2014年5月13日火曜日

紫陽花 12 - 57 Vol. 1



7月1日 水曜日 快晴
神山はいつものように早く目が覚めると 祐子の寝顔をみてテラスに出た
今日は本社とアルタで辞令が発令され また大変な一日になる予感がした
「ねえ 神山さん この頃 洋子さんと上手く行っているの」
「なんで?」
「うん ちょっと寂しそうにしていたから」
神山はその言葉が 朝になっても残っていて考えてしまった
そう言われれば ゴルフをしてからは みんなと余り関係していなかった
洋子と由紀枝は鎌倉と強羅旅行で交わったが由貴や桃子 カトリアーナと
関係がなくなっていた
しかし 自身の元気が無くなっているのも確かだった

神山が考えていると 祐子が起きてきて 朝食の準備をするため
一緒に下がった
神山は久しぶりにゴルフクラブの素振りをし 汗を流した
主賓室でシャワーを浴び 簡単に汗を流し スタジオで朝食を食べ
朝寝をした

「じゃ 行って来ます」
「はーい 行ってらっしゃい」
「今日は 遅くなる 先に寝ていていいからね」
神山は蒼いBMWで銀座の次長室へ向かった
9時に次長室へ入ると洋子が出勤していて
「やあ おはよう」
「おはようございます ねえ 今日はあのスーツに着替えませんか
私は NNのスーツで辞令を頂きますよ」
「そうか、、、うん着替えよう」
神山は祥子から貰ったドレスシャツにNNのスーツを着た
「やっぱり素敵よ ふふふ」
洋子はそういうと神山にキスをした
以前の神山なら抱き返して 交わるところだが 元気がないのと
時間が無いので 支度に専念した
9時15分になると二人はお揃いのスーツ姿で部屋を出ると 催事課の
みんなが 全員で拍手してくれた
「ありがとうございます でも照れるから 止めてくださいよ」
そういい 本社ビルの8階へ行くと フロアのみんながお辞儀をして
迎えてくれた 秘書室の秋山が
「神山次長 お似合いですよ ふふふ どうぞ」

副社長室へ通されると 社長の権田や理事全員が迎えてくれた
秘書部長の中村が
「では 神山次長が来られましたので、、、」
時田が言葉を遮って
「君 田所君を忘れてはいかんな」
「はっ はい 申し訳ございません」
このとき権田や理事も大笑いし
「訂正いたします 神山次長と田所部長が来られましたので
これから 特別人事命課を行います 神山次長どうぞ」
神山は呼ばれて 権田の前に行った
「神山 龍巳 殿 右のもの 本日を持って東京本社次長常務を任命する
平成10年7月1日 株式会社鈴や 社長  権田三朗」
神山は信じられないことが起きたと思いながら命課を手にした
中村部長が田所洋子を呼ぶと
「田所 洋子 殿 右のもの 本日を持って東京本社次長常務 神山龍巳の
専属秘書理事を任命する
平成10年7月1日 株式会社鈴や 社長  権田三朗」
洋子は落ち着き払い 命課を手にした
中村部長が神山を呼ぶと
「神山 龍巳 殿 右のもの 本日を持って鈴や食品副社長を任命する
平成10年7月1日 株式会社鈴や 社長  権田三朗」
神山は再び命課を手にし下がった
洋子はここで終わりと考えていたが 中村部長が呼び
「田所 洋子 殿 右のもの 本日を持って鈴や食品副社長 神山龍巳の
専属理事秘書を任命する
平成10年7月1日 株式会社鈴や 社長  権田三朗」
洋子はこの話を聞いていなかったので 驚き時田を見ながら深くお辞儀をし
辞令を手にして 下がった
列席していた理事たちから拍手が沸いた
社長の権田三朗が近寄ってきて
「神山さん 頑張ってください 期待しています」
「はい ありがとうございます ご期待に添うよう頑張ります」
また拍手が沸いて 神山と洋子の儀式が終った

時田が神山のところに来て
「山ちゃん 驚いただろ ははは」
「もう 心臓が破裂しそうです」
「正式には8月の株主で了承される 問題ないよ ははは」
「しかし 次長常務って始めて聞く言葉だし 実感が沸かないですよ」
「ははは ワシのすぐ下だよ だから池上君より上だ そのつもりでな」
「はあ 店長より上ですか、、、」
「そうだ 全店の店長より上だよ トップ3だ」
「はあー ありがとうございます」
神山と時田が話していると洋子が呼ばれ
「洋子さん どうだ理事は」
「ええ 驚いています ありがとうございます」
「中村君 例のものを用意してくれ」
権田や理事たちが副社長室から出ると時田は神山と洋子にソファーを勧めた
中村部長や秋山がシャンパンを用意し時田が
「権田さんに声を掛けてください」
3人は権田が部屋に入ってくると お辞儀をし時田が
「では 新しい次長常務に乾杯」
4人はグラスをあげるとシャンパンを飲んだ
「神山さん 時田さんから伺いました 私財を鈴やの為に使って頂き
本当に感謝しています 心から御礼申し上げます」
「はい ありがとうございます でも 社員だったら当然ですよ
GOLで早期撤退はしたくありませんからね」
時田が
「社長 お話したとおりの人間です 頼もしいではありませんか」
「そうだね 時田さんが3億 私が4億 神山さんが2億
絶対に潰してはいけませんね 時田さん」
「ええ 鈴や食品の副社長ですから 大丈夫ですよ」
神山は鈴や食品ブースの予算のからくりを初めて聞いて驚くのと
同時に責任感が沸いた
結局 最初から鈴や食品の予算は3億しかなく 10億にしたのは
二人の私財出資でできた数字だった

4人がシャンパンを飲み終わり権田が出て行くと時田が
「洋子 山ちゃん これ少ないけれど気持ちじゃ
それから今日は理事達もはずむだろうから 誰か来て貰った方がいいな」
神山は頷くと催事課の杉田と屋敷を呼んだ
杉田と屋敷は副社長室に入った事が無く 秘書室前で探していると
「催事課の杉田さんですか」
「はい 神山先輩から副社長室に来るよう言われたんですが
副社長室が何処だか 分からないんですよ 何処ですか?」
秋山由実子はつい数ヶ月前の神山とオーバーラップし クスクス笑い
「こちらですよ どうぞ」
秋山に案内され 杉田と屋敷が部屋に入ると秋山は堪えていた笑いを
堪えきれずに 笑い出してしまった 時田が
「どうした 秋山君」
「ええ 数ヶ月前の神山次長とそっくりなんですよ
物怖じしない態度は ほんとそっくりでした ふふふ」
杉田は何を言われているのか分からなかったが
「でも ただ副社長室を探していただけですけどね 可笑しいのかな テツ」
「いいんじゃないですか 可笑しくないですよ」
それを見ていた時田はニコニコして杉田を呼び
「だいぶ力を付けて来たみたいだね 奥ちゃんからもいい報告を聞いている」
時田はそういうと席に戻り 引き出しから50万円出し
「杉田君 ほら こちらに来なさい」
杉田が時田のところに行くと お小遣いと言われ封筒を貰った
屋敷にも手渡しで5万円を渡すと
「山ちゃん いい部下を持ったな そして育っているな いいことだ」
神山はお辞儀をしながら 挙式の事を考え
「実は社長 翔は9月23日にホテルオートモで挙式と披露宴を行います
是非 ご出席をして頂き ご祝辞をお願いします」
杉田本人は信じられずにきょとんとしていると神山が
「翔 ちゃんと挨拶をしろ ほら」
「しゃ 社長 お お願いします、、、」
杉田はそれだけ言うと 神山と同じようにお辞儀をした

「杉田君 おめでとう 分かった出席させて頂くよ
中村君 9月23日は空けてくれ いいな」
「はい 分かりました 行方不明にしておきます」
杉田と屋敷は意味が分からなかったが 神山や洋子は大笑いした
「でも 杉田君 凄いな オートモとは」
「はっ はい 先輩と内藤さんのご協力です はい」
「ははは そうか 山ちゃんの仕掛けか なるほど それで
相手の方は 何処の方だね」
「はい アルタで受付をしています」
「はあー 内藤さんのところか ははは これは大変だな 山ちゃん」
「ええ 門出を精一杯盛り上げてください お願いします」
「うん 山ちゃんに言われたら なんでもするよ ははは
そうだ 理事にちゃんと宣伝しておきなさい いいね杉田君」
「はい 分かりました ありがとうございます」
時田は中村部長を呼び 小さな声で指示をだすと
中村はにこやかな顔で頷き 直ぐに部屋を出ていった
「秋山君 シャンパンもうないか」
「ございますが」
「うん 開けて来てくれ 今日は目出度い日じゃ」
時田は杉田と屋敷にソファーを勧め シャンパンが来るとみんなで乾杯した
杉田は時田と以前話しているので 物怖じせず接する事が出来たが
屋敷は緊張し シャンパンをジュースのように飲んでいた
神山が注意しようとした時 杉田が気が付き
「テツ このお酒はジュースじゃないんだ 味わって飲むんだ もう」
「はい でも 緊張していて はい 分かりました」
やり取りを聞いていた 時田や秋山は神山の後釜が出来たと思った
暫く飲んでいると中村が戻ってきて時田に
「用意して頂きました 一様に驚かれていました」
「ははは そうだろう 若いのにオートモとは あっ ははは」
杉田は自分の事を言われていると思ったが 感知しない事にした
「じゃ 山ちゃん 理事のところへあいさつ回りしてきなさい」
「はい お心配りありがとうございます 翔 挨拶だ」
杉田はやはりと思い
「時田社長 ありがとうございます 23日はお願いいたします」
二人で深々とお辞儀をして部屋を出ると フロアから拍手が沸いた
屋敷が神山の隣を歩いているので 杉田が注意して
「テツ 主人公は先輩なの テツは下がるんだよ もう」

神山が各理事に挨拶し終わると 杉田が
「私 催事課の杉田です この度 結婚をすることになりました
これには 神山先輩や田所先輩のお力で 縁を作って頂き結ばれる
運びになりました さらに式場も甘えさせて頂きました
ご招待状を持参させて頂きますので ご検討をお願いいたします」
「うん 分かりました 頑張ってください
山ちゃん よかったね 頼もしい若者が育ってくれて」
「ええ 是非 ご出席をお願いします」
「大丈夫だよ 開けておきます そうそうはい お祝いです杉田君
式場は また別だから 安心しなさい お小遣いだ 大切に使いなさい」
神山と洋子 杉田と屋敷はこのように全理事を回り 次長室に戻った
「翔 ありがとう よかったな 理事に覚えて貰って」
「はい ありがとうございます」
「これから がんばってな」
神山はそういうと席の引き出しから 5万円を出して杉田に渡し
「屋敷君と 美味しいものを食べなさい」

杉田は部屋に戻ると 理事や部長から貰ったお小遣いを見て驚いた
全部で1600万円もあり どうしたらいいか分からず神山に電話した
「ははは 大切に使いなさい そう言われただろ
それから みんなに言いふらさない事 お礼は会った時にすればいい」
「はい 分かりました」
奥村課長が現金を見て
「翔 どうした そのお金」
「内緒ですが ちょっとだけお話しますね」
杉田は掻い摘んで説明すると
「あーあ 山ちゃんと理事のところに挨拶に行きたいなぁー」
「課長 時田さんと仲良くならないと 駄目ですよ」
「な なに 時田さん 翔 副社長だぞ あーあ もう翔に抜かれた」
「おう 翔 時田さんと話してきたか」
「ええ お小遣い頂きました」
「ははは それは立派だ 大したものだ いくら貰った」
「ええ50万円です」
「えっ おう50万円か 呑みに行こう」
「駄目です 大切に使いなさいって 時田さんも神山先輩も言っていました」
「おう いい先輩を持ったな もう いいなぁー なぁ奥ちゃん」
「ええ ほんとですよ でも山ちゃんは凄いですね
次長常務で全店でトップ3ですよ 池上店長を抜いて 鈴や食品でも
副社長 アルタでも副社長 出世街道超スピードですよ」
「ニーナ・ニーナでもアドバイザーで副社長と同格だろ たいしたもんだ」
「ほんと 催事課の器じゃないと思っていましたが これほどとは」
そんな話をしていると池上店長が部屋に入ってきた

「奥ちゃん ちょっと」
催事課の会議室にはいると
「今 時田副社長から電話で特別人事の話があったんだ」
「ええ 外商でしょ」
「うん 今日の電話は杉田君の進級の話だ」
「えっ 翔が進級ですか、、、はあ、、、」
「9月23日にオートモで挙式だそうだね」
「えっ 何も聞いていませんが オートモですか 翔が、、、へぇー」
「山ちゃんと内藤さんが仕掛けたそうだ」
「はぁー あの二人なら仕掛けますね」
「それで 全理事に出席をお願いしたんだと」
「えっ 全理事にですか、、、はぁー、、、」
「副社長も出席されると言われているんだ」
「えっ 副社長もですか、、、凄い事になりましたね」
「そこで 今 人事で調べたが あと1年で課長なんだ でも副社長は
早く課長にしてあげろ って もうこちらも大変なんだよ 奥ちゃん」
「わぁー そうすると人事考課の変更ですか」
「うん 出来るところまで あげてくれ いいね ほら銀座店の事だろ
本社のように 行かないところがあるから」
「はい ありがとうございます では副社長にお礼の電話を入れます」
「うん 今日は凄く機嫌がいいよ そうそう屋敷君がシャンパンを
がぶがぶ飲んでいたら 杉田君が注意したんだそうだ
それが 山ちゃんとオーバーラップした様子みたいだ
物怖じせず 堂々と話せるところは山ちゃん譲りだとさ よかったな」
「はい わかりました」

池上店長が催事課の部屋から出ると奥村は杉田を呼び
「翔 池上店長からだ 8月1日に課長だ」
「えっ 本当ですか もう うそ言って 僕のお小遣い狙っても駄目です」
「違うよ 副社長命令だよ これは」
奥村は池上との話を掻い摘んで伝え
「なので 副社長の期待を裏切らないよう 行動してくれ いいね」
「でも 普段の行動していれば 大丈夫でしょ わかりました」
「しかし翔も 凄い人をバックにつけたな 大したものだ」
杉田は席に戻ると 現金を鍵のかかる引き出しに入れた

次長室では神山が洋子とご祝儀を見て驚いていた
「凄いお金ね」
「うん 洋子も一杯貰ったね すごいね ほんと」
神山は副社長と全理事から3億2千万円貰い 洋子も1億6千万円貰った
「アルタは11時だから 10時30分に出よう」
「はい 分かりました そうすると銀行にいけないわね」
「うん ロッカーに仕舞っておこうよ」
洋子と神山は現金をロッカーに仕舞い鍵をかけた

アルタに少し早く着くと 洋子が美佳に
「おめでとうございます よかったわね」
小谷美佳は顔を赤らめ 丁寧なお辞儀をした
「でも まだ信じられないんですよ オートモで式を挙げるなんて」
「大丈夫よ そうそうゴルフの時の仲間を呼んであげればいいわ
みんな独身でしょ 羨ましがるかな ふふふ」
「そうですね そうします でも 大丈夫かしら 日曜日って大変でしょ」
「大丈夫よ 早めに連絡すれば ねっ」
「ええ 後で住所と電話番号を教えてください」
「はい ではFAXしますね」
「お願いします」
3人が受付で話をしていると 内藤が来て
「やあ 山ちゃん 早いですね」
「ええ 最初から遅れると不味いですからね」
「そうしたら 会議室に行きましょうか 準備は出来ています」
3人はエレベーターで会議室に行くと 秘書課長の案内で席に座った
会議室は過日の役員が全員並んでいて 内藤社長が辞令を読み始めた
「神山 龍巳 殿 右のもの 本日を持って株式会社アルタ
担当副社長を任命する
平成10年7月1日 株式会社 アルタ 社長  内藤 一哉」
神山が辞令を受け取ると 丁寧にお辞儀をして下がり 洋子が呼ばれた
「田所 洋子 殿 右のもの 本日を持って株式会社アルタ
担当副社長 神山 龍巳の専属秘書理事を任命する
平成10年7月1日 株式会社 アルタ 社長  内藤 一哉」
洋子も深々とお辞儀をすると 辞令を手にし 席に戻った
儀式が終わり役員からは拍手が沸いた

役員が部屋を出て3人が社長室に入ると内藤が
「しかし山ちゃん 味方に付けてよかったです もし敵なら
私の会社は 完全に潰されていますよ」
「そんな事は無いでしょう まずGOLの成功を目指しましょう」
「ほんと 山ちゃんに任せておけば 大丈夫ですね
真面目に 社長を変わりましょうよ」
「ははは それだけはご勘弁ください まだまだですよ」
3人は大笑いし 内藤が
「そうそう オートモの件ですが 入金を確認しましたと
先ほど連絡がありました ありがとうございます
山ちゃんの方にも 連絡が行くと思います」
「内藤さん 杉田の招待客ですが 時田副社長がご出席されます
あと 本社の全理事にもお願いしてきました」
「やりますね 分かりました 私の方も全員出席させます」
「ありがとうございます 硝子屋が喜びますよ」
「そうですね 期待しています それではこれは お祝い金です どうぞ」
内藤は神山と洋子に祝儀を渡すと
「山ちゃん 副社長が各役員室にご祝儀を貰いに行くのも 変な構図なので
ここに纏めてあります 包みの上に役員名が分かるようにしてあります」
内藤はそういうと 紙袋を席の後ろから4つ出し
「こちらは山ちゃん こちらは田所さんです」
神山はお辞儀をして 紙袋を受け取ると重く 洋子の分を一つ持ち
社長室を後にした

次長室に戻り神山と洋子は普段着に着替えると
「洋子 お疲れ様 ほんと疲れたよ ははは」
「お疲れ様でした でもこれから大変ですね」
「なにが、、、」
「だって 今までと違うところで お仕事が増えるでしょ
例えば 会社の役員会とか出席しなければいけないし」
「うん そこは毎回出席しなくてもいいと 言われているんだ
でも 他にも理事があるから 困ったものですね」
「デザインのお仕事だけでは無くなったでしょ 私には出来ないわ」
「まあ 何とか成るさ 駄目だったら 止めればいいんだし」
神山と洋子はアルタの祝儀包みを開けて驚いた
「洋子 アルタって役員が10人だったよね」
「ええ 列席されていた方は10名でした どうされたんですか」
「内藤さんが5千万円で役員分が2億円あるんだ」
「私も社長から3千万円と1億あります 凄いわね」
神山は銀行に電話をして 職員に現金を運んでもらった

銀行に行くと大口預金の部屋に通され 機械が現金を数えると
「神山様 6億円でよろしいでしょうか」
神山が頷くと 入金手続きがされ 通帳に記入された
洋子も入金を済ませると 通帳を見てニコニコしていた
次長室に戻ると神山が
「洋子もスイス銀行に 口座を作ればいいのに」
「ふふふ 今ね 申請しているの もう直ぐ申込書がきます」
「そうか そうだよね さあ お昼は何処にしようか」
二人でお昼を相談していると電話が鳴り洋子が出ると
「まあ おじ様 どうされたんですか」
「うん 権田さんが しめ鯖の美味しいのを食べたいって話だ
どうだろうか 上原の寿司屋は」
「はい お店に聞いてみます」
洋子が神山に説明すると
「しかし どうだろう こればっかりは はいそうですかって訳にはねぇー」
それでも神山は駅前寿司に聞いてみると女将が
「今日は 美味しいのがありますよ どうぞ来て下さい」
「そうしたら2尾取って置いてください これから伺います」
神山は電話をきると 時田に電話をした
「まだ頂いていませんが 美味しいそうです 2尾キープしました」
「分かった ありがとう そうしたらこれから下に来てくれ」
「はい 分かりました 伺います」
電話を切ると洋子と支度をして 本社ビル1階で時田と権田を待った
暫く待つと時田と秋山由実子 権田とその秘書がエレベーターから
降りてきた
神山は二人にお辞儀をすると 洋子がその秘書に
「加奈子さん お久しぶりです」
「まあ洋子さん お久しぶり 偉くなられたのね 羨ましいわ」
「神山常務のお陰です」
「私なんか まだ課長よ ねぇ社長」
権田は何も言えず困っていると時田が
「おいおい 秋山君も課長だ そう背伸びをする事無いだろう ははは」

権田社長の秘書 前田加奈子は田所と同期入社で 名古屋本社では
人事課を勤務し 数年前に社長秘書になった
東の田所 西の前田と言われ 二人とも才色兼備だった
「まあ こちらが神山常務ですか 前田です よろしくお願いします
本日は社長の我侭で 申し訳ございません」
「はい ご光栄です ありがとうございます」
洋子がタクシーを拾うと 神山が運転手に
「後ろから2台付いてくるので 信号では離さない様注意してくださいね」
神山たちのタクシーの後ろに 時田の車 その後ろに権田の車が続いた

6人が上原の駅前寿司に入ると 女将が席を作り
「神山さん いつもありがとうございます」
「あれっ そちらは利用できないの」
「ええ 以前来られた 時田様の予約でして」
みんなが笑い 神山が
「女将 ほら時田さんだよ もう しっかり覚えて」
女将は時田を見て
「あら ごめんなさ さあ それではこちらを利用してください」
テーブルを2卓併せ 大きな座卓にし 権田と前田が座り
反対側に秋山、時田、神山、洋子と並び座った
神山が女将に注文しようと席を立つと 女将が料理を運んできた
「大丈夫ですよ 神山さん いつものように美味しいのを持って来ます」
神山は礼をいうと 女将は生ビールを運んできて
「しめ鯖はあの時と同じくらい 美味しいよ よかったね」
「ほんと ありがとうございます それで余ったら 握ってお土産」
「はいはい 心得ていますよ 大丈夫ですよ」
二人のやり取りを聞いていた時田が権田に
「社長 お聞きになりましたか」
「うん 時田君の言うとおりの男だな 大したものだ
時田君が惚れるのも分かる 大したものだ」
権田も神山の人柄に惚れていった

つまみでしめ鯖が出されると 時田と権田は美味しいを何回もいい
「実に美味しい 神山さん いつもこんなに美味しいのを食べているのかね」
「ええ 仕事ですから食べて呑んでます ここは安くて美味しいです」
「ははは 仕事か そうだ髭は元気か?」
「ええ 倉さんや催事課全員元気ですよ」
「うん いいことだ 時田君 頼もしい常務だな」
「ええ 夢を現実にしますからね 大したものです
鈴やの社員でよかったですよ 敵に廻したら 潰されます ははは」
「そうか 潰されるか うん 分かるような気がするな ははは」
3人の男たちがしめ鯖や鮮魚のつまみを食べていると
店の玄関が賑やかになり 神山が見てみるとNNの面々が入ってきた
筒井は直ぐに時田と神山を見つけ 祥子などに静かにするよう指示し
「時田副社長 ご無沙汰しています 山ちゃんおめでとう」
「やあ 筒井君か 社長がいらっしゃる」
筒井は権田にお辞儀をし挨拶をした
「筒井さん まあまあ 仕事抜きだよ そこのお店 良かったですね」
「ええ 全て山ちゃんのお陰です 助かりました」
「そうか 神山さんのお陰か うん 楽にして食べてください」
筒井は楽にしろと言われても 緊張していた
隣の座卓に案内され 席に着くが 背中合わせに権田が居ると緊張した
神山が気配を察し祥子に
「久保さん 僕からのプレゼントですよ 女将 出してあげて
それから お目出度い日なので ビールや日本酒もお願いね」
「はいよ 大丈夫ですよ じゃしめ鯖も出していいの」
「ははは もう1尾追加して 余ったら仲間に握りにしてお土産でお願い」
権田は神山の気の配り方や 周りを見る感覚が鋭いと判断し
「神山さん いつもそうなんですか」
「ええ 普段と一緒ですよ なにか? ねぇ洋子」
「社長 神山はほんと スーパーマンです でもね ふふふ」
「おいおい 余計な事言わないの もう」
「ほう スーパーマンか 大したものだ」

洋子はアレックスとの出会いやJrとの出会いなど 掻い摘んで説明し
「ほお スーパーマンだな 凄いですね 神山さん」
「あのー 社長 神山さんは辞めてください 山ちゃんでお願いします」
「そうか 山ちゃんか 分かった 前田君 山ちゃんだ 分かったね」
「はい これから人事発表も山ちゃんで行きましょう」
6人は大笑いし 箸を進めた
「ところで山ちゃん こっちはどうなんだ」
権田は小指を立てて 神山に聞いた
「、、、、、、、」
神山が答えられないでいると 洋子が
「ふふふ そこだけスーパーマンじゃないようです」
「そうか 勿体無いない話だな」
前田が
「だったら 私が誘っちゃおうかな いいかしら洋子さん」
「ええ いいわよ でもどうかしら ねぇ神山常務」
神山は下を向いていたが
「あのね 洋子さん もう苛めなくてもいいでしょ
折角の料理が不味くなるし ねえ 秋山さん」
秋山は突然振られたが クスクス笑いながら
「頼もしいスーパーマンを 苛めると潰されますよ 苛めない方がいいわ」
「おっ さすが秋山さん ありがとうございます」
「しかしね 神山常務 ファンとしては結婚して欲しいし 欲しくないし
凄く 複雑な思いをしているんですよ 分かるかしら」
「はぁー 済みません うぶですから 乙女心が分からず」
「本社の8階では 殆どの女性が神山常務のファンですよ ご存知?」
「えっ 全員ですか、、、知らないです せいぜい人事の子だと
思ってましたが 全員ですか 参ったな ねぇ洋子」
「知りませんよ ご自分が鈍いんです もう 私も大変なんですから」
「へぇー なにが?」
「もう 貴方と話したくて電話が来ても 私が処理をしているの」
「そうか ありがとう へぇー」
時田と権田はニコニコしながら 話を聞き箸を進めていた







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