒井さんとの仕事上の事か?
神山は自分の女性関係が知られたのか、、、
色々と考えている間に現場についた
「おはようございます」
「、、、」
「山ちゃん? おはよう」
「、、、」 
「どうしたの ねえ 山ちゃん」
現場の前で待っていた高橋が 
うつむいて歩いてくる神山を見て挨拶をするが 返事がなかった
神山が現場を通り過ぎようとしたので 腕をつかんで
「どうしたの 山ちゃん?」 
「あっ ごめんごめん」
「本当に 夢遊病者だったよ 何があったの?」
「あっ うん なんでもないよ」
「そうか 仕事のし過ぎかな」
「うん ちょっと考え事をしていて ごめん」
「山ちゃん 大丈夫?」
「うん 大丈夫だよ」
「もう 床材が来ていて 敷き詰めているよ」
「ほんと 早いね」
「今 丁度 自然光が綺麗に入っているから見てください」
神山は高橋の案内で店舗の外から床材を眺めた
床材が少しだけ敷き詰められた場所を見たが納得した
やはり自分が思ったとおり自然光に対応した色を
選択した事に間違いはなかった
神山は今まで構築した物が役立ったと思った
段々と自信が表に出てきたのか明るい顔に戻ってきた
現場の中はまだ床材の糊があったりで入れない状態だったが
神山は高橋に什器の提案をした

「ねえ 孝ちゃん 柱周りの什器だけど」
「うん?」
「アクセントでメタリックを使ってみない?」 
「えっ? どのように?」
「うん 今考えたんだけどさ 柱の所にもう少し立体感を出す為に」
「具体的には?」
「うん この床材を生かす為に 什器の立ち上がり面に
メタリック塗装を施すと 多少でも反射して奥行きが出るでしょ」
「うん そうですね それはいい考えですね しかし、、、」
「うん 僕がこれからニーナ・ニーナに連絡を入れます
什器の塗装はまだ 大丈夫でしょ」
「そうですね どちらにしても メタ塗装は最後になりますから」
「分りました」
神山は祥子に携帯で連絡を入れた
しかし まだ地下鉄に乗っているらしく出なかった
今度は筒井と連絡をとった
「おはようございます 神山です」
「やあ おはよう いつもありがとう」
「ところで 筒井さん 現場の柱巻き什器の件ですが、、、」
神山は筒井が納得するよう塗装変更について説明をした
「分った 山ちゃんの考えたとおりに進めてください」
「ありがとうございます」
「ただし 余り予算をオーバーしないようにお願いします」
「分りました 久保さんには後で連絡をします」
「うん こちらからも一応しますがお願いします」
神山はメタ塗装が決まったので高橋に頼んだ
高橋は直ぐに小田原工場の塗装部門に変更の連絡を入れた
「山ちゃん 大丈夫だよ 間に合ったよ」
「それは良かった 孝ちゃん 予算の件だけど、、、」
「大丈夫ですよ このぐらい 何とか成るでしょう」

神山は高橋と床材の件や壁紙の事で話をしていると
これから出勤する女性達が
どんなブティックが出来るのか話をしていた
「素敵なお店ね オープンしたら来て見たいわ」
「そうね 私も覗いて見ようかしら」
「なにか自然な感じで 明るいわ 楽しみね」
この時間の出勤なので近場の新宿辺りか
渋谷辺りの女性達だろうと察した
果たして渋谷や新宿の女性達が振り向いてくれるか否か
銀座鈴やに並んでいる商品郡で太刀打ちできるか
神山は少し心配になってきた
このブティックのコンセプトはあくまで
アンテナショップであり 販売が主ではない
しかしいくらアンテナショップであっても
情報が偏ってしまうのではないかと危惧していた
通常の営業時間帯では遅い時間帯の人達からの情報が集められないし
どのように運営をしていくのか筒井に聞いてみようと思った
床材が敷き詰められた頃 丁度お昼時間になった
「なかなか綺麗で 明るくて落ち着いた雰囲気になったね」
「やっぱり 山ちゃんが居てくれるからでしょ」
「いやいや そんな事はないよ」
「ところでお昼ですが もう少し待ってくださいね」
「うん?」
「ええ のりを乾燥させるので換気のためシャッターを
閉められないので もう直ぐ応援部隊がきます
それまで待っていてください」
「了解ですが 誰が来るの?」
「田中君が来ますよ もうすぐ来ます」
「内野君は?」
「ええ 御殿場のホテルに行っています」
「そうか 御殿場は内野君が担当ですよね」
「ええ 10時の打ち合わせなので早めに出て行きました」
「それは大変だ、、、」
「しかし 御殿場は最終確認なので楽ですよ」
「椿支配人も喜ぶでしょう」
「そうですね 何しろ内藤がほれ込んだ山ちゃんの仕事だから」
「またまた そんな事はないですよ」
二人が話していると田中が駅の方から走ってきた
「すみません 遅くなりました」
「やあ 幸ちゃん ご苦労さんです」
「すみません 神山さん 遅くなりました」
3人で挨拶をしていると もう一人後ろから付いてきた
神山に対し深々とお辞儀をし
「神山部長 私 アルタの梅崎と言います」
「神山さん 田中君のグループで働いている梅崎君です」
「やあ 神山です よろしく」
「神山さん 梅崎君は今年多摩美を出たばかりの子です」
「そうすると ご夫人と同じ出身校ですね」
「ええ 期待されていますよ」
「そうか 頑張ってください」
「はい ありがとうございます がんばります」
梅崎淳一は神山に対し 再び深々とお辞儀をした
「それでは 田中君 頼むよ」

高橋は田中に対し留守番を頼み神山と出た
「山ちゃん 今日はどこにしますか?」
「うん 別にどこでも良いけど」
「駅前は毎日通っているし どこか場所を変えましょうよ」
「そうですね、、、」
神山は表参道のうなぎ屋に行ってみたくなり
「そうしたら 表参道のうなぎ屋おおたに行きましょうか」
「ええ あそこは美味しいですよね 行きましょう」
神山は早速携帯電話で予約を入れる
受付によると30分ほど待つ事になるといわれたが了承した
高橋と神山はタクシーを拾って表参道に向かった
表参道に着いた時には まだ時間が充分在ったので
ウインドーショッピングをしながら店に向かった
行き交う人のファッションを眺めていると
おしゃれな若者達が多かった
女性達も何処か高級感を漂わせ表参道を飾っていた
ゆっくりと歩いていると『うなぎ屋おおた』についた
店の外にはいつものように縁台に緋毛氈が敷かれて
順番待ちで座れなくなっていた
神山は高橋と少し離れて 亜矢子に電話をした
「神山ですが、、、」
「私です 昨日はありがとうございます」
「どういたしまして ところで亜矢子さん」
「はい」
「連休の件はどうなりましたか?」
「喜んでください」
「えっ」
「あのね」
亜矢子は回りに気を使っているのか小さい声になった
「22日から24日までお休みが取れたの」
亜矢子は細々とした声だったがはっきりと伝えた
直ぐ傍で話をして居る時の笑顔が浮かんだ
「よかった そうしたら24日まで連休しましょう 合わせます」
「だけど 本当に大丈夫ですか お忙しいのに、、、」
「大丈夫 そんな事より 22日まで元気でね、、、」
「ええ あなたも、、 又連絡を下さいね」
「わかった 連絡をします」

神山は携帯電話をしまうと高橋の所に近づき店内に向かった
店内の受付に行き名前を告げると 奥の席に案内された
4人がけのテーブル席だが隣りとは衝立で仕切られていた
二人はビールを頼み うなぎの骨をから揚げしたおつまみも頼んだ
うなぎ屋だが簡単な鮮魚のおつまみもありそれも一緒に注文した
「それでは 床材の成功で乾杯」
高橋が 神山に向かってジョッキを突き出し神山と乾杯をした
床材に対してとりとめのない話をしていると 鮮魚のおつまみが来た
たこ えび いか あわび 鯛の切り身 などなど
「凄いですね 山ちゃん こんなにたくさん、、、」
「そうですね それに色も良いし 美味しそうですよ」
「では 頂きましょう」
「そうですね 頂きましょう」
神山と高橋は 美味しい鮮魚に満足し箸を進めた
「ところで孝ちゃん 上原の受け渡し日はいつになったの?」
「うん それがやはり4月25日土曜日におおむね決定です」
「ニーナ・ニーナには 連絡をしてあるの?」
「うん、、、」
「どうしたの?」
「実は 25日だと夕方になってしまいそうなんですよ」
「そうか でも一日でも早いほうが先方も喜ぶでしょ」
「そうですよね、、、」
高橋はいつになく暗い表情になっていた

「何が心配なの?」
「什器の搬入が遅い為一日ずらそうか考えているのです」
「製作がぎりぎりなんだ」
「そうではなくて、、、」
「なんだよ 孝ちゃん ちゃんと教えてよ」
高橋は神山に見つめられ事実を話す決心をした
「什器の製作は充分間に合います 配送の手配が上手くいかなくて」
高橋はそこまで言うとうなだれてしまった
「そうか だけどなんで?」
「ええ ちょうど横浜の百貨店とバッティングしていて、、、」
「そうか 横浜と当っているのか」
神山は 横浜東口に今度出店する百貨店を考えた
「ええ 車さえあれば25日の朝に引渡しが出来ます」
「そうすると 24日の夜に搬入か」
「ええ 本当に車がないんですよ 横浜に取られています」
「このような場合は フリーの業者まで横浜に行くものなの?」
「ええ 色々当ってはいるのですが
なかなかまとまった台数がなくて」
「孝ちゃん そうしたらさ 僕がこれから車を当ってみるよ」
「ええっ そんな」
高橋は神山に言われても自分の裁量ではどうすることも出来なかった
神山は銀座の倉元に電話をし確認すると神山の意見に賛成した
結局 リース.レンタル什器専門で
大手の吉本が使っている運送業者に頼む事にした
吉本はもともとファッションマネキンの大手だが
この頃は店内改装を手がけるほど大きくなってきていた
物流に関してはいつも使っている第二貨物がメインであった
神山は吉本に訳を話し第二貨物を借りる事にした
吉本のほうも横浜に納品があり渋っていたが神山の熱意に負け
「分りました しかし少し割高請求になりますがいいですか」
「うん 絶対に24日の金曜日は抑えてくれ」
「はい 神山さんのお願いだと断れないですよ」
「うん ありがとう 恩に着る」
「では 請求書関係は又後で 直ぐに抑えます」
神山は高橋に吉本で使っている第二貨物を動かせる事を伝えた
「ええっ では24日の金曜日に搬入できるのですか」
「うん 多分 大丈夫だよ」
高橋は神山を信じられない眼差しで見ていた
「どうしたの そんな なにか付いている」
「いや だって やっぱり凄いや 山ちゃん
一つの器でしか動かせないから、、、 凄いよ」
「そんな事ないさ 吉本も動いてくれるし
第二貨物の常務を知っているから
例えば吉本がだめでも第二の常務に連絡すれば何とかなるさ」
高橋は改めて神山の大きさを知った
神山は携帯電話で銀座の奥村課長に連絡をして
事の経緯を説明し理解納得してもらった

「ところで 孝ちゃん お願いがあるんだけど、、、」
「うん?」
「ちょっと私用で来週の22日から24日まで
行方不明になりたいんだ」
「、、、」
「何か いいアイデアないかな」
「、、、」
「出来れば熱海とかがいいんだけど」
「いいよ なんとかする」
「ありがとう 助かるよ」
「ところで どんな女性?」
「うん 実は御殿場のホテルで知り合ったんだよ」
「えっ 早いね、、、でっ どうなの」
「うん 純情で可愛らしく 今のところ順調です」
「しかし 山ちゃん 久保さんも居るだろ 大丈夫?」
「えっ 何故知っているの?」
「だって 傍目で見ていても分るよ 彼女の動きを見ていれば」
「そうか これは内緒だよ お願いだからね」
「はい了解 ところで具体的にはどうするの?」
「うん アルタに迷惑を掛けたくないし、、、かと言って催事課には
内情を知られたくないし、、、」
「なるほど、、、」
「そうなんだよ、、、」
「そうしたら 山ちゃん」
高橋は残っているビールを一息で飲み干し
「ねえ うちの小田原工場見学はどう?」
「小田原工場?」
「今度のニーナ・ニーナ什器製作は小田原工場が担当なんですよ」
「うん それで」
「だから いつでも良いでしょ 見学日は」
「そうか だけど上手く行くかな?」
「大丈夫だって 工場長にそれとなく話しておくから」
「うん そうしたら実際に行きますよ そのほうが良いでしょ」
「時間はあるの?」
「うん そうしたら22日の午前中に伺いますよ」
「だけどその後は、、、」
「うん 自由行動で なんとかするさ」
「そうですね 頑張ってください」
神山と高橋は一応の結論が出たところで卓にある鮮魚を食べた
しかし高橋が久保との事をどこまで知っているかは別として
抜き差しならぬ仲と見抜いたのには驚いていた
今回の旅行には色々と煙に巻かなければいけない人物が頭をよぎった
浮かない顔をして箸を勧めていると高橋が
「どうしたの 嬉しくないみたいだね」
「そんな事はないけど なにか、、、」
「スーパーマンでも 弱点はあるのですね」
神山と高橋はお互いの顔をみて笑った
ようやく二人の不安が払拭されたので箸が進み
鰻の蒲焼定食を運んでもらう事にした
ここ うなぎ屋おおたで使っている鰻は
特別に愛知県の三河で獲れる天然鰻を出していた
養殖でないので身が引き締まっていて柔らかく
更にあぶらも適度にあり最高に美味しかった
タレは関東人に合わせあまり濃い味ではなく食べやすかった
神山はメニューを見てみると美味しそうなお土産があったので頼んだ
二人は卓に並べられた鰻を綺麗にし後にした
「ごちそうさまでした」
「いえいえ こちらこそ 山ちゃんはどうするの これから」
「うん 銀座でお仕事してきます 何かあったら携帯まで」
「了解です」
「では 22日の件 お願いします」
「ええ 住所などは後でマンションにFAXしておきます」
「了解です お願いします」
神山と高橋は別々のタクシーに乗り別れた






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