2012年4月8日日曜日

出会い 1 - 1 Vol. 2



ボーイは神山と久保に対して深々とお辞儀をした
「ところで このフランスパンって どこから仕入れているの?」
「本当はお教えすることが出来ないんですが、、、
実は鈴やさんで買っているんですよ」
「えっ 鈴やで、、、買っているんですか、、、」
「内緒にしてくださいね お願いします」
そう言うと ボーイは再び深々とお辞儀をして戻っていった

「えっー うちで売っているんだって 参った ははは」
「まぁ 灯台下暗しですね ふふふ」
「ほんと でも聞いて良かったよ こんなに美味しく食べられる」
「そうね 私も頭に入れておきます モッツァレラと相性抜群」
「でもモッツァレラって うちでも売っているのかなぁー」
「聞いてみますか?」
「いや 聞かないよ もう恥じをかきたくないもんな」
「けっこう 鈴やさんだったりして」
「かもね 可能性大だよ 僕が上野に居た頃は確か無かったと思う
でも 食文化が少しずつ変わっているから 分からないね
けっこう 銀座店にあったりしてね ははは」
「モッツァレラの美味しいのが 赤坂にあるのよ
でもみんな知っているから 直ぐに品切れになるそうよ」
「そうなんですか モッツァレラってそんなに違うんですか」
「うーん クリームの配分だと思う」
「へぇー 良くご存知ですね」
「まぁ私も少し知っているだけよ 専門家に怒られる ふふふ」

二人がモッツァレラやフランスパンで盛り上がっていると
奥のステージのほうでカラオケが始まった
「始まりましたね 久保さん 何か歌いますか?」
「今日はここでのんびり聞いています 神山さんこそ歌って」
神山はボーイを呼ぶとカクテルの御代りとカラオケを注文した
ここビーンズではカラオケにちょっとした工夫がされていた
一曲歌うのに1000円かかるが 歌い終わった後の拍手や
歓声で点数が表示され 1000点満点出ると無料になる仕組み
いくら下手な人が歌い点数が低くても その後マスターが
お客さんを笑わせると点数がどんどん上がるようになっている
なので 音痴の人ほど点数が高くなり 支払い金額が安くなる
神山も先日挑戦した時には やはりマスターの助けで安くなった
だからといって 同じ人が何曲も続けて歌うことはしないで
お客に順番に歌わせることや 時間を空けることなど
その場の雰囲気でマスターが調整をしている

「えー ありがとうございました 次は神山さまどうぞこちらまで」
神山は呼ばれると久保にVサインを出してステージに向かった
「いらっしゃいませ 神山さま あれっ先日も来られましたよね」
「ええ お邪魔しました ありがとうございました」
「ああっ 思い出しました ジュリーの歌で700点出されて」
「そうです そのあとマスターのお陰で 100円ですみました」
神山がニコニコと受け答えをしていると 客席からは早くも
やんやのかっせいが飛び交い すでに点数が上がっていった
「あらら 点数がこれだけ上がっちゃいましたよ
もう今夜は気が楽ですね」
点数ボードは600点を表示していた
「ところで 今夜は再度ジュリーに挑戦ですか?」
「ええ お願いします 今夜は頑張りますよ」
「そうですね 先日は若い男性が応援していましたが
今夜はどこかの女優さんかモデルさんとご一緒ですね
ここでいいところ見せないと 男がすたります 
さあ今夜は ジュリーの勝手にしやがれ でーす どうぞー」
名司会の紹介で神山は歌を歌い始めると 客から手拍子も出て
順調な滑り出しで 歌うことが出来き無事に終了した
「ありがとうございましたー さあ皆さんの拍手をお願いしまーす」
客席から拍手や歓声が上がり ボードの点数が920点までいった
「神山さん やりましたね おめでとうございます」
「毎回 助けて頂いて ありがとうございます」
「いやいや 今夜は曲自体も良かったですよ
そうそう 今夜は特別にプレゼントがあります
900点オーバーされた方には当店の割引チケットを
差し上げています どうぞお帰りの時にご利用ください」
「わはぁー そんなにして頂いて ありがとうございまーす」
神山は両手をあげて客に挨拶をすると
マスターからチケットを渡され 席に戻った

「神山さん お上手 おめでとうございます」
「いやぁー 恥ずかしいですよ マスターのお陰ですから」
「そんな事無いですよ お上手です」
神山は久保祥子とチケットを見てみると
『ドリンク・おつまみ 50%OFF』と印刷されていた
「わぁー 50%割引になるんだって 凄いなぁー」
「本当? そんなに安くして大丈夫なのかしら」
「大丈夫でしょ どこかで儲けているんでしょう 心配ないですよ」
「そうね よその事心配しても始まらないですね」
「そうですよ そうしたらカクテルを御代りしましょう」
神山はボーイを呼ぶとカクテルとおつまみの御代りを注文した

カラオケはこのステージ神山が最後で静かなBGMが流れだした
ステージよりの広場にはチークダンスをするカップルが何組かいた
(うーん 誘って断られるのも嫌だし 我慢するか)
久保祥子は神山がダンスをしているところを見ているので
「ねえ 踊りましょうか」
「えっ 今 踊りましょうって誘ってくれたんですか?」
久保祥子は笑みを浮かべて頷いた
神山は直ぐに立ち上がり手を差し伸べると
「少し熱くなってきたわ ちょっと待ってね」
久保祥子は濃紺のジャケットを脱ぐと見事なバストを見せた
(わぁー 大きいなー)
神山は久保祥子のバストに目が釘づけになると
「まあ 神山さん 鼻の下が伸びていますよ」
はっと気が付き 久保祥子の顔を見ると 笑っていた

ダンスを始める時に神山は手にかいた汗をパンツで拭き
「では お願いします」
久保祥子にお辞儀をすると 笑いながら
「そんなー 私こそお願いしまーす」
二人は顔を見合わせて 笑ってしまった
神山がぎこちなく背中に手を回すと 
久保祥子もそれに合わせ 両手を神山の首に絡めた
スローなリズムにステップを合わせ 久保をリードすると
ニコニコしながらステップを併せてきた
「神山さんて お上手ですね」
「そんな事無いですよ」
久保の目を見ていればよかったが どうしても胸に移ってしまう
(困ったなぁー 目の前でチラチラされると)
楽しいはずのチークダンスが 少しばかり重荷になった
2曲目が流れてきた時に久保祥子が
「神山さん どうされたの 何か心配事でもあるの?」
「ううん なにもないけれど なんで」
「うーん 楽しそうな顔していないから」
「ははは そんな事無いよ」
(もう どうにでもなれ)
神山は背筋を張ると久保の胸に当たりそうだったが
構わず姿勢をただし踊る事にした
久保祥子はしゃっきとした神山の胸に体が触れるようにした
神山は片手を久保祥子の腰まで落とすと 引き寄せるようにし
上手にリードすると 久保祥子も腰を押し付けてきた

4曲目が終わるとさすがに疲れたのか 久保祥子が
「少し休んでいいですか」
「ええ 僕もいまそう言おうと思っていたんですよ 休みましょう」
二人は手をつないでテーブルに戻る途中に 神山がボーイに
「生ビールを2つお願いします」
「はい すぐにお持ちいたします」
テーブルに戻るとボーイが生ビールを運んできてくれた
「お疲れ様」
「ほんと 4曲も続けて踊ったの初めて お疲れ様」
二人は見つめ合いながら 生ビールで乾杯した
「神山さんて 本当にお上手です 感心します」
「そんな事無いですよ 久保さんも上手に踊っていましたよ
正直 ほら あのーバストが当たると思って そちらばかり
気を取られていたんですよ でも当たったら最後
マイペースで 足を運べましたけれどね ごめんなさい」
久保祥子はやっぱりそうだったんだと思い
「最初 なにか背中を丸めている感じで 
それに楽しそうな顔をしていなかったから 私から当てたの」
久保祥子はそれを言うと 手を口に当ててクスクスと笑った
「なんだ 全部お見通しか 参ったなぁー ははは」
生ビールを呑みながら 色々と話していると楽しい時間が過ぎた
久保祥子が時計を見ると 24時少し前だった
「神山さん もう24時になりますよ 大丈夫ですか」
一瞬迷ったが タクシーで帰ることに決め
「ええ 僕は大丈夫ですが 久保さんは平気ですか?」
「ええ 私 明日はゆっくり出る事になっているので大丈夫です
ところで神山さんのお住まいは どちらですか?」
「僕は横浜ですよ 駅から歩いて10分くらいかな」
「そうすると毎日 満員電車で 出勤されているんですね」
「ははは そうです もう大変ですよ
先ほどのエレベーターどころの騒ぎではありませんよ」
「まあ そんなに込んでいるんですか」
「そうですよ 周りに女性が居れば多少なりとも
精神的にも気分が楽になるんですがね 男ばかりだとねぇ」
「まぁ 女性が居るとどうなんですか?」
「ほら あのー この子は独身なんだろうか とか色々と
妄想の世界に入り考える事が出来るでしょ 時間つぶしですよ」
「そんなに込んでいると本も読めないですよね」
「本なんて とんでもない 両手を開けていないと大変な事ですよ」
話をしているといくら時間があっても足りないくらいだった

今度は神山が時計を覗いてみると25時になりそうだった
「久保さん もう25時になりますよ そろそろどうですか?」
「そうですね そろそろ出ましょうか」
「そうしましょう」
神山は立ち上がると 久保の手を取り転ばないよう気をつけた
しかし久保は段を踏み外し 神山の腕に体をあずける格好になった
その時ちょうど腕の中に胸が飛び込んできて
(おいおい 大きな胸だな 柔らかそうでいいなぁー)
「ごめんなさい 少し呑み過ぎたかしら」
「大丈夫ですか 僕がもっと支えていれば良かった ごめんなさい」
「優しいですね 大丈夫ですよ」
二人は顔を見合わせて また笑った

神山が精算をしてエレベーターで降りて外に出ると涼しかった
久保の横顔を見てみると 少し上を向いて目を細め
正面から来る優しい風を気持ちよさそうに浴びている様子だった
「あーあ 久しぶりよ 楽しかったわ」
「うん 僕も楽しかったよ ありがとうございます」
「どういたしまして ねえこれから横浜に帰るの?」
「ええ ビーンズで半額になったしタクシー代が出ますから」
「えっ そんなに高かったの あそこ」
「いやいや そんなに高くないですよ ただ半額になったから
タクシー代に少しまわせるという事です」
「ここからだとどのくらいかかるの?」
「そうだな1万円はかかるかな」                             
「えっ 1万円 勿体無いわ 私のお部屋でよかった来ませんか」
「また ご冗談を」
「だって1万円でしょ 私だったら泊めて貰うわよ どうぞ」
「そうか 本当にいいんですね 僕は男ですよ」
「分かってますよ 女じゃない事も ふふふ」
「そうしたらタクシー代 僕が持ちますよ でっ どこですか?」
「代々木です」
「そうしたら20分もあれば大丈夫でしょ」
「もう少し時間がかかると思いますよ 少し奥ですから」
「じゃあ 早速タクシーを拾いましょう」
神山はここからだと 江戸橋から首都高に入ったほうが
近いと思い 秋葉原方面のタクシーを拾った

タクシーに乗ると運転手が
「どちらまでですか」
「ええ 代々木上原までお願いします」
「代々木上原のどこ」
「あのー上原3丁目の交差点でお願いします」
「上原3丁目でいいんだね」
「ええ 高速を使ってください」
「わかったよ」
久保祥子は神山の手をぎゅっと握り締めてきた
神山は久保祥子の顔をみて 大丈夫だよと頷いてあげた

久保は運転手が怖いのかずーっと黙ったままだった
神山はこの雰囲気がたまらなく嫌で 何でもいいから話そうと思い
「久保さん 代々木上原って もう昔からですか?」
「いいえ まだ入居して1週間も経っていないのよ」
「じゃあ それまではどうされていたんですか?」
「ずーっとホテル住まい」
「えっ ホテルで・す・か、、、」
「ええ 会社で年間契約をしてくれて 安く泊まれるの」
「へぇー 凄い会社ですね いいなぁー」
「でも 毎日同じお部屋だと飽きるわよ それにシングルで狭いの」
「そうかー シングルで狭いって言うと僕のところと一緒だ」
「まあ 神山さんのところって 狭いんですか?」
「うーん 住めば都ですかね 寝るだけですから」
「そうなんですか、、、」
「暫くしたら引越しをしてもいいかなと思っているんですよ」
「そうしたら 会社の近くがいいですね」
「でも 家賃が高いでしょ お給料と相談ですよ ははは」
実際 今住んでいる部屋は狭かった
10畳のワンルームなので もう少し広いところに移りたかったが
昇進や移動でなかなかゆっくりと部屋探しが出来なかった

「実は神山さんに教えて頂きたい事があるの」
「なんですか?」
「ええ 今度 上原にアンテナショップを出すんですよ」
「へぇー 凄いですね」
「ええ それでね 私が責任者で現場を見ることになったの」
「またまた凄いですね」
「でもね 図面の見方とか 色々と分からない事だらけなんです」
「いいですよ 分かる範囲で教えますよ」
「わぁー よかった ありがとうございます 嬉しいわ」
「とんでもない 僕でよかったら どんどん言ってくださいよ」
「頼もしいなぁー それでねホテルからマンションに移ったの」
「なるほど 現場に近いほうが 便利ですよね」
「そうなんですよ ただ名古屋に帰る日が少なくなって、、、」
「って言うと お子さんとかご両親の事ですか?」
「そうなんです 実は私 ばつ一で向こうに子供が居るんですよ」
「それは寂しい話ですね じゃあ僕が頑張りますよ」
「嬉しい ありがとうございます」
二人が話し込んでいるとタクシーは高速を下りて
久保祥子が指示した上原3丁目の交差点についた
「お客さん 着きましたよ」
「はい ありがとうございます」
神山が5千円札を出してタクシーから降りた

「ごめんなさい ここから少しだけ歩くの」
「いいですよ でもこの辺は高級住宅でしょ 凄いなぁー」
「上流階級の人達が多いから ショップに都合がいいんです」
「うん なるほど そうですね」
「駅のモールにニーナ・ニーナを入れて貰えるか否か 
大変な時なんです 結構小さいスペースなんですけど 
今 他のブランドと競っている所なんです」
「それは大変な時期ですね」
「ええ 地域的にはブティックが新宿にあるので 
無理して入らなくても良いとは思っているのですが
やはり上流階級が住んでいる場所の基点にしたいみたいです」
「なるほど それでアンテナショップですか」
「ええ ある部分ではその通りですが 服飾関係だけを
販売して行きたいとの考えなんです
私は少しスペースが足りないと言う事で反対はしているのですが」
上層部からの命令で どうしても確保したいのです」
「それは 大変なお仕事ですね」
「ええ ブティックがオープンしても満足な品揃えが出来ないし 
困っています」
「それなら ビジュアルマーケティングの基本的なことは
分かりますから いっぱい応援しますよ」
「わあっ 嬉しい」
久保祥子の顔が明るくなった
やはり 大切な事柄を抱え込んでいたのだ
まあ 自分なりに全力を尽くしてみるか


久保祥子は神山が勤務する株式会社鈴やが70%出資した会社で
ニーナ・ニーナジャパンという青山に本社がある会社に勤務している
役職はチーフで副社長直轄の部長になる
サブグランドマネージャーの筒井は出向社員だった
銀座店で婦人服飾部長を務め3年前にニーナ・ニーナに出向した
筒井と神山は上野店の時からの知り合いだった
神山がまだ入社した頃 装飾の打ち合わせで筒井とよく話していた
たまたま軽井沢で店外催事があった時 総責任者が筒井だった
その時 神山は婦人服の装飾コンセプトを筒井に聞いた
夜遅く何時に終わったか定かではないが 二人とも真剣だった
筒井も神山の若さと情熱を羨ましく思っていた
その筒井が 今 ニーナ・ニーナの副社長とは羨ましかった
いくら出向であろうと この様な美しい女性に囲まれて仕事が
出来るのならば 多少の苦労も吹っ飛ぶのではないかと考えた

親会社と子会社の関係ではないが 神山は銀座店にきてから
年2回開かれる新作展に出向くようにしている
上野店の時は客層が高い為 取扱商品群の年齢層が高く
品揃えや商品展開も大した事は無かった
しかし銀座店では全アイテムの商品展開が出来 
売り上げもまずまずの成績だった
今回の上原出店は筒井のアイデアらしかった


二人は手をつないで歩いていると 夜風が気持ちよく
神山は久しぶりに 楽しい夜が過ごせたと思っていた
「着きましたよ ここです」
「へぇー凄い可愛くしゃれたマンションじゃないですか」
「そうね 私もなかなか気に入っているんですよ」
久保祥子の住まいは小高い丘に建てられたマンションだった
6階建ての6階に住んでいた
エントランスにあるステンレス製のポストを見ると10部屋だった
正面脇にあるエレベーターの前にもう一枚自動扉のガラスがあった
久保祥子はインターフォン横にあるカードスキャーナーに
カードをスライドさせ 暗証番号を入力すると
正面の大きなガラスが静かにゆっくりと開いた
神山龍巳はこのガラスの大きさに驚いていた               
普通どんなに大きなガラスでも高さは2m50cm位だが
ここのは優に3mを超えていた
エントランスルームには心が和む光が落ちていた
天井が高いので かなり開放感を感じる事が出来た
床はチーク材の無垢フローリング材が敷かれていた 木目が綺麗で
たっぷりとワックスが塗られているのか靴の反響音がフロアに響いた
壁面はコンクリートむき出しが殆どで 
床材と同じチークとステンレスがアクセントで使われていた
シンプルなデザインの中にも木部の温もりを感じた      

神山がマンションの造りに見とれていると久保祥子が
「あのー神山さん 私部屋を少し片付けてきますから 
こちらで待っていてくださいね」
エレベータ横にある喫煙者用の待合室に案内された
「はい 分かりました 周りの夜景を見ていますよ」
「片付きましたら お迎えに上がります」
「はい お願いします」
そう言うと久保祥子はエレベーターのボタンを押して
箱が来るのを待っていた
扉が開くと久保が手を振るので 神山も手を振った

早速ソファーに座るとイタリア製のキャンバスソファーで
ふんわりして気持ちが良かった
テーブルもアルフレックス製でシンプルモダンで纏めていた
さすがに疲れたのか 目をつぶると睡魔が襲ってきそうだった
エレベーターの脇奥に扉とインターフォンが着いているので
多分管理人が住んでいると思った
建物自体は正方形に近い横長の造りで 
真ん中にエレベーターが配置されていた
(そうすると 部屋は結構広いんだな でも家賃が高そうだし
まあ当分の間は 横浜の狭いところでいいか)
神山はタバコが吸いたくなり灰皿を探すと
端のほうにステンレスの筒状の灰皿が置いてあった               
動かそうと持ち上げたが 床固定されていて動かせないので
仕方なくその場で立ってタバコを吸った
考えてみれば キャンバスにタバコの火が移ったら大変な事になる

神山龍巳は改めてエントランスを見渡すと 奥の管理人室まで
コンクリートだが 後は全てガラス張りでなかなかの造りだった
天井も普通3mもあればいいところ5mはゆうにある
神山は設計したデザイナーに敬意を評した
天井からの柔らかい光の下でタバコを吸いながら
新宿方面の夜景を眺めていた





次回は4月13日掲載です
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