2012年4月18日水曜日

出会い 2 - 2 Vol. 2



4人はグラスを差し出し乾杯をした
「おう 奥ちゃん 日本酒を頼んでくれよ もうビールはいいや」
「ははは そうですよね お昼から紐が切れたトンボですよね」
「おいおい 大事な仕事の話だぞ こらっ」
「はいはい ちょっと待って下さいね」
奥村は直ぐ傍にある電話で日本酒の注文をした

「それで 具体的にはどう進めますか 佐藤さん」
「ええ 筒井さんとも話しているんですが 上原のマンションの
賃貸借をニーナ・ニーナさんで行っていただき 私どもは
備品類のご提供をさせていただく段取りで進めています」
「大丈夫ですか 筒井さん」
「ええ 経費的にも環境的にも大丈夫ですよ
それに今 うちの久保君が居る事で 処理上やりやすいです」
「そうすると横浜の家賃か、、、」
「奥村さん 横浜は私どもが負担しますよ
横浜店がありますので 事務処理上問題ありませんから」
「そうですか 大丈夫ですね」
「ええ 横浜にも連絡はしてあります」
「分かりました あとは出向ですね 問題は、、、」

株式会社鈴やの決算は本決算が2月末日で3月から新しい期になる
それに伴って 4月1日に人事異動が発令される
今回の場合 準備を円滑に進めても最低8月末日まで動かせない
社内規定があり 奥村はタイミングが悪いと悩んでいた
「おう 店長は俺から話すから 副社長の時田さんは どうだ
普段顔が売れている 奥ちゃんが直談判したら」
「そうですね それしかないと思うんですよ」

みなが考えているところに女将が日本酒を持ってきた
「おう ありがとう ははは 助かるな なあ筒井ちゃん」
「ですね」
女将が倉元と筒井にお酌して 引き上げるとアルタの佐藤が
「奥村さん 私のところにも出向ってどうですか?」
「えっ アルタさんに出向ですか、、、」
「ええ 実際は上原の事務所で働いてもらいますが
便宜上それが可能であれば 構いませんよ」
「おう いいアイデアだ そうしたら内藤さんに一肌脱いで貰って
管財の西野理事を巻き込んだらどうだ 仲がいいだろう」
「うーん そうですね 話が大きくなりますね、、、」
「おう 西野理事だったら 時田さんも話を聞くだろう」
「ええ あの二人も仲良し組ですからね」
「じゃあ決定だ おう佐藤君 内藤さんに電話して頼んでくれ」
「はい 分かりました」
アルタの佐藤は携帯電話で内藤に電話すると
「分かりました メリットでデメリットは無いですね」
「ええ 大丈夫です 山ちゃんの事ですから 働いてくれますよ」
「彼の評価は充分すぎるくらい 知っていますし いいですよ」
「はい ありがとうございます」
佐藤が電話を切ろうとした時に 奥村が代わった
「鈴やの奥村です すみません 夜分にお電話をして」     
「やあ お久しぶりです 構いませんよ 
それで銀座には明日午前中に伺えばよろしいですか?」
「副社長のスケジュールを確認しますので 改めて電話します」
「はい お待ちしています 頑張ってくださいね」

奥村は秘書室長に電話をして スケジュールを確認した
「OKですよ 佐藤さん 内藤さんには私からしましょうか」
佐藤は内藤社長の電話番号を聞き架電をした
内藤も直ぐにOKし午前中に銀座に来る事が決まった

「おう よかったな これで全て丸く収まったな」
「倉さん まだこれからですよ もう」
「おう でも決まったも同然 喜ぶ顔が見えるな
ところで 本人は残業をしているのかな」
「いいえ もう帰ったでしょ なんでも上野店の営繕課で
歓送迎会があり その2次会に呼ばれていると言ってました」
「そうか 人気モンだな ははは」
「奥村さん 金子君でしょ 移動は」
「ええ 機械係に新人が入社したのと 熱海寮の寮長が体調不良で
長期療養になったんですよ 今までは人を雇って
なんとかやり繰りしたそうですが ほら機械や電気の事が
とんと分からない人で 奥さんも困っていたそうです」
「それで 金子君に白羽の矢が立ったわけですね」
「ええ 彼は人当たりもいいし 何しろ奥さんが美人でしょ
もう 言う事無いですよね」
「そうそう あんなに綺麗な美人をよく奥さんにしたよな」
「おう そんなに美人か」
「ええ 上野店でぴか一ですよ もうみんな憧れていましたから」
「あれ 倉さん知らなかったんですか 3年前かな有名な話ですよ」
「そうか そんな事があったなんて 知らなかったな」

「おじゃまします お料理をお持ちいたしました」         
「おう タイミングがいいな、、、」
「ええ 今度はちゃんと襖に耳を当てていましたから ふふふ」
みんなで大笑いすると 仲居も手伝い 料理を準備した

配膳が終わり 女将や仲居が引き上げると佐藤が筒井に
「どうでしょう 明日午前中にでも マンションに行きませんか」
「そうですね もう進めましょうか 奥村さんにお任せして」
「おう 大丈夫だよ 任せなさいって」
「私の方も 部屋の中に入れる段取りやケーブル関係を
確認する為に 業者も連れて行きたいんですよ」
「そうですね では11時ごろでいいですか」
「はい では11時に現場で待ち合わせでお願いします」


4月1日23時 上野 ビーンズ

「こんなしゃれたお店っていいな」             
「うん 山ちゃんも 時々来ればいいよ」
「ははは でもな ネコちゃんが居ないとつまらないだろ」
同期の二人はここでも同じテーブルに座り話し込んでいた
時々若い子とも話しをするが 気が合うのか二人で話すようになる

暫く呑んだり食べたりすると呑みのもを変えたくなり
「ネコちゃん カクテルでも呑むか」
「うん たまにはいいね」
神山がボーイを呼び 二人分マティーニを注文した
「それから カクテルに合うおつまみってなにがあるかな」
「それでしたら 美味しいチーズと
フランスパンを焼いたのが お口に合うと思われますよ」
「わかった そうしたら若いこの分も少し持ってきてよ」
ボーイはお辞儀をして 厨房に戻ると金子が
「どうだい 久しぶりにカラオケは」
「出来るの このお店?」
「うん 1曲1000円かかるけれどね」
「ははは 冗談だろ」
「でもな 仕掛けがあって 客の拍手が多いと安くなるんだ
どうだい ジュリーでも久しぶりに聞きたいな」
「ようし 挑戦してみるか」
「うん 山ちゃん上手だから 大丈夫だよ」
金子はそう言うとボーイを呼んで カラオケを注文した
暫くすると 可愛いウエイトレスがカクテルと
おつまみのチーズを運んできた
「美味しそうなチーズだね 生クリームみたいだ」
「食べて 美味しいよ」
神山は金子の勧めで カクテルを呑む前にチーズを食べた
フランスパンとの相性が良くて驚いた
「美味しいよ 凄いのを発見したな」
「だろう 俺もここで知ったんだ」
「チーズの名前は、、、」
「うん えーと 何だっけ 忘れた 舌をかむような名前だよ」
神山はボーイを呼んで聞いてみた
「はい このチーズはモッツァレラといいまして 固まる前の
ナチュラルチーズです」
神山は声を出さずに復唱して覚えた
「固まる前か そうするとフレッシュでないといけないな」
「うん でも1週間ぐらいは大丈夫だろう チーズだもの」
「そうか でも美味しいね」
二人が美味しいといっていると ステージが明るくなった
神山達が座った所からだと 一番奥にあるので気が付かなかった
今までかかっていたBGMがやむと ステージに男性が現れた

「こんばんわ 今宵もカラオケ5回目のステージを開きます
まずは最初に歌ってくださるのは 神山さまです
どうぞ皆様 暖かい拍手でお迎えください」
「山ちゃん がんばれ」
「うん 行って来る しかし派手だなぁー」
「ははは おいみんな 拍手だぞ」
若い子達は 金子に言われる前から 拍手をしていた

ステージに立つと 司会者が
「こんばんわ 神山さん 今夜の調子はいかがですか?」
「ええ 絶好調ですよ」
「今夜はジュリーの歌を歌ってくださるようですが
ジュリーより格好いいですね」
「ええ まあ でもやっぱりジュリーでしょ」
「はい 分かりました 頑張ってくださいね」
マスターが紹介し終わると イントロが流れだした
出だしは良かったが 途中で歌詞を間違えてしまい
失敗を考えている間に カラオケは終わった
「神山さま ありがとうございました 一箇所間違えましたが
歌自体は 大変お上手でしたよ」
「ええ 少し緊張して はい」
「では早速 拍手を頂きましょうか どうぞ」
歌い終わった時点で700点だったのが どんどんとあがり
「神山さま 900点出ました おめでとうございます
これでカラオケ代が 100円になりました」
「ああーなるほど こちらこそありがとうございます」

神山はマスターにお辞儀をすると金子が待つ席に戻った
「山ちゃん お上手 さすがだよ」
「ははは 一箇所とちっちゃったよ」
「愛嬌だよ 900点とったから千円から引くから百円ですんだ」
「面白い企画だね これなら誰でも楽しめるね」
「うん カラオケもマスターの気分で行われるんだ」
「ふーん そうなんだ」
「だから一人で何曲も歌えないしね」
「ふーん ますます面白いね」
神山はこれからいい女性ができたら是非連れて来ようと思った
ステージよりのスペースではチークダンスが始まった
「ははは さすがに男どおしでは踊れないな」
「山ちゃん お相手しましょうか」
二人は顔を見合わせ大笑いをした        

「いやー楽しかったよ 山ちゃん 最後までありがとう」
「ははは 何言っているんだよ まだまだ合えるじゃないか 
それより今夜はどこに泊まるんだよ」
「うん 今夜は若いのと一緒に サウナに泊まるよ」
「そうか 俺のところでもいいぞ」
「ははは 男同士は勘弁してくれよ」
「ははは そうだな」
「うん」
「じゃあ なにかあったら電話くれよ」
「うん 山ちゃんも電話くれよ かあちゃん喜ぶからさ」
「そうか 分かった 電話するよ」
「うん」
「じゃあ」
神山と金子はまだ話したいことが一杯あったが
お互いの目を見て 握手をして分かれた

神山がタクシーに乗りマドから
「がんばれよー」
と叫んだが 金子は頷くだけだった
タクシーが発車すると 金子他若い子たちも一緒に手を振っていた
神山は時計を見ると26時を回っていた


4月2日 木曜日 快晴
神山は7階催事場で催事の立ち上がりを確認していた
「山ちゃん おはようさん」
「課長 おはようございます」
「昨夜は盛り上がった」
「ええ タクシーで帰宅したんですが 泣いちゃいました」
「うん 寂しいよな 仲良しが居なくなると」
「ええ 少し辛いですね」
「ところで ここは大丈夫?」
「大丈夫ですよ 什器も過不足ないし 商品も揃っていますよ」
「うん わかった それじゃあ 下に行こうか」       
「ええ」
鈴や銀座店は7階が大催事場で 地下に食品催事場がある
毎週水曜定休なので火曜日に催事の模様替えを行うが
今回はイレギュラーで 7階はクローズして火曜日から準備
地下催事場は 昨日模様替えを行った

地下催事場に行くと杉田翔が開店準備の手伝いをしていて
神山と奥村がきたことに気が付かなかった
「手伝いは良い事だけれど 自分の仕事は大丈夫かな」
「ははは 課長 大丈夫でしょ 言ってきますよ」
神山は翔の背中をポンとたたき
「飾りつけは 大丈夫か?」
「あっ先輩 驚かせないでくださいよ 大丈夫ですよ
ただ 桜の取り付けが予定より多くなって 困っているんですよ」
「なんだ 食品課長と打ち合わせしたんだろ」
「ええ 急遽一こま増やしたんですよ」
「そうか 倉庫にも無いのか」
「ええ 昨夜探したんですけれど 無かったです」
「鈴やサービスの高橋さんには聞いた?」
「ええ 今 事務所の奥に多少あるって言うので頼んでいます」
「うん そうしたら造花を手配したほうがいいな 多少でもあれば」
「そうですね」
「こんどの土日がピークだろう 言われると多少寂しいな」

神山と翔が話しているところへ 鈴やサービスの高橋哲夫がきて
「山ちゃん おはようございます」
「やあ ご苦労様 急遽のことで 悪いね」
「いやいや もう慣れていますから
翔ちゃん これだけしかないよ それに種類が違うよ」
「哲さん そうしたら この柱をこれだけに纏めようよ
それで外したのは 当初予定通りにしよう 間に合うよね」
「そうしましょ その方が可笑しくないし
おーい バイト 仕事だぞー」

二人のやり取りを見て神山は少しは成長したなと思った
神山も見ていないで造花を手渡ししたり 手伝いをした

作業が終わると 神山が
「翔 この方が全然いいな 追加したところは 食品が違うし  
かえってこの方が 訴求力があって面白いよ」
「そう言われれば そうですね 桜祭りでも ここは違うよって」
「そうそう そうしたら 看板もこの通路に移動したほうがいいな
ほら その方が正面から見やすいだろ この通路は 向こうから
桜が見えるけれど ここはなんだか分からないだろ」
「はい 先輩 さすがー」
「冗談はいいから 早くやれ」
神山の指示したところに看板を移動すると確かにエレベーターから
降りてきた客に看板が見えるようになった

店が開店すると 神山と翔は近くの喫茶店に入った
「先輩 ありがとうございます」
「翔 実はあの桜な 7階の桜なんだよ」
「わぁー いいんですか 使っちゃって」
「うん この時期桜って 造花屋でも不足するだろ
だから少し余分に注文してあるんだよ」
「なるほど それで哲さんもニヤニヤしていたんだ なんだ」
「ははは だから秋の紅葉は少し余計に注文することだね」
「そうそう 先輩 夏のリーフが使っていないのが出てきましたよ」
「ああ 2袋か3袋くらいだろ」
「ええ あれは今年使いますか」
「あれはね 発色が少し暗いんだよ だから使っても
アクセントで少し混ぜる程度だね
よかったら 地下の催事場で使っていいよ」
「そうか そういえば少し黒っぽかった どこで使えるかなー」
「まあ あることを覚えておけばいいよ」
「先輩 今日は公休でしょ お昼食べて帰るんですか」
「うん そうしようと思っている」
「それから 昨夜ですが うちの課長と倉さん 筒井さんと
多分アルタの佐藤部長が四季から出てくるところを見たんです」
「えっ アルタの佐藤部長が、、、」
「ええ ほら倉庫に行くのに鍵を借りに行ったんですよ
その足で 事務館のウラに回ろうとしたら 4人を見たんです」
「何時頃だ」
「確か10時過ぎですよ」
「なんでアルタの佐藤さんが」
株式会社アルタは施工業者で 催事課では殆ど使わない業者で
営繕課や家具装飾 住宅部門と取引のある会社だ
神山龍巳自身 上野店の営繕課の時にはよくアルタの佐藤部長と
呑みにいったりゴルフをしたりした事がある
そのアルタのナンバー1部長と催事課と筒井さんが打ち合わせ
神山は狐につままれた感じだった

「翔 なぜアルタの佐藤部長を知っている?」
「やだなぁー 先輩が銀座に来られて 整理している時に
ゴルフの写真が出てきてじゃないですか ツーショットで
ただあの時とファッションが違うので確率70%ですけど
だけど ぼくの頭の中では ピーンっときましたよ」
「あっ そうか あの写真だったら間違いないな」
神山は真実味が高くなったので 余計に分からなくなった

「翔 そろそろ出ようか 眠たくなった」
「ははは 年ですよ 昨日呑み過ぎでしょ 臭いですよ まだ」
「匂うか」
「当たり前ですよ 由香里姫にまた言われますよ」
「おいおい そんなに臭いか」
「うっそー」
神山が翔の頭をたたく振りをして 大笑いした
「今日は僕がご馳走してあげるよ 先に出ていいぞ」
「ごちです」
神山がカウンターで精算すると 翔が外で待っていて
「先輩 課長ですよ ほら あそこ」
「うん もしかしてアルタの内藤社長だよ なんだろう」
「先輩 あの建物って 本社でしょ なぜアルタと課長なんだ」
「おい もしかして 課長がアルタに引く抜かれたんじゃないか」
「えっまさか」
「だって 内藤さんが直々本社って事は秘書室 副社長だろ」
「そうか でもどうかな、、、」

神山は今起こっている事を整理したが 全然検討が付かなかった
昨日の翔の見た事が本当だとすれば 催事課の中に全く新しい
要素(仕事)が入ってくるか 後は全然分からなかった

奥村課長が副社長に会う事は 時々あるが組合連中が一緒で      
単独で面会した事は無いと思う
それがアルタの内藤社長が一緒だとすると 考えられるのは
管財の西野理事にあうということもある

事務館エレベーターで3階で降りて催事課の部屋に入ると
「わぁー びっくりした」
「やあ おはよう」
「山ちゃん 昨夜は何呑んだの 臭いー」
「ははは カクテルと焼酎と日本酒とビールかな」
「はい これ 飲んでおきなさい 多少和らぐわよ」
「サンキュー」
神山は自分の席に着くと翔が横から
「ほら 言われたでしょ」
「こら うるさい」
二人が笑っている所へ倉元が店内から戻ってきた
「倉さん おはようございます」
「おう 山ちゃん 昨夜は盛り上がったか」
「ええ 呑みすぎたみたいで みんなに臭いって言われてます」
「ははは いいことだ」
「倉元部長 おはようございます」
「おう 翔も戻っていたのか おはようさん」
神山は 今何が起きているのか倉元に聞いてみようと思ったが
当事者だった場合 絶対に口を割らないだろうと思った 

杉田翔は倉元の席に行きなにやらひそひそと話している
「おう 昨夜か あれは大事な話だ 翔には関係ないことだ」
倉元は神山に聞こえるような大きな声で返事をしていた
神山は素直に答えていないと感じ 何かが起きていると感じた


「筒井さん お待たせしました」
「こんにちわ 佐藤さん 私も少し前に来ました」
筒井は管理人室に電話をすると 中から扉を開けてくれた
管理人から部屋の鍵を借りて 6階の部屋に行った
佐藤は業者にケーブル関係や配線や全てを見るよう指示し
「筒井さん いいところですね」
「そうですね 眺めもいいし 仕事環境には最高ですね」





次回は4月23日掲載です
.