2012年9月25日火曜日

青葉 3 - 17 Vol. 2



この様な斬新なアイデアを盛り込んだプランを出した
最初 旧経営陣は反対したが 一哉の熱心な意気込みを感じOKした
以前の社員寮は小田原駅よりまだ南に位置し海岸が近く
レジャーとしては良い場所だが 通勤には苦労した
駅まで徒歩かバスで着き そこから会社専用の送迎バスに乗り換える
と言う手段で通勤をしていた
昼食にしても午前中に仕出し弁当屋に注文し昼には各職場で食べていた
一哉も当然同じ環境で生活したが 作業員が喜んで
作業していない事はすぐに分った
現在 社員寮は工場敷地内にあり 食事も工場内で賄えるし
居酒屋など アルコール類も工場内にある
勤務体勢も24時間制だがフレックスタイムを取り入れ
生産効率を上げている

「そうすると 従業員の人達はどうなんでしょうか?
少し 窮屈に感じないですかね?」
「ええ 多少は感じる所は在るでしょう
しかし 食事に掛かる経費は実費だけ
それに うちのフレックスは月間の規定実働時間を
自分の都合に合わせたシフトが作れます」
「へぇー」
「勿論 今回のように仕事が詰まっている時は 
事前調整をしますがね」
「それにしても 素晴らしいですね」
神山たちが話し込んでいると 板前が
「今朝 上がったばかりの魚です
お口に合うか分りませんが どうぞお召し上がりくださいませ」
「さあ 神山さん どうぞ召し上がってください」
神山は鮮魚の盛り合わせを一口したとき 美味しいと思い
どこかで食した新鮮な味だと感じた
「凄く美味しいです」
「喜んでいただけて 良かったです」
板前がニコニコしてカウンターに戻ると 今度は日本酒を運んできた
「こちらも 喜んでいただけると思いますが どうぞ」
「えっ 日本酒ですか、、、」
これから3時に桜川亜矢子と合うのに
大丈夫かなと思いつつ口をつけると
「あれっ 美味しい しかし、、、?」
「さすが 神山さん 分りますか?」
「、、、 もしかして 御殿場?」
「そうです 御殿場グランドインの地酒です」

「へぇー 凄いですね」
「ええ 社長が大変気に入りましてね 置いてます」
「しかし こんなに美味しいと皆さんの財布はどうなんですか?」
「そこなんですが 結構みんな呑んだり食べたりしていますよ
社員は 食材料費を実費で払うだけです
それも 先月会社が支払った分だけです」
「そうすると ここで働いている板前さんなんかは?」
「ええ 勿論会社の福利厚生の一環として働いてもらっています
ですから ちゃんとお給料は出ますしね」
「へぇー 凄いですね」
「もっと凄いのは 各飲食店のランキングもあるんですよ」
「ナンですか?」
「それは どこのお店が一番人気があるかなどです」
「それも変っていますね」
「ええ この様な方法を取り入れると いろいろな部分で
切磋琢磨します 例えば 新鮮な食材探しや新しいメニュー開発など
勿論 新鮮な食材を取り入れると言っても やはり食材予算があり
予算内で美味しく新鮮な食材を探さなければいけません」
「ええ」
「そして 1ヶ月間でどこの店舗が一番売上があったかなど
データーに現れます その月の上位3位までが会社から金一封を
頂けるし 年間売上ポイントで最優秀店にはまたまたご褒美が
待っています 結局の所 安くいい食材を美味しく食べて頂く事です 
勿論 接客マナーも重要ですね
その様なシステムがあると お店側としては従来からある
従業員食堂の考え方とスタンスを考え直さないと出来ませんね
それから もっと驚かれる事があるのですよ」
「どんな事ですか?」
「これも私自身驚いたのですが
連続で同じお店で食事が出来ないようになっているのです
例えば お昼にここで食事をすると夕食事は違うお店を
利用するとか栄養摂取が偏らないよう色々と社員の健康まで
考えているのです アルコール飲酒も一日の量が決まっていて
それ以上呑む場合は 原価プラス違反料金が加算され
その違反分も上限が設定されています
分りやすく説明しますと アルコール資質指数85が限度です
この数値の出し方ですが 例えばアルコール分5%のビールだと
500ccの中ジョッキ1杯で指数25になります
ですから 中ジョッキ3杯呑むと指数75で
もう限界に近くなるわけです」
「へぇー凄いですね まあ 普段は余り呑まないとしても
飲みたいときも在るでしょ そんな時はどうされるんですか?」
「ええ 寮にある自販機を利用するのですが
それも上限が決めたれています」
「そうすると お酒好きの人にとっては
結構窮屈ではないですか?」
「そうですね この話を聞かれた方は窮屈に
感じるかもしれませんがこのシステムにしてから 
苦情はありませんし 健康面でも問題無しです」
「そのお酒の量とか 
食事の栄養とかどのように管理しているのですか」
「ええ 社員カードを店に入る時にスキャンさせます
そこで まず最初のチェックがあります
店利用が連続でないか否かOKだと入店できますが
OUTだとブザーが鳴って入店できません
更に着席すると テーブルの脇にあるカードBOXに
社員カードを差し込みます
注文はこのタッチパネル式のモニターで行い 料理が出てくる
仕組みです その時に 料理に使われた材料の栄養価や
アルコール指数なども管理され
例えば2日間野菜摂取が最低ラインを割っている人には
サラダの盛り合わせがついてくるとか 
アルコール指数オーバーの場合は
このモニターで問い合わせが来ます
【制限近し 違反しますか?】と」
「凄いですね だけど今 赤坂さんのところは何も無いですよ」
「ええ VIPの時カードは外せますが
私のデーターは全部カウンターの板前が入力しています」
「全ては社員の健康管理を基に考えられている事ですね
素晴らしいですね」 
神山はこのシステムを考えた内藤一哉を改めて感心した
「そうすると カレーが好きでも毎日はだめで 
野菜の摂取が少ないとサラダの盛り合わせが付いて来る訳ですね」
「そうですね まあ色々と考えなくともきちんと管理されているので
楽と言えば楽ですね」
「良いですね 私も少し考えます」
神山と赤坂はこのシステムや工場の事について話しながら箸を進めた

食事を終えると赤坂が
「コーヒーでも如何ですか?まだお時間は大丈夫ですか?」
神山はロレックスを覗くとまだ充分に時間が有ったので
「はい 頂きます」
赤坂は部屋を出ると一番隅に位置している部屋に入った
そこは従業員達も利用していて 半分ぐらいの席が埋まっていたが
ちょうど窓際の席が空いていたので座った
周りの社員達は工場長が居るという事での緊張は無く話しに夢中だが
挨拶だけはきちんとしていた
神山が赤坂に窓から見える景色を案内されていると若い社員が
「う~ん これはいい匂いだ 
匂いの元は後ろに座っている常務かな?」
神山と赤坂は日本酒を2合づつ呑んだだけだが 
結構匂うのかと思っていると
「そうです 私が犯人です 2合呑みました」
赤坂は詫びる事無く 後ろの若者に伝えた
「しかし常務 今夜は4月中期の打ち上げが在るのでしょ
今からそんなに指数を上げると罰金ですよ」
「うん 分っている 明日は休みなので罰金でもなんでもこい
今夜は今夜だ さあ しっかりと働いておくれ」
「は~い そろそろ出よう」
若者はテーブル席の仲間に合図をし立ち上がりこちらに振り向き
「神山様 工場見学をして頂きましてありがとうございます
今後も 我アルタをよろしくお願いします」
深々とお辞儀をしたので神山も
「いえいえ こちらこそ突然お伺いしまして 申し訳ないです
赤坂工場長から色々とお話を お伺いし皆様が羨ましいです」
「はい ありがとうございます
今後もお時間が空きましたら 是非小田原に遊びに来てください」
そう言うと若者皆で再び深々とお辞儀をしてカフェを出て行った
「赤坂さん 今時珍しく礼儀正しい若者達ですね」
「そうですね 私も驚いています」
「そんな 赤坂さんのご指導の賜物ではないですか」
「私なんかより 課長達がしっかりしているのですよ
私は飾り物です ははは」
二人は顔を見合わせ笑っているところへ
「わ~あ この方が鈴やの神山様ですか」
振り向くと今度は若い女性達がこちらに来ていた
「常務 紹介してくださいよ お願いします」
彼女達は私が最初と言わんばかり 部長にせがんだ
「はいはい 分ったから 整列してちょうだいな」
「は~い」
と言いながら何とか並んだので 赤坂が左から紹介して行った
「ありがとうございます 神山様 また小田原にお越しください
その時は 赤坂ではなく私達をご指名してくださいね
カラオケやテニスも出来ますよ お待ちしていますね」
伝えたい事を言い終えると
先ほどの若者達同様深々とお辞儀をして出て行った
「彼女達もしっかりしていますね 本当に」
「ええ やはり課長達がしっかりと教育しているのでしょう」
先ほどの若者達や彼女達を見ていると若さが羨ましかった
もう一度20代に戻ってみるのもいいかなと感じていた
カフェにはまだ10人位居るが 作業服や事務服の姿がまざり
夢中になって話し合っていた
4月の初夏に向かう陽射しが窓から差込み
若者達を更に元気にしているように見えた

神山はどうしても喫煙をしたくなり赤坂に申し出ると
「それでしたら テーブルのボタンを押してください
そうすると ファンが廻りますよ」
神山は言われた通りすると 
テーブルのセンターにある虫かごみたいなネットの中で
ファンが『ゴォーン』と唸り声をあげ回転した
「皆さんは吸われないんですか?」
「そんな事無いですよ 
吸うのも居ますがたまたま今は居ないだけでしょう」
「しかし 参りましたね 何故私の事が分ったのですか?」
「それは やはり知名度が高いからですよ
 私達の工場でも若い者は皆知っていますよ」
「そうなんですか、、、」
「どうされたんですか?」
「いえね そんなに有名だと
小田原では悪い事出来ないな~と思いまして」
赤坂と神山は顔を見合わせ笑った

ロレックスを覗くと2時を少し廻っていた
「それでは赤坂さん ありがとうございました
そろそろ お邪魔します」
「そうですか もうそんな時間ですか
こちらこそ 田舎までお越し頂きありがとうございました
熱海のお時間は何時でしょうか?」
「えっ 3時ですが、、、」
神山は高橋から連絡を受け知っているのだと確信した
「それでしたら 熱海まで車で行ってください
丁度 田代君がそちらに用件があるものですから」
「はい 分りました お願いします」
赤坂はカフェのカウンターにある電話で連絡をとり席に戻ると
「本当にお忙しい処お越しくださいましてありがとうございます
表玄関に車を用意しましたので行きましょう」
「こちらこそ 色々と勉強しました ありがとうございます
それから ニーナ・ニーナの件ですがお願いします
24日の朝一番には第二貨物が来る予定になっています」
「はい お任せてください 昨日 第二貨物さんと
連絡を取り合い 上原には夕方ごろつきます」
二人はエレベーターを使わずに階段で下る時
「神山様 これは私の携帯番号とメアドです」
赤坂は今回の秘密を共有している声で伝えメモを手渡した
「何かございましたら 遠慮なくご連絡ください」
神山はどう答えていいか分らず
「はい ありがとうございます」
と言い メモを受け取った
「それから これは内藤からの連絡です 車の中でどうぞ」
茶封筒に『神山様』と内藤の字で書かれた物を渡された
「はい分りました なんだろう?また仕事かな?」
裏にはしっかりとセロハンテープで止めてあり
「ここで破いて見てはだめなのですね」
「ええ 内藤からもその様に指示されていますので、、、」
神山はカメラバッグの中にしまった
表玄関に着くと社員達が見送りに来ていて
先ほどカフェで挨拶をした若者達も参加していた
「やあ 先ほどはありがとう これからもお願いしますね」
「はい 任せてください だいじょう~ぶです なぁみんな!」
「は~い 任せてください 大丈夫ですよ~」
神山は見送りの人達に深々とお辞儀をし車に乗った

田代が運転する車は小田原駅に向かわず山の中に入っていった
間もなく山を下ると西湘バイパス風祭ICに出た
「そうか 先ほど赤坂さんから地形を説明されたけど
箱根登山鉄道の風祭に近かったんですね」
「そうなんですよ 熱海に行く時はいつも 小田原に出ないで
この道を来るんです 近いし 信号がないし」
「なるほど さすが田代さん」
「神山さん 少しだけ飛ばします」
「はい 分りました」
神山は赤坂から受け取った内藤の茶封筒を破って手紙を出した
【山ちゃん お疲れ様でした 小田原工場は如何でしたか
  特に社員達の態度には驚かれたと思います
実はあの工場は職業訓練校も兼ねて運営をしている
  関係で礼儀正しさが自然と身に付くのだと思います
  現在200名くらい居る社員の40名位はまだ訓練生ですが
  しかし技術はどの子をとっても社員と変らない技術力でしょう
  今後も、、、、、、、、、、
  最後になりましたが 私の気持ちお納めください
  今まで休み無しで働いてくださったお礼です
  緊急時には赤坂なり私に電話くださいね
それでは気をつけて 楽しい旅行をしてください】
読み終えた神山は(なんだ 全部バレバレか、、、)と思った
茶封筒には現金20万円と何軒かホテルの無料宿泊券が入っていた
今回は予約せずに来てしまったので どこに行こうか迷っていたが
これだけ宿泊候補があると逆に行き先に悩んでしまう
当初 網代の清碧旅館でゆっくりとしようかと考えたが
まだ10日も経っていないのでどうしたものか思案していた
 (まあ 熱海で亜矢子と逢ってから決めても良いか)などと
安心すると あくびを出してしまった
一生懸命運転している田代に悪いと思ったが 遅かった
「神山さん どうぞゆっくりしてください
熱海駅につきましたら起こしますから」
「ごめんごめん ではお願いします」

4月17日 金曜日 夜
「ごめんね 返事が遅くなって」
神山は銀座の店を退社する時 祥子に連絡をとった
「大丈夫よ それでバックヤードに置く事OK?」
「うん 大丈夫だよ アルタから先ほど最終的に返事が来た」
「ふぁ~ 嬉しいわ これで準備も本格的に進められるわ」
「良かったね 本当に」
「ええ 貴方のおかげよ 助かったわ」
「しかしオープニングセレモニーの件だけど印刷物は間に合った?」
「ええ なんとか大丈夫よ 本当は見切り発車していたの、、、」
「えっ?」
「実は14日の夜にアルタの高橋さんと食事に行ったの」
「うん」
「その席上で私が筒井に招待状の件を話をしていたの」
「うん」
「そうしたら 高橋さんが25日には引渡しが出来ますと
仰ってくださり4月26日日曜日オープンで筒井も喜んでいたの」
 (そうか 14日には話していたんだ
だから16日のうなぎ屋で困っていたんだ だけど全てOKだ)
「ねえ 聞いている ごめんなさい 勝手に走って」
「ううん 違うよ 全て良い方向で進んだから良かったと
考えていた所だ」
「それでね 先ほど届いたDMを皆で宛名書きしているの」
「そうか 手伝いに行こうか うちにも居るよ達筆な人が」
「ううん 大丈夫よ
それより店長さんはご出席してくださるかしら?」
「伝えてある? だれかに?」
「ええ 筒井から話が行っていると思いますけれど、、、」
神山は奥村課長が居たので尋ねてみると
「ああ ごめん 山ちゃんにはまだ伝えていなかった?ごめん
店長は出席してくださるそうだ 先ほど連絡があった」
(そうゆう肝心な事 早く知らせてよ 本当に、、、)
「ごめん 今 奥村課長に確認したら OKです 良かったね」
「そうですか 念のため筒井に報告しておきますね」
「分りました お願いしますね ところで今夜の予定は?」
「ええ もうすぐ宛名書きが終るわ その後筒井も一緒にご飯です」
「そうか そうすると一人で食べるね」
「はい分りました 余り呑まないでね
多分遅くならないで帰宅できるわ ごめんなさい、、、」
「うん 分った 連絡を下さい」

神山は夕飯をどうしようか考えながらタバコを弄んでいると
「先輩 今夜皆で行きましょうよ 久しぶりだし」
祥子との会話を聞いていたのかタイミングよく翔が話し掛けてきた
「そうだな この頃御無沙汰だしな」
「え~ 皆さん 神山部長 今夜OKで~す」
(なんだ おい なにやっているんだ???)
「おう 山ちゃん そうと決まったら 早く出よう」
「そうよ 待っていたんだから 分らない?」
「えっ なんですか?全然わかりませ~んが、、、」
「よし 早く出よう みんな」
「どうしたんですか 課長まで、、、」
「いいんだ 翔 早速連絡をしてくれ」
「はい 今OK貰いました」
「では 出よう」
今夜はどうした事か 催事課全員が揃っていた
部屋の出口で市川に
「なんなんだ これは、、、」
「秘密だよ もう直ぐ分るよ」
と言いながら ニヤニヤしていた
(なんだ 市川 ニヤニヤするな 教えろよ)
 
奥村課長の先導で『ホテル禅地下 日本料理 四季』に入った
一番奥の部屋に案内されるが 靴が何足か置かれていた
奥村が襖を開けながら中に入ると 取引先会社の社長が並んでいた
「山ちゃんは あそこの真ん中ね ちゃんと座っててな」
杉田や由香里 市川などに頼んだぞと言った
神山自身 このお店は何回か利用したが 大広間は初めてだった
訳が分らぬまま『まな板の鯉』状態で居ると 倉元が
「この間のウインドーコンテストの件だよ」
「ああ そうですね すっかり忘れていました」
「おう それで本人に早く楯を渡そうという事でこうなったんだ」
「はぁ」
「だから今夜しか空いていなかったんだよ
山ちゃんの仕事を考えると それで皆待っていたわけさ」
「はぁ そうすると今夜は空いていると推測された訳ですね」
「まあ そんなところだ」
「しかし 店を早く出て上原に行ったら、、、」
「そこもきちんと考え 手を打ってある」
「はぁ 凄いですね 参りました、、、」
「おう 今夜の為に 皆で根回したんだ 挨拶だけは頼むな」
「はい わかりました 倉さん いつもありがとうございます」
「おう 若いもんはいいな なぁ奥ちゃん」
「何言っているんですか 一回りも違わないじゃないですか」
「どう言う事 それ」
「だから 倉さんもまだまだ若いですよ」
話題で盛り上がっているとビールや食べ物が運ばれてきた
由香里や杉田も仲居さんに混じって運んできた
川の字型に配列されたテーブルの上にどんどんと
料理が並べられていく
ざっと勘定をすると40名から50名位入りそうだった
由香里がこれから来る人達の事を考え
「すみませんが ご自分の靴は出来るだけ下駄箱にお入れください」
(そうか まだ20名位しか来ていないから
これからまだ来るんだ 由香里 ありがとう)
「さあ 準備も出来たし 皆さんお待ちかねなのではじめましょ」
奥村課長が祝賀会を仕切った
「え~ 今夜はお忙しいところご出席頂きまして
ありがとうございます 心より御礼申し上げます
ここに居られる方々にはお話をさせて頂いていますが
今回 ぎんざ通り連合会 ウインドーコンテストにおいて
私ども鈴やの神山部長が最優秀賞を受賞されました
そこで お取引の方々との親睦を深める事も兼ね
神山部長の祝賀会を開催させて頂きたいと思います
それでは 倉元部長 お言葉をお願いします」
「おう え~ 山ちゃん 受賞おめでとう 私も参加していたが
今回はだめだったよ なにしろ一位になられたのは
素晴らしい事だと思うし 普段から積極的に仕事に取り組む姿勢が
この様な結果に現れた結果です 今後も精進してください 以上」
「倉元部長 ありがとうございました
尚 今回 倉元部長は僅差で2位との事です
どうぞ来年は ご遠慮なさらずに1位をとって下さい
そして この様な盛大な祝賀会が開けることを期待しています」

「神山部長 おめでとうございます」
取引先の面々が挨拶に来た
「ありがとうございます しかし私一人の力では有りません
それよりこれからも鈴やの為にお力添え お願いします」
「はい こちらこそ宜しくお願いしますね」
倉元を見てみると取引先とわいわい楽しく呑んでいた
(両脇 だれが来るのかな 座布団が用意してあるし)
そう考えていた時 池上店長が内藤社長と現れた
神山は立ち上がって両名にお辞儀をすると
「いや やったね山ちゃん おめでとう」
池上はそう言うと奥村の勧めで神山の左側に内藤は右側に座った
「ほんと 山ちゃんおめでとう」
内藤が祝辞を述べながら握手を求めてきた
そして皆に分らぬ様
テーブルの下に手を導き反対の手で茶封筒を手渡し
「これ お祝いです 皆には内緒ですよ」
「はい いつもありがとうございます」
気になり左脇の店長を見てみると
知ってか知らぬかそ知らぬ顔をしていた
店長が脇に座った事でまた取引先が挨拶に来た
「おいおい 今日の主役はワシじゃないぞ 山ちゃんだよ」
と 言いながらも勧められるビールを美味しそうに呑んだ
池上店長やアルタ内藤社長と話していると
「え~ 皆様 今回の受賞で大変お世話になられた方が
来られましたので拍手でお迎えお願いします」
市川の案内でみな拍手で迎えた
デコレーター集団『スーパーデコ』の面々だった
社長の細川女史は名前負けしたのか 3Lサイズの体型だ
ゆっさゆっさと体をゆすりながら内藤の右に座り
「山ちゃん おめでとうございます 良かったわ1位で」
「いえいえ 社長のおかげです ありがとうございます」
「一位は一位よ それも倉さんを抜いたんだから ねぇ倉さん」
「おう そうだ 一番は一番さ」
そう言うとまた取引先の面々と面白おかしく話しこんだ
細川社長が内藤の背中越しに 小さい声で白い封筒を差し出し
「これ お祝いよ 納めて」
これにはどう対処し様か迷ったが 廻りもあるので
「はい ありがとうございます こちらこそお願いします」
そう伝え ジャケットの内ポケットに納めた
神山の席にデコレーター達が寄ってきて ビールを勧めた
「凄いわ 初参加で1番なんて 私こんな経験初めてよ
良かったわ これからも神山さんの仕事頑張るわね」
「おう オレを忘れないでくれよ 年寄りを大切にな」
「そうですよ 僕なんかより 倉さんが銀座の顔ですから」
「おいおい なにもでないぞ そんなに誉めても ハハハ」
そんな話をしていると 奥の襖が開けられ 更に会場が広がった
市川や由香里が奥村に相談したり 慌しくなた
倉元にどうしたのか聞いてみると
「おう 参加人数オーバーだと ハハハ いいことだよ」
それを聞いていた池上店長は倉元に
「倉さん そろそろ世代交代ですかね ねぇ」
「おう またまた まだまだ現役ですよ 店長」
みなで笑っていると細川社長が
「はい 皆さん 席に戻ってね 山ちゃんを独占してはだめよ」
そう言われるとデコレター達4名が先ほど開かれた奥座敷に戻ったが
残った中で 山崎 愛が封筒を差し出し
「おめでとうございます 私のメッセージが入っています」
こちらの顔を見つめながら神山に手渡した
それを機に他の3名も同じ様に ラブレターだと言って差し出した
この4名は今回のウインドー制作で特に神山の力となり支えてくれた
アルタの内藤と細川は仕事の話だけではなく冗談も話していた






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